この記事を要約すると
- 自筆証書遺言保管制度は、自分で書いた遺言書を法務局で保管してもらう制度です。紛失や改ざんの防止につながり、家庭裁判所の検認も不要になります。ただし内容の有効性までは保証されないため注意が必要です。
- 自筆証書遺言保管制度では、遺言書は遺言者の死亡後も長期間保管されます。原本は死亡後50年間、画像データは150年間保管されます。
- 自筆証書遺言は、作成時に判断能力がなかった場合や、内容が法律上実現できない場合などに無効とされる可能性があります。
1. 自筆証書遺言保管制度とは何か
1-1. 自筆証書遺言の基本と従来の問題点
自筆証書遺言とは、遺言者が全文を自ら手書きして作成する遺言書です。
費用がほとんどかからず、思い立ったときに作成できる点が大きな特徴です。一方で、これまで自筆証書遺言には次のような問題がありました。
検認は遺言の有効性を判断する手続きではなく、遺言書の偽造・変造の防止を目的とする制度であって、遺言書を保管していた人や、発見した相続人が家庭裁判所に申立てを行わなければなりません。
申立書の作成や戸籍の収集など一定の準備が必要となり、相続開始直後のご遺族にとっては心理的にも事務的にも負担となる場面があります。
1-2. 法務局で保管する仕組み
こうした自筆証書遺言の扱い難さを補うために創設されたのが、自筆証書遺言保管制度です。
令和2年7月10日から始まり、自筆で作成した遺言書を法務局(遺言書保管所)で保管できるようになりました。
遺言書は法務局で原本と画像データの両方が保管され、長期間にわたり適切に管理されます。これにより、遺言書が紛失したり所在が分からなくなったりする事態を防ぐ仕組みが整えられています。
ただし、法務局では遺言書の形式が法令に適合しているかどうかの確認は行われますが、遺言内容の法的妥当性まで判断するものではないことに注意が必要です。
保管制度はあくまで遺言書を管理する仕組みであり、「保管=有効保証」ではないということです。
2. 法務局で保管するメリットと費用
2-1. 紛失・改ざんを防ぎ、遺言の存在を確実に伝える
法務局で保管する最大の安心材料は、遺言書が公的機関で厳重に管理される点です。自宅保管とは異なり、第三者による改ざんや廃棄のリスクを大きく抑えることができます。
申請時には、遺言書が法律上の形式を満たしているかどうかについて、外形的な確認も受けられます。内容の助言までは行われませんが、明らかな形式不備に気づける点は実務上の安心につながります。
さらに、あらかじめ最大3名まで通知対象者を指定しておけば、遺言者の死亡後、法務局から遺言書が保管されている旨の通知が送られます。
これにより、「遺言が存在しているのに誰にも知られない」という事態を防ぐことができます。遺言の存在そのものが確実に伝わる仕組みは、大きなメリットといえるでしょう。
2-2. 検認が不要になる意味
通常の自筆証書遺言では、相続開始後に家庭裁判所で検認の申立てを行う必要があります。これに対し、保管制度を利用した遺言書は検認が不要です。
裁判所への申立書作成や戸籍収集といった準備も不要になるため、相続開始直後の家族の負担が軽減されます。
2-3. 保管費用はいくらかかる?
自筆証書遺言保管制度の手数料は、遺言書1通につき3,900円です。保管期間にかかわらず一律で、申請時に収入印紙で納付します。
公正証書遺言の場合は、財産額に応じて数万円から十数万円程度の費用がかかることが一般的なため、それと比較すると保管制度は費用面で利用しやすい制度といえます。
3. 自筆証書遺言保管制度の保管期間と手続きの流れ
3-1. 保管期間はいつまで?
自筆証書遺言保管制度では、遺言書は法務局(遺言書保管所)で長期間にわたり保管されます。保管は遺言者の生前だけでなく、死亡後も一定期間継続される仕組みです。
具体的には、遺言書の原本は遺言者の死亡後50年間、画像データは150年間保管されます。
さらに、この期間中、相続人や受遺者など一定の立場にある人は、法務局に対して遺言書の閲覧や遺言書情報証明書の交付を請求することができます。
3-2. 申請の流れと必要書類
自筆証書遺言を法務局で保管してもらうには、いくつかの準備が必要です。
まず、遺言書を所定の様式で作成します。自筆証書遺言保管制度では、遺言書の形式について一定の決まりがあり、主なポイントは次のとおりです。
- 用紙はA4サイズを使用する
- 上下左右に所定の余白を設ける
- 片面のみ使用する
- 各ページにページ番号を記載する
- 複数ページの場合でも綴じない

このように、遺言書の様式には細かな決まりがあるため、事前に法務省のホームページなどで確認しておくと安心です。
遺言書を作成したら、保管申請に必要な書類を準備します。主な持参書類は次のとおりです。
- 自筆証書遺言書
- 遺言書保管申請書
- 顔写真付きの本人確認書類(運転免許証など)
- 本籍と筆頭者の記載がある住民票の写し
- 手数料3,900円分の収入印紙
これらの準備が整ったら、法務局へ申請予約を行います。保管申請は予約制のため、インターネットや電話、法務局窓口で事前に法務局の受付枠を予約します。
また、申請先はどの法務局でもよいわけではなく、次のいずれかの遺言書保管所となります。
予約した日時に法務局へ出向き、本人確認や申請書の確認を受けて手続きを行います。なお、申請は遺言者本人が行う必要があり、代理人による申請は認められていません。
3-2. 相続人が閲覧する方法
遺言者が生存している間は、相続人が遺言内容を閲覧することはできません。遺言の内容はあくまで遺言者の意思として守られます。
遺言者の死亡後、相続人や受遺者など一定の立場にある方は、法務局に対して閲覧請求や証明書交付請求を行うことができます。請求の際には、戸籍関係書類など、相続人であることを証明する資料の提出が必要になります。
遺言書はデータ化されているため、保管した法務局に限らず、全国の法務局で閲覧や証明書の取得が可能です。遠方に住んでいる相続人にとっても利用しやすい仕組みといえるでしょう。
4. 自筆証書遺言が無効になるケース
前項でも触れましたが、自筆証書遺言保管制度は「保管の安全性」を高める仕組みであり、遺言の有効性そのものを保証するものではありません。
ここでは、実務上問題になりやすいポイントを整理します。
4-1. 保管制度でも有効性が争われる主なケース
保管制度では形式面の確認が行われるため、典型的な形式不備で無効になるケースは多くありません。ただし、それでも無効が争われる可能性があるのが次のような場面です。
まず、遺言能力の問題です。遺言は、作成時に十分な判断能力があることが前提です。認知症などにより意思能力が低下していた場合、「当時、正しく判断できていなかったのではないか」と争われることがあります。これは法務局では判断されません。
また、誰かに無理に書かされた、あるいはだまされて作成したといった強要や詐欺の主張がなされる場合もあります。これも保管制度では防げない領域です。
さらに、後に新しい日付の遺言が作成されていた場合には、自筆証書遺言保管制度の遺言に限らず、原則として後の遺言が優先されます。保管している遺言が必ず最終意思とは限らない点も、理解しておく必要があります。
4-2. 内容面で問題になるケース
形式が整っていても、内容が原因で紛争になることもあります。
代表的なのが遺留分を巡る問題です。特定の相続人に全財産を相続させる内容自体は有効ですが、他の相続人には最低限の取り分としてが遺留分が認められています。そのため、遺留分侵害額請求がなされる可能性も考慮しなければなりません。
また、財産の特定が不十分な場合も注意が必要です。たとえば「自宅を長男に」と記載していても、不動産が複数ある場合や表示が不明確な場合には、解釈を巡って争いになることがあります。
法務局はこれらの内容面について適否を判断はしません。法律上実現可能か、将来争いにならないかまではチェックされないのです。
4-3. 保管していても有効性が保証されるわけではない
自筆証書遺言保管制度は、紛失や改ざんのリスクを減らす非常に有用な制度です。しかし、「保管されているから絶対に有効」というわけではありません。
遺言能力、内容の適法性、遺留分への配慮、後日の遺言との関係――これらは最終的に争いとなれば、裁判所で判断される問題です。
保管制度はあくまで「安全に残すための器」であり、その中身を整えることは別の検討が必要なのです。
5. 公正証書遺言との違いと選び方
ここまで見てきたとおり、自筆証書遺言保管制度には多くのメリットがありますが、すべての方にとって最適とは限りません。大切なのは、「どちらが優れているか」ではなく、「ご自身の状況に合っているかどうか」です。
5-1. 自筆証書保管制度が向いている人
まず、できるだけ費用を抑えたいと考えている方には、自筆証書遺言保管制度は利用しやすい選択肢です。保管手数料は3,900円と比較的低額で、公正証書遺言に比べて経済的負担は小さくなります。
また、財産関係が比較的シンプルな場合にも向いています。例えば、不動産が自宅のみで、相続人も配偶者と子どもだけというようなケースでは、内容を整理しやすく、自筆でも対応可能なことが多いでしょう。
さらに、将来内容を見直す可能性がある場合も、自筆証書保管制度は公正証書遺言と比べて、柔軟に対応しやすいという利点があります。大きな資産変動や家族構成の変化が予想される方にとっては、書き直しやすさは一つの魅力です。
5-2. 公正証書遺言が向いている人
一方で、相続人関係が複雑な場合には、公正証書遺言のほうが適していることがあります。再婚家庭や相続人間に感情的な対立があるケースでは、より強い証明力が求められることが少なくありません。
また、将来的に争いが想定される場合には、公証人が関与する公正証書遺言のほうが紛争予防の観点で安心材料になるでしょう。作成時に公証人が意思確認を行うため、遺言能力を巡る争いも生じにくくなると考えられます。
費用はかかりますが、確実性を最優先したい方にとっては、公正証書遺言公正証書遺言は有力な選択肢となります。
5-3. 専門家に相談した方がよいケース
自筆証書遺言保管制度は利用しやすい制度ですが、状況によっては専門家への相談を検討した方がよいでしょう。
たとえば、高齢や体調などの事情により遺言能力が争われるおそれがある場合、後に遺言の有効性が問題となる可能性があります。
また、特定の相続人に多くの財産を残す場合などは、他の相続人の遺留分にも配慮しなければなりません。さらに、不動産が多い場合や財産関係が複雑な場合には、財産の特定方法によって相続手続きに支障が生じることもあります。
6. よくある質問・Q&A
| Q1. 自筆証書遺言保管制度の保管期間は何年ですか? |
| A1. 遺言書は法務局で保管され、遺言者の死亡後も一定期間管理されます。 原本は死亡後50年間、画像データは150年間保管されます。死亡後は相続人等が閲覧や証明書の交付を請求できます。 |
| Q2. 保管制度を利用すれば無効になる心配はありませんか? |
| A2. 法務局では形式面の外形的な確認は行われますが、遺言の有効性を保証する制度ではありません。 遺言能力や内容の適法性などは判断されないため、状況によっては後に無効が争われる可能性があります。 |
| Q3. 遺言の内容は法務局職員や家族に知られてしまいますか? |
| A3. 申請時には形式確認のため職員が遺言書を確認しますが、内容を審査する制度ではありません。 また、遺言者が生存している間は本人以外が閲覧することはできず、外部に知られることはありません。 |
| Q4. 何度も書き直した場合、どの遺言が有効になりますか? |
| A4. 原則として日付が新しい遺言が優先されます。ただし、前の遺言と矛盾する部分だけが変更される仕組みです。法務局で保管している遺言があっても、その後に作成した遺言があればそちらが優先されます。 |
| Q5. 高齢や病気で法務局に行けない場合はどうすればよいですか? |
| A5. 保管制度の申請は遺言者本人が法務局に出向く必要があり、代理人による申請はできません。 外出が難しい場合は、公正証書遺言の作成など別の方法を検討することになります。 |
7. おわりに
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