この記事を要約すると
- 相続人申告登記のメリット・デメリットについて
- 相続人申告登記の具体的なやり方について
- 相続人申告登記を行う際の注意点について
1. 相続人申告登記とは?
相続人申告登記とは、「①所有権の登記名義人について相続が開始したこと」と、「②自らがその相続人であること」を登記官に対して申し出ることで、法務局の登記官が職権でその相続人の氏名・住所等を登記記録に記録する登記のことです。
この申出をすることで、相続登記の申請義務を履行したものとみなされます(不動産登記法第76条の3)。相続人が申請義務を簡易に履行することができるようにする観点から設けられました。
1-1. 相続登記義務化の背景
2024年4月の法改正により、相続人が相続によって取得した不動産については、所有権を取得したことを知った日から3年以内に登記しなければならない義務が課せられました(不動産登記法第76条の2)。正当な理由なくこの登記義務を果たさない場合、10万円以下の過料が科せられる可能性があります。
この背景には、所有者不明の土地が全国で増加し、その結果、適切な土地管理や地域開発が妨げられている現状があります。相続登記を義務化し、土地の所有者情報を適時に把握できる状態にすることで、土地の有効活用や社会問題の解決が期待されています。
1-2. 相続人申告登記の役割
相続人申告登記は、相続登記を進める準備が整っていない場合に、登記義務を果たし、過料を回避するための一時的な手段です。
例えば、遺産分割協議がまとまらなかったり、必要な書類の収集に時間がかかるなど相続登記の期限に相続登記の申請が間に合わない場合が想定されます。そういった場合、この申し出を行うことで、相続登記の義務が果たされたとみなされます。
ただし、この手続き自体は権利移転を示すものではないため、最終的には相続登記を行う必要があります。
あくまで、「過料を回避するための応急処置」であることを認識しておきましょう。
2. 相続人申告登記のメリット
2-1. 手続きを簡単に進められる
相続人申告登記は、正式な相続登記と比べて非常に簡便です。
相続登記を行うには、故人の出生から死亡までの戸籍謄本や、相続人全員の戸籍謄本など、膨大な書類を収集しなければなりませんが、相続人申告登記の場合は提出書類が大幅に少なく、提出自体も手軽に行うことができます。
また、他の相続人の同意や協力を得る必要がないため、単独で手続きを進めることが可能です。
2-2. 過料の回避が可能
相続人申告登記を行うことで、相続登記の義務を果たしたとみなされるため、過料を回避することができます。
2024年4月以降、正当な理由なく相続登記を行わずに放置しておくと、10万円以下の罰金が科せられる可能性がありますが、相続人申告登記を行えばそのリスクを回避できます。特に、相続人が複数いて手続きに時間がかかる遺産分割協議がまとまらないケースでは、この制度が非常に有効です。
2-3. 低コストでの対応
相続人申告登記には、通常の相続登記にかかる「登録免許税」がかかりません。
通常の相続登記では、不動産の評価額に応じて登録免許税が発生しますが、相続人申告登記の場合、その費用は発生しません。
必要な費用は、戸籍謄本や住民票などの書類を取得するためのもののみであり、大幅にコストを抑えて手続きをすることができます。
3. 相続人申告登記のデメリット
3-1. 売却や抵当権の設定ができない
相続人申告登記は、あくまで相続人であることを示すものであり、相続財産の権利移転の登記が完了したわけではありません。したがって、相続人申告登記を行っただけでは、不動産の売却や抵当権の設定はできません。不動産を処分したり、担保として活用したりするためには、最終的な相続登記を行い、正式に権利移転が登記されている必要があります。
3-2. 最終的な相続登記が必要
相続人申告登記は、相続登記の準備が整わない場合に一時的な措置として行うものですが、最終的には正式な相続登記を行う必要があります。
遺産分割協議が成立し、不動産の相続人が確定した時点から3年以内に、正式な相続登記を完了させなければなりません(不動産登記法第76条の3第4項)。このため、相続人申告登記を行った後、遺産分割協議の結果、不動産を取得することになった場合には、通常通り相続登記を申請することとなり、二度手間になる可能性があります。
3-3. 登記簿に相続人の住所・氏名が記載される
相続人申告登記を行うと、申告した相続人の住所や氏名が登記簿に記載されます。
登記簿は誰でも閲覧することができるため、不動産業者などが登記簿を利用して、登記簿に記載された相続人に対して不動産売却の提案を行うことも考えられます。
4. 相続人申告登記の具体的な手続き方法
相続人申告登記は、相続登記義務化の一環として新設された簡易的な手続きですが、いくつかのステップをしっかりと踏んで申出をする必要があります。
手続きを進めるための必要書類と具体的な流れについて詳しくみていきましょう。
4-1. 必要書類の準備
まず、相続人申告登記を行うには、次の書類を準備する必要があります。
①戸籍証明書(戸籍謄本等)
以下の戸籍証明書の提出が必要になります。
■ 被相続人(故人)の死亡した日がわかる戸籍の証明書
故人の亡くなった日が記載された戸籍謄本(または除籍謄本)を提出します。
■申出人が被相続人の相続人であることがわかる戸籍の証明書
申出人が故人の相続人であること証明できる戸籍謄本が必要です。
必要に応じて古い戸籍も取得し、相続関係がわかるものを用意します。
■被相続人の死亡後に発行された申出人の戸籍の証明書
申出人の戸籍証明書は、故人が亡くなった後に発行されたものである必要があります。
なお、これらの証明書のうち、1通の証明書ですべての内容を満たす場合は、その証明書のみを添付すれば足り、同じ証明書を複数添付する必要はありません。
戸籍証明書(戸籍謄本等)は、それぞれの戸籍の本籍地にある市区町村に請求して取得します。
また、取得する戸籍が配偶者、直系尊属(父母や祖父母など)、直系卑属(子や孫など)の場合は、広域交付制度を利用して最寄りの市区町村で取得することも可能です。ただし、発行までに時間がかかることがあるため、余裕をもって準備を進めることをおすすめします。
②「戸籍上の被相続人」と「登記上の所有者」が同一人物であることを証明する書面
「被相続人の登記上の住所」と「戸籍の本籍」が異なる場合には、戸籍上の被相続人(故人)と登記上の所有者が同一人物であることを証明する書面が必要になります。
具体的には、下記のいずれかになります。
■故人の住民票の除票の写し(本籍地記載のもの)
■故人の戸籍の附票の写し
いずれの書面も証明書に記載のある故人の住所と登記簿上の住所が一致している必要があります。
③申出人の住所を証する書面(住所証明情報)
具体的には、申出人の住民票の写しを添付します。
なお、申出書に申出人の氏名のふりがなや生年月日を記載した場合には、住民票の写しの添付を省略することが可能です(ただし、住民票に記載がない場合は省略できません)。
住民票はマイナンバーが記載されていないものを用意するようにしましょう。
【法定相続情報証明一覧図がある場合】
法定相続情報証明制度を利用している場合、戸籍証明書や住民票の写しの代わりに法定相続情報一覧図を添付することも可能です。この一覧図は、法定相続人の情報をまとめたもので、相続手続きを簡素化するために役立ちます。
法務局で取得できますので、戸籍謄本を何度も取得する手間を省きたい方は、この制度の利用も検討しましょう。
4-2. 手続きの流れ
相続人申告登記の手続きは以下のステップで行います。申請は窓口、郵送、またはオンラインで行うことができます。
ステップ1|戸籍証明書等の取得
まずは、4-1でご説明した戸籍証明書等の添付書面を取得します。
ステップ2|申出書の作成
申出書に必要事項を記入します。A4の用紙(上質紙等、縦置き・横書き)を使用し、片面印刷で印刷しましょう。法務省のホームページで書式をダウンロードすることも可能です。
必要な記載内容は以下の通りです。
①申出の目的(相続人申告)
②被相続人の氏名および死亡日
③申出人の氏名・住所・生年月日・連絡先電話番号
④添付情報
⑤申出年月日 申出する法務局名
⑥不動産の表示
ステップ3|申出書の提出
申出書および必要な書類を管轄の法務局に提出します。提出方法は以下のいずれかを選べます。
窓口での提出
管轄の法務局の窓口に書類を持参し、担当者に提出します。直接対面で手続きを行うため、書類に不備があった場合、その場で指摘されることが多いため、確認の手間が省けます。
郵送での提出
申出書および必要書類をすべて揃え、封筒に「相続人申告書在中」と明記して書留郵便で管轄法務局に送付します。郵送の場合、書類が法務局に届くまでに時間がかかることもあるため、余裕を持って送付しましょう。
オンラインでの提出
「かんたん登記申請」という法務局のオンライン申請システムを利用することが可能です。
この場合、申出書の電子送信はできますが、戸籍謄本や住民票は別途郵送または持参する必要があります。
ステップ4|登記完了通知の受領
申出書が受理されると、法務局から「登記完了通知」が送付されます。
通知は、法務局窓口で直接受け取るか、郵送で受け取る方法を選ぶことができ、登記簿に相続人申告が記載され、申告が完了したことが確認できます。
【通知書の受領方法】
登記完了通知を法務局窓口で受領する場合は、本人確認書類(運転免許証など)を持参する必要があります。
郵送で受領する場合は、返信用封筒を事前に提出しておく必要があり、書留郵便での受領が基本です。
5. 相続人申告登記を行う際の注意点
相続人申告登記を行う際は、以下の点に注意しましょう。
5-1. 期限を守ること
相続人申告登記は、相続を知った日から3年以内に行う必要があります。この期限を過ぎると、10万円以下の過料が科せられる可能性があります。
期限を守って手続きを行うことが、ペナルティを避けるための最も重要なポイントです。
5-2. 最終的な相続登記を忘れない
相続人申告登記は、あくまで一時的な手続きであり、最終的には相続登記を行う必要があります。遺産分割協議が成立した後には、正式な相続登記を行い、相続不動産の所有権を確定させる必要があります。
相続人申告登記を行っただけでは、不動産の売却や処分ができないことを忘れないようにしましょう。
5-3. 義務を果たしたとみなされるのは申出人のみ
相続登記の申請義務は、遺産分割協議がまとまっていない状況では相続人全員に課されます。しかし、相続人申告登記により義務を果たしたとされるのは申告人のみです。
したがって、他にも故人の不動産を相続する権利がある相続人がいる場合、その相続人も相続人申告登記を申出をしなければ義務を果たしたことにはならず、過料を課される可能性があります。
なお、相続人が複数存在する場合、 特定の相続人が単独で他の相続人の分も含めた代理申出も可能です。
6. よくある質問
Q1. 相続人申告登記と相続登記はどう違いますか? |
A. 相続人申告登記は、一時的な手続きであり、相続登記は正式に不動産の権利移転を行う手続きです。相続人申告登記では、相続人であることを示すだけで、不動産の売却や抵当権の設定はできません。相続登記を行うことで、正式な権利移転が完了します。 |
Q2. 申告登記に必要な書類は何ですか? |
A. 申告登記に必要な書類は、申出書、戸籍謄本、住所証明書です。法定相続情報一覧図を利用することで、一部の書類の提出を省略できます。 |
Q3. 相続人申告登記の後、何をすべきですか? |
A. 相続人申告登記を行った後、遺産分割協議が成立したら、相続人が確定した時点から3年以内に正式な相続登記を行う必要があります。 |
Q4. 申請はオンラインで可能ですか? |
A. はい、「かんたん登記申請」を利用して、オンラインで申告登記の手続きが可能です。ただし、書類の提出は郵送または窓口に持参する必要があります。 |
Q5. 相続人申告登記の申請期限はありますか? |
A. 相続人が相続によって所有権を取得したことを知った日から3年以内に申告登記を行う必要があります。この期限を過ぎると過料の対象となります。 |
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