この記事を要約すると
- 相続手続きでは、遺産分割協議や預貯金の払戻しなどで、実印による押印と印鑑証明書の提出が求められます。一方で、法定相続分どおりの相続登記など、印鑑証明書が不要な手続きもあります。必要となる場面や枚数、有効期限は手続きによって異なります。
- 相続は、実印の有無に関わらず当然に発生します。ただし、遺産分割協議書への押印や金融機関の手続きなど、実印と印鑑証明書が必要になる場面では、事前に印鑑登録を行う必要があります。
- 「印鑑証明書は、多くの自治体で、印鑑登録証(カード)があれば家族などの代理人でも取得できます。また、マイナンバーカードを利用したコンビニ交付に対応している自治体もあります。
1. 相続手続きで印鑑証明書が必要になる理由
1-1. 印鑑証明書とは
印鑑証明書とは、「この印鑑は本人が市区町村に登録した実印である」ということを、公的に証明する書類です。
あらかじめ市区町村に印鑑を「実印」として登録しておき、その登録内容に基づいて発行されます。
印鑑証明書には、登録された印影のほか、氏名・住所・生年月日などが記載されており、「本人が登録した実印であること」を証明する役割があります。
日常生活ではあまり使う機会は多くありませんが、不動産の売買や相続など、権利関係に影響する重要な手続きで用いられる証明書です。
実際の印鑑証明書がどのような書類かイメージしにくい場合には、自治体が公開しているサンプルを参考にすると分かりやすいでしょう。(例:国立市の印鑑登録証明書サンプル)
1-2. 相続で印鑑証明書が求められる理由
相続では、不動産や預貯金など、亡くなった方の財産について名義変更や解約などの手続きを行う必要があります。
これらの手続きでは、書類に押された印鑑が相続人本人の実印によるものであり、間違いなく本人の意思に基づいて手続きが行われていることを確認するため、実印による押印とあわせて印鑑証明書を提出して手続きを進めます。
これは、相続が財産の権利関係に大きく影響する重要な手続きであるためです。そのため、金融機関や法務局などでは、実印による押印と印鑑証明書によって本人確認や意思確認が行われています。
1-3. 相続人の印鑑証明書が必要
相続で必要になる印鑑証明書は、手続きの内容によって、誰のものが必要になるかが異なります。
相続では、遺産分割協議によって手続きを進めるケースが多く、この場合は原則として相続人全員の印鑑証明書が必要になります。
一方で、亡くなった方(被相続人)の印鑑証明書は必要ありません。もっとも、印鑑登録は死亡によって抹消されるため、死亡後に新たに印鑑証明書を取得することもできなくなります。
相続手続きでは、不動産の相続登記や預貯金の解約などさまざまな場面で印鑑証明書が必要となります。
次章では、具体的にどのような場面で必要になるのかを見ていきましょう。
2. 相続で印鑑証明書が必要になる主なケース
2-1. 遺産分割協議書を作成する場合
遺産分割協議とは、相続人全員で「どの財産を誰が取得するのか」を話し合って決める手続きです。
遺産分割協議によって相続手続きを進める場合には、遺産分割協議書に署名・押印した相続人全員の印鑑証明書を添付して手続きを行います。
これは、協議書に押された印鑑が、本人の実印によるものであることを確認するためです。
2-2. 預貯金や株式の相続手続きを行う場合
金融機関で預貯金の払戻しや、株式などの相続手続きを行う場合にも、印鑑証明書が必要になります。
このとき、どのような方法で相続手続きを進めるかによって、誰の印鑑証明書が必要になるかが異なります。
例えば、遺産分割協議によって預貯金や株式を相続する場合には、原則として相続人全員の印鑑証明書が必要になります。
一方で、遺言書に従って手続きを行う場合や、家庭裁判所の調停・審判によって取得者が決まっている場合には、財産を取得する人の印鑑証明書のみで手続きを進められるケースもあります。
なお、金融機関によって必要書類や取扱いが異なることがあり、印鑑証明書について「発行後3か月以内」「6か月以内」などの期限が設けられている場合があります。
そのため、実際に手続きを行う金融機関へ事前に確認しておくことが重要です。
2-3. 不動産の相続登記を行う場合
不動産を相続した場合には、名義を変更する「相続登記」の手続きを行います。この手続きでも、相続の進め方によって誰の印鑑証明書が必要になるかが異なります。
例えば、遺産分割協議によって不動産を取得する人を決めた場合には、遺産分割協議書に押印した相続人全員の印鑑証明書を添付して相続登記を行います。
一方で、法定相続分どおりに登記する場合には、通常、相続人全員の印鑑証明書を添付することなく手続きを進めます。
また、遺言書によって取得者が決まっている場合にも、遺産分割協議書が不要となるため、相続人全員の印鑑証明書を添付せずに手続きを進めます。もっとも、遺言執行者が関与する場合には、遺言執行者の印鑑証明書が必要になることがあります。
相続登記で添付する相続人の印鑑証明書には、法律上の有効期限は設けられていません。
2-4. 相続税申告を行う場合
相続税の申告が必要となるのは、相続財産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合です。この場合、税務署へ相続税申告書を提出する必要があります。
相続税申告では、遺産分割協議書を税務署へ提出する場合に、その協議書に押印した相続人全員の印鑑証明書を添付します。
一方で、相続人が一人の場合や遺言書とおりに相続する場合、未分割のまま申告を行う場合など、遺産分割協議書を添付しないケースでは、相続人全員の印鑑証明書は不要です。
相続税の申告では、印鑑証明書に法律上の有効期限は設けられていません。
2-5. 生命保険金を請求する場合
生命保険金を請求する際にも、印鑑証明書の提出を求められることがあります。
特に、高額な保険金請求では、請求者本人による手続きであることを確認するため、印鑑証明書の提出が必要となることがあります。通常は、保険会社所定の請求書類とあわせて提出します。
保険会社によって必要書類や有効期限の取扱いが異なることがあり、「発行後3か月以内」などの条件が設けられている場合もあります。
そのため、手続きを進める前に、加入している保険会社へ確認しておくことが大切です。
3. 印鑑証明書の必要枚数・有効期限
3-1. 印鑑証明書は何枚必要になるのか
相続手続きでは、印鑑証明書が複数枚必要になることがあります。
例えば、不動産の相続登記、預貯金の払戻し、証券会社の相続手続きなどを同時に進める場合、それぞれの提出先で原本の提出を求められます。
そのため、手続きを並行して進める場合には、あらかじめ必要枚数を確認したうえで複数枚取得しておくとスムーズです。
一方で、手続きを順番に進める場合には、提出した印鑑証明書を返却してもらう「原本還付」(げんぽんかんぷ)によって、同じ印鑑証明書を再利用することができます。
特に相続登記では、戸籍謄本などとあわせて原本還付の手続きを利用することも少なくありません。
ただし、相続税申告では、提出した印鑑証明書の原本還付は行われません。そのため、相続税申告と他の相続手続きを並行して進める場合には、提出順や必要枚数に注意する必要があります。
必要となる枚数は、どのような手続きを行うのかに加え、複数の手続きを同時に進めるのか、順番に進めるのかによっても変わります。
そのため、事前に全体の流れを整理しながら準備しておくと安心です。
| 手続き | 発行期限 | 原本還付 |
|---|---|---|
| 相続登記 | 原則なし | 可能 |
| 預貯金払戻し | 金融機関による (3~6か月の指定が多い) | 金融機関による |
| 相続税申告 | 原則なし | 不可 |
| 保険金請求 | 保険会社による | 保険会社による |
3-2. 印鑑証明書に有効期限はあるのか
印鑑証明書そのものには、法律上の有効期限は設けられていません。
相続登記でも、一般的に印鑑証明書の発行期限は設けられていないため、取得から時間が経過していても利用することができます。
もっとも、遺言執行者が関与する場合や遺贈による登記などでは、発行後3か月以内の印鑑証明書が必要となるケースがあります。
また、金融機関や保険会社の相続手続きでは、提出先ごとに「発行後3か月以内」「6か月以内」などの期限が設けられていることがあります。
そのため、相続手続きの全体像を確認したうえで、実際に手続きを進める時期にあわせて取得すると安心です。
4. 印鑑証明書に関する注意点
4-1. 印鑑証明書を取得するには実印登録が必要
相続は、実印の有無にかかわらず、法律上当然に発生します。
もっとも、遺産分割協議書への押印や金融機関での払戻しなど、実印と印鑑証明書が必要となる手続きを行う場合には、あらかじめ印鑑登録を行っておく必要があります。
印鑑証明書は、実印として登録された印鑑について発行される書類です。そのため、印鑑証明書を取得するためには、あらかじめ市区町村で印鑑登録を済ませておく必要があります。
印鑑登録は、住民登録をしている市区町村で行います。一般的には、登録したい印鑑と本人確認書類を持参して申請し、登録が完了すると印鑑登録証(カード)が交付されます。
なお、代理人による印鑑登録も可能ですが、本人確認が厳格に行われるため、委任状や郵送による照会手続きが必要になることがあります。
即日で登録できないケースもあるため、時間に余裕をもって準備しておくことが大切です。
4-2. 印鑑証明書は代理人でも取得できる
印鑑証明書は、本人だけでなく、代理人が取得できる自治体も多くあります。
一般的には、印鑑登録証(カード)を持参することで、家族などの代理人が窓口で取得できます。そのため、仕事や体調などの事情で本人が役所へ行けない場合でも、代理人を通じて取得できることがあります。
また、マイナンバーカードを利用したコンビニ交付に対応している自治体であれば、本人がコンビニで取得することも可能です。
4-3. 海外在住の相続人は署名(サイン)証明で対応
海外に居住している相続人は、日本の住民登録がないため、国内で印鑑登録を行うことができません。そのため、日本の印鑑証明書を取得することもできません。
このような場合には、印鑑証明書の代わりとして、在外公館(日本大使館・総領事館)で発行される「署名証明(サイン証明)」を利用します。
署名証明は、本人が在外公館へ出向き、領事の面前で署名を行うことで、「本人が署名したものであること」を証明してもらう制度です。
遺産分割協議書などに署名する際には、事前に署名をせず、在外公館で手続きを行う必要がある点に注意が必要です。
なお、必要書類や手続きの流れは、国や在外公館によって異なるため、事前に在外公館のホームページなどで確認しておきましょう。
4-4. 未成年者が相続人の場合は代理人の印鑑証明書を使用
未成年者が相続人となる場合、遺産分割協議などの法律行為を単独で行うことはできません。
そのため、遺産分割協議書への押印などで印鑑証明書が必要となる場合には、未成年者本人ではなく、代理人となる親権者や特別代理人の印鑑証明書を用いて手続きを進めます。
通常は親権者が代理人となりますが、親権者自身も同じ相続の相続人である場合には、未成年者と親権者の利益が対立する可能性があるため、家庭裁判所で「特別代理人」を選任する必要があります。
この場合は、選任された特別代理人の印鑑証明書を添付して手続きを行います。
4-5. 印鑑証明書を提出しない相続人がいる場合は調停が必要になることがある
遺産分割協議によって相続手続きを進める場合には、遺産分割協議書へ相続人全員が署名・押印し、印鑑証明書を添付して手続きを行います。
そのため、一部の相続人が印鑑証明書の提出に応じない場合には、遺産分割協議書を用いた相続手続きを進めることが難しくなります。
このような場合には、家庭裁判所へ「遺産分割調停」を申し立て、裁判所を通じて話し合いを進めることになります。
そして、調停が成立した場合には「調停調書」、調停が成立せず、裁判所の判断によって遺産分割が決まった場合には「審判書」が作成されます。
これらの裁判所の書類を用いることで、相手方の印鑑証明書がなくても相続手続きを進めることが可能になります。
5. よくある質問(Q&A)
| Q1. 印鑑証明書はコピーでも使えますか? |
| A1. 印鑑証明書の原本提出が必要です。コピーのみで手続きを行うことはできません。 もっとも、相続登記などでは「原本還付」の手続きを利用する際に、コピーを提出し、原本の返却を受けられる手続きもあります。ただし、この場合でも、原本自体の提示は必要になります。 |
| Q2. 印鑑証明書は何通取得すればよいですか? |
| A2. 必要枚数は、行う手続きの数や、同時に進めるかどうかによって異なります。 もっとも、相続登記など、原本還付によって提出した印鑑証明書の返却を受けられる手続きもあります。一方で、不動産の相続登記、預貯金の払戻し、証券会社での相続手続きなど、提出先が複数ある場合には、並行して手続きを進めるために複数枚必要になることがあります。そのため、例えば2〜3通ほど取得しておくことで、再度取得する手間を減らすことができます。 |
| Q3. 印鑑証明書に有効期限はありますか? |
| A3. 印鑑証明書そのものには、法律上の有効期限は設けられていません。 もっとも、金融機関や保険会社の相続手続きでは、「発行後3か月以内」「6か月以内」など、提出先ごとに期限が定められていることがあります。また、相続登記でも、一般的な相続手続きでは発行期限は設けられていませんが、遺言執行者が関与する場合や遺贈による登記などでは、発行後3か月以内の印鑑証明書が必要となるケースがあります。そのため、どの手続きに使用するのかを確認したうえで取得することが大切です。 |
| Q4. 印鑑証明書は家族が代理で取得できますか? |
| A4. 自治体によって取扱いは異なりますが、一般的には、印鑑登録証(カード)を持参することで、家族などの代理人が窓口で取得できます。また、マイナンバーカードを利用したコンビニ交付に対応している自治体であれば、本人がコンビニで取得することも可能です。 |
| Q5. 亡くなった人の印鑑証明書は取得できますか? |
| A5. できません。死亡届が提出されると印鑑登録も抹消されるため、死亡後に被相続人の印鑑証明書を取得することはできなくなります。 |
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