この記事を要約すると
- 相続廃除とは、推定相続人が被相続人に対して虐待や重大な侮辱、著しい非行などを行った場合に、家庭裁判所の審判によって相続権を失わせる制度です。認められるためには法律で定められた要件を満たす必要があり、家庭裁判所が事情を踏まえて慎重に判断します。
- 民法では「重大な侮辱」が相続廃除の理由として定められています。ただし、侮辱があったというだけで直ちに認められるわけではありません。家庭裁判所は、言動の内容や程度、継続性、当事者の関係などを踏まえ、相続権を失わせるほどの事情があるかを判断します。
- 相続廃除が認められると、市区町村への届出によってその事実が戸籍に記載されます。そのため、相続廃除の有無は戸籍の記載を確認することで把握できます。相続手続きの中で確認されることもありますが、相続廃除の可能性がある場合には、戸籍を取得して確認することもあります。
1. 相続廃除とは
1-1. 相続廃除の制度
相続廃除とは、推定相続人が被相続人に対して虐待や重大な侮辱、著しい非行を行った場合に、家庭裁判所の審判によってその相続人の相続権を失わせる制度です。
相続では、法律で定められた相続人が財産を承継することが原則です。しかし、家族関係の中には、被相続人となる者と相続人との関係が著しく悪化しているケースもあります。
こうした場合に、一定の要件のもとで相続権を失わせる仕組みとして設けられているのが相続廃除です。
もっとも、相続廃除は当事者の意思だけで成立するものではありません。家庭裁判所が事情を審理し、法律で定められた要件に該当すると判断した場合に初めて認められます。
1-2. 相続廃除の対象となる人
相続廃除の対象となるのは、推定相続人です。推定相続人とは、現時点で相続が開始した場合に相続人となると見込まれる人をいいます。
ただし、すべての相続人が対象となるわけではありません。
相続廃除の対象となるのは、遺留分を有する推定相続人に限られます。具体的には、配偶者、子、直系尊属(父母や祖父母など)がこれにあたります。
一方、兄弟姉妹は遺留分を有しません。そのため、兄弟姉妹については、遺言によって財産を承継させない内容(たとえば、他の相続人に財産を取得させる内容)を定めることが可能です。
このように、遺言によって対応できる関係であることから、兄弟姉妹は相続廃除の対象には含まれていません。
1-3. 相続廃除の法律上の根拠
相続廃除の制度は、民法892条に定められています。この規定では、推定相続人が被相続人に対して
- 虐待をした場合
- 重大な侮辱を加えた場合
- 著しい非行があった場合
には、家庭裁判所の審判によってその相続人を廃除することができるとされています。
1-4. 相続廃除が認められるかどうかの判断
もっとも、虐待や侮辱、著しい非行があったと主張すれば、直ちに相続廃除が認められるわけではありません。
相続権は法律によって定められた重要な権利であるため、家庭裁判所は廃除の可否を慎重に判断します。そのため、行為の内容や継続性、当事者の関係などが総合的に検討されることになります。
(認められる可能性がある場合)
相続廃除が問題となるのは、被相続人に対する行為の内容が深刻である場合です。
例えば、被相続人に対して継続的な暴力があった場合や、被相続人の財産を無断で使い込んだ場合などは、相続廃除が検討される典型的な場面といえます。
また、人格を否定するような強い暴言を繰り返すなど、被相続人を著しく傷つける言動が続いていた場合には、重大な侮辱として判断の対象になることもあります。
(認められない場合)
一方で、親子関係が疎遠である、長年連絡を取っていないといった事情だけでは、通常は相続廃除が認められる理由とはなりません。
このように家庭裁判所は、行為の内容や継続性、当事者の関係などを踏まえ、相続権を失わせることが相当かどうかを個別に判断することになります。
2. 相続廃除の手続き
2-1. 生前に行う場合(生前廃除)
相続廃除は、被相続人となる者が生前に家庭裁判所へ申立てを行うことで手続きすることができます。
これを一般に「生前廃除」といいます。
生前廃除を行う場合には、被相続人となる者の住所地を管轄する家庭裁判所に「推定相続人廃除の審判」を申し立てます。
家庭裁判所は提出された資料などをもとに事情を審理し、廃除の理由が認められるかどうかを判断します。
審判によって廃除が認められた場合には、その内容を市区町村に届け出ることで、戸籍に廃除された旨が記載されます。
2-2. 遺言によって行う場合(遺言廃除)
相続廃除は、生前だけでなく遺言によって行うことも可能です。
これを「遺言廃除」といいます。
この場合、被相続人となる者が遺言書の中で、特定の推定相続人を廃除する意思とその理由を示しておきます。
相続開始後、その遺言に基づいて遺言執行者が家庭裁判所へ申立てを行い、審判を受けることになります。
遺言廃除でも家庭裁判所の審判が必要であり、遺言に廃除の意思が記載されているだけで自動的に廃除が成立するわけではありません。
2-3. 相続廃除の手続きの流れ
相続廃除の手続きは、一般に次のような流れで進みます。
- 家庭裁判所に推定相続人廃除の審判を申し立てる
- 家庭裁判所による審理が行われる
- 廃除を認める審判が確定する
- 市区町村へ廃除の届出を行う
- 戸籍に廃除の記載がされる
このように、相続廃除は家庭裁判所の審判によって効力が生じ、その後、市区町村への届出によって戸籍に記載されます。
もっとも家庭裁判所の審理では、廃除の理由となる事情について申立人が主張し、必要に応じて資料などによって説明することになります。
相続権を失わせる判断となるため、家庭裁判所は事情を慎重に検討し、要件に該当するかどうかを判断します。
なお、遺言によって廃除の意思が示されている場合には、相続開始後に遺言執行者が家庭裁判所へ申立てを行うことになります。
2-4. 申立てに必要な書類
相続廃除の申立てでは、一般に次のような書類を提出します。
また、申立ての際には、廃除を求める理由を説明する資料の提出を求められることがあります。
例えば、被相続人への暴力や侮辱などの事情がある場合には、それを裏付ける記録や資料などを提出することがあります。
なお、遺言廃除の場合には、これらに加えて遺言書の写しなどが必要になります。
2-5. 申立てにかかる費用
相続廃除の申立てには、主に次のような費用がかかります。
費用の金額や切手の内容は家庭裁判所によって異なることがあるため、申立てを予定している家庭裁判所の案内を確認しましょう。
2-6. 市区町村への届出
相続廃除の審判が確定した場合には、被相続人となる者の本籍地の市区町村に「推定相続人廃除届」を提出します。
届出は、審判が確定した日から10日以内に行う必要があります。届出の際には、家庭裁判所の審判書謄本や確定証明書などを提出します。
この届出により、戸籍に相続廃除の事実が記載されます。なお、遺言による廃除の場合には、遺言執行者が届出を行うことになります。
相続廃除の効力は家庭裁判所の審判によって生じますが、戸籍にその事実を記載するためには市区町村への届出が必要になります。
3. 相続廃除の効果
3-1. 相続権を失う
相続廃除が認められると、その推定相続人は相続人としての資格を失います。
そのため、被相続人が亡くなった場合であっても、遺産を相続することはできません。この点は、遺言によって特定の相続人に財産を与えない内容を定める場合とは性質が異なります。
遺言によって特定の相続人に財産を取得させない内容が定められていても、その人は相続人としての地位自体を失うわけではありませんが、相続廃除が認められた場合には、そもそも相続人として扱われなくなります。
3-2. 遺留分も請求できない
相続廃除が認められると、その人は相続人としての地位を失います。
遺留分は、遺留分を有する相続人に認められる権利であるため、相続廃除によって相続人として扱われなくなった場合には、遺留分を請求することもできません。
この点は、遺言によって特定の相続人に財産を承継させない内容が定められていても、遺留分を有する相続人であれば一定の請求ができる場合がある点と異なります。
3-3. 代襲相続との関係
相続廃除の効果は、廃除された本人に限られます。
そのため、廃除された相続人に子がいる場合には、その子が代襲相続人として相続する可能性があります。
例えば、被相続人の子が相続廃除された場合でも、その子に子がいるときには、その子(被相続人から見れば孫)が代襲相続人として相続することになります。
3-4. 相続廃除は取り消すこともできる
相続廃除は、一度認められた場合でも取り消すことができます。
被相続人は家庭裁判所に廃除の取消しを申し立てることができ、審判によって取消しが認められれば、廃除はなかったものとして扱われます。
民法では、被相続人はいつでも廃除の取消しを請求できるとされており、特別な理由が必要とされているわけではありません。
4. 相続廃除の確認方法
これまで説明してきた相続廃除の制度は、被相続人となる者が生前に検討することが多い制度です。
もっとも、実際の相続手続きの場面では、相続人の立場から「相続廃除がされているかどうか」を確認する必要が生じることがあります。
そのような場合には、主に戸籍の記載によって相続廃除の有無を確認することになります。
4-1. 戸籍で確認する方法
相続廃除が認められた場合には、市区町村への届出によってその事実が戸籍に記載されます。
この記載は、廃除された人の戸籍に記載されるため、その戸籍を確認することで相続廃除の有無を把握することができます。
実際の相続手続きでは、被相続人の出生から死亡までの戸籍を収集するとともに、相続人の戸籍も確認することになります。
その過程で、廃除された人の戸籍に相続廃除の記載があるかどうかが判明し、相続人の範囲を判断することになります。
4-2. 家庭裁判所の審判との関係
相続廃除は、家庭裁判所の審判によって認められる制度です。
そのため、制度上は家庭裁判所の審判によって相続廃除の有無が判断されます。しかし、相続手続きの場面で家庭裁判所の記録を直接確認することは一般的ではありません。
実際には、審判の結果が戸籍に記載されるため、その戸籍の記載によって相続廃除の有無を確認することがほとんどです。
5. 相続欠格との違い
5-1. 相続欠格とは
相続欠格とは、一定の重大な行為をした場合に、その人が当然に相続人としての資格を失う制度です。
例えば、被相続人を故意に死亡させた場合や、遺言書を偽造・破棄した場合などには、法律の規定によって相続人としての資格を失うことになります。
相続廃除と同様に、相続欠格となった場合には相続権を失い、遺留分を請求することもできなくなります。
5-2. 相続廃除と相続欠格との違い
相続欠格と相続廃除は、いずれも相続人としての資格を失わせる制度です。
その結果として、相続権を失い、遺留分を請求することもできなくなる点は共通しています。
もっとも、制度の仕組みには大きな違いがあります。
相続欠格は、法律で定められた事由に該当した場合に当然に生じる制度であり、特別な手続きを必要としません。
これに対して相続廃除は、被相続人の意思に基づいて行われる制度です。被相続人が家庭裁判所に申し立て、審判によって認められた場合に初めて相続権を失うことになります。
また、相続廃除は相続欠格と異なり、被相続人が家庭裁判所に申し立てることで取り消すこともできます。
このように、相続欠格は法律によって当然に生じる制度であるのに対し、相続廃除は被相続人の意思と家庭裁判所の判断によって成立する制度である点に大きな違いがあります。
| 項目 | 相続排除 | 相続欠格 |
|---|---|---|
| 制度の性質 | 被相続人の意思による制度 | 法律によって当然に発生 |
| 判断期間 | 家庭裁判所の審判が必要 | 不要 |
| 発生タイミング | 審判確定時 | 欠格事由発生時 |
| 取消 | 可能 | 不可 |
6. よくある質問
| Q1. 相続廃除は侮辱だけで認められますか? |
| A1. 侮辱があったというだけで直ちに相続廃除が認められるとは限りません。 民法では「重大な侮辱」が廃除事由として定められていますが、家庭裁判所では、当事者の関係や行為の内容、継続性などを踏まえて判断されます。そのため、単発の言動だけでは認められないこともあり、事情の程度が重要になります。 |
| Q2. 相続廃除は誰が申し立てることができますか? |
| A2. 相続廃除を申し立てることができるのは、将来被相続人となる人(本人)です。 生前に家庭裁判所へ申立てを行う方法のほか、遺言によって廃除の意思を示し、相続開始後に遺言執行者が申立てを行う方法もあります。 |
| Q3. 相続廃除は取り消すことができますか? |
| A3. 相続廃除は、家庭裁判所に申立てを行うことによって取り消すことができます。 民法では、被相続人はいつでも廃除の取消しを請求することができるとされており、取消しのために特別な理由が必要とされているわけではありません。取消しの審判が確定すれば、廃除はなかったものとして扱われます。 |
| Q4. 相続廃除されたかどうかはどのように確認できますか? |
| A4. 相続廃除が認められた場合には、その事実が廃除された者の戸籍に記載されます。 そのため、相続手続きでは戸籍を確認することで、相続廃除の有無を把握することができます。 |
| Q5. 相続廃除と相続欠格はどのように違いますか? |
| A5. 相続廃除は、被相続人の意思に基づき、家庭裁判所の審判によって認められる制度です。 これに対して相続欠格は、被相続人を故意に死亡させた場合など、法律で定められた事由に該当すると当然に相続人の資格を失う制度です。 |
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