この記事を要約すると
- 相続には手続きごとに異なる時効や期限があり、特に相続放棄(3ヶ月)や相続税申告(10ヶ月)などは早めの対応が必要です。
- 時効や期限を過ぎると権利が消滅したり、ペナルティが発生するため、必要に応じて専門家に相談して対応を進めることが大切です。
- 相続に関する手続きは弁護士・司法書士・税理士が担当分野ごとにサポートできるため、状況に応じて適切に依頼しましょう。
1. 遺産相続に時効や期限はある?
相続手続きにはさまざまな時効や期限があり、特定の期間内に手続きを行う必要があります。
時効や期限を過ぎると権利が消滅したり、思わぬ損害を被る可能性があるため、いつまでに何をすべきかを把握することが大切です。
1-1. 遺産相続に関する時効・期限一覧
手続き | 時効・期限 |
---|---|
相続放棄 | ・自己のために相続の開始があったことを 知ったときから3ヶ月 |
相続税の申告と納税 | ・被相続人が死亡したことを知った日の 翌日から10か月以内 |
遺留分侵害額の請求 | ・相続の開始および遺留分を侵害する 贈与、遺贈があったことを知ったときから1年 ・相続開始のときから10年 |
不動産の名義 変更(登記) | ・相続によって所有権の取得を知った日 もしくは遺産分割が成立した日から3年 |
相続税の納税義務 | ・申告期限から5年もしくは7年 |
相続した借金の 支払い義務 | ・権利を行使できることを知った時から5年※ ・権利を行使できる時から10年 |
相続回復請求権 | ・相続権を侵害された事実を知った時から5年 ・相続開始の時から20年 |
預金債権 | ・権利を行使できることを知った時から5年※ ・権利を行使できる時から10年 |
※2020年4月1日以降に発生した債権の場合(2020年3月31日以前に発生した債権は、行使をできる時から10年(商行為による債権の場合、5年))
相続に関する時効や期限は種類によって大きく異なり、最も短いものは相続放棄の「3ヶ月」で、最も長いものは相続回復請求権の「20年」まであります。
これらの期限を守らないと、相続権が制限されたり、思わぬ負担が生じたりするため注意が必要です。特に相続税の申告期限(10ヶ月)や不動産登記(3年)は、多くの方が関わる重要な期限です。
時効や期限の種類と期間を把握しておくことで、仕事が忙しい時期でも優先順位をつけて対応できます。例えば、相続税の申告と納税(10ヶ月)を優先して進めて、不動産登記(3年)は少し余裕を持って進めるといった計画が立てられます。
1-2. 時効や期限を過ぎると手続きができなくなる
相続に関する手続きには、時効や期限が定められているものもあり、これを過ぎると権利を行使できなくなることがあります。
例えば、相続放棄の3ヶ月を過ぎると原則として相続放棄ができず、借金なども含めて相続を受け入れたとみなされます。相続税の申告期限(10ヶ月)を過ぎると、無申告加算税や延滞税などのペナルティが課せられ、経済的な負担が増えてしまいます。
時効や期限は一度過ぎると原則として回復できないため、忙しい中でも必要最小限の手続きだけは期限内に済ませましょう。
2. 遺産相続に関する8つの時効や期限を解説
ここからは遺産相続に関する8つの時効と期限を解説します。
2-1. 相続放棄:3ヶ月
相続放棄とは、プラスの財産もマイナスの財産(借金など)も一切相続しないという選択です。
この手続きは、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所で行う必要があります。
相続放棄ができる期間は非常に短いため、マイナスの財産が心配な場合は、相続財産の調査を急ぎ、必要に応じて相続放棄を検討すべきでしょう。
仮に期限を過ぎてしまった場合でも、「相続財産が全くないと信じ、かつそのように信じたことに相当な理由があるとき」などは、相続財産の存在を知ったから3か月以内に申述すれば、相続放棄の申述が受理されることもあります。
2-2. 相続税の申告と納税:10ヶ月
相続税の申告と納税は、被相続人(亡くなった方)が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に行う必要があります。
比較的期間は長いものの、財産調査や評価に時間がかかるため、早めの準備が大切です。
基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)を超える財産を相続する場合に申告が必要となります。例えば、父親が亡くなり、法定相続人が母親、子供2人の場合、基礎控除は4,800万円です。
申告期限を過ぎると無申告加算税や延滞税が課されるので、早めに税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
2-3. 遺留分侵害額の請求:1年
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された最低限の相続分のことです。
たとえ遺言で特定の人に全財産を相続させるとされていても、遺留分が侵害された場合は、金銭で請求することが可能です。
遺留分侵害額請求権は、自分の遺留分を侵害されたことを知った時から1年以内、または被相続人の死亡から10年以内に行使する必要があります。
例えば、父が財産のほとんどを妻に相続させるという遺言を遺していた場合、子であるあなたは自分の遺留分を請求可能です。
2-4. 不動産の名義変更(相続登記):3年
2024年4月1日から、相続による不動産の名義変更(相続登記)は、相続によって所有権の取得を知った日、もしくは遺産分割が成立した日から3年に申請することが法律上の義務となりました。
これまで任意だった名義変更が義務となり、正当な理由なく期限内に登記しなかった場合、10万円以下の過料が課される可能性があります。
名義変更には、戸籍謄本や住民票、遺産分割協議書など多くの書類が必要で、準備に時間がかかるため、早い段階で準備しておきましょう。特に相続人が多い場合や、遺産分割で意見が分かれる場合は、早急な対応が必要です。
不動産の名義を変更せずに放置すると、売却や担保設定に支障が出るだけでなく、相続人が増えるほど手続きが複雑になるため、3年という期限を意識して進めましょう。
2-5. 相続税の納税義務:5年または7年
相続税の納税義務に関する時効は、原則として法定申告期限(死亡したことを知った時から10ヶ月)の翌日から5年間です。ただし、無申告や虚偽申告など悪質なケースでは7年間に延長されます。
この時効は、税務署が相続税を徴収できる期間を定めたものです。
時効が成立すると、税務署は原則として相続税を徴収できなくなりますが、税務調査などで問題が見つかった場合は、追加の税金やペナルティが課される可能性があります。正確な申告を心がけ、不明点は税理士に相談することで、後のトラブルを防げるでしょう。
2-6. 相続した借金の支払い義務:5年または10年
相続した借金(債務)にも、消滅時効が適用されます。
民法では、債権の内容や状況に応じて、消滅時効の期間は原則として「権利を行使できることを知った時から5年」または「権利を行使できる時から10年」のいずれか早い方で時効が完成するとされています。なお、2020年3月31日以前に発生した債権については、権利を行使できる時から10年(商行為による債権については、5年)で時効となります。
たとえば、父親が銀行への借金を遺して亡くなった場合、「最後の返済期日」または「最終返済日」の翌日から5年で時効を迎えます。ただし、債権者が裁判を起こしたり、支払督促などの法的手続きを取った場合、時効の進行には影響があります。
相続人が相続放棄をしない限り、原則として被相続人の借金も引き継ぐことになります。そのため、たとえば父親に借金があった場合には、相続開始を知った日から3か月以内に相続放棄を検討する必要があります。 債務の詳細を確認し、相続放棄をするか、計画的な返済を検討するか、慎重な判断が求められます。
2-7. 相続回復請求権:5年または20年
相続回復請求権とは、本来の相続人が自分の相続権を侵害されている場合に行使できる権利です。
この権利は、相続権の侵害を知った時から5年、相続開始時(被相続人の死亡時)から20年で時効となります。例えば、ほかの相続人が勝手に遺産分割を行い、あなたの取り分を無視したような場合に行使できます。
また、被相続人の死亡を知らされず、ほかの相続人だけで遺産分割が行われた場合なども対象です。相続に不審な点を感じたら、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
2-8. 預金債権:5年または10年
2020年4月1日以降に発生した債権については、権利を行使できることを知ったときから5年、権利を行使できるときから10年のいずれかが経過した時点で時効となります。それより前に発生した債権の時効期間は、権利を行使できるときから10年です。
ただし、時効を理由として解約や払い戻しを拒否するかどうかは金融機関次第です。実際のところ、払い戻しに応じる金融機関がほとんどです。とはいえ、相続から時間が経過すればするほど手続きを忘れるリスクが高まり、相続関係が複雑になる可能性もあります。金融機関の預貯金などの相続手続きは早めに完了させることをおすすめします。
3. 時効を阻止して猶予を貰うには
遺留分侵害額請求権、相続した債権、相続回復請求権については、時効の完成猶予(停止)や更新(中断)の手続きをとることで、消滅時効の完成を阻止することができます。ここでは、「完成猶予・停止」「更新・中断」の2つについて解説します。
ちなみに、「遺留分侵害額請求権」や「相続回復請求権」は相続に特化した請求権で、決まった時効期間があります。一方、「相続した債権」とは、亡くなった人が持っていた借金や貸し金などの債権を相続したもので、普通の債権と同じルールで時効が進みます。
ただし、民法第160条により、相続人が確定した時、相続財産管理人が選任された時、相続財産の破産手続開始決定があった時から6か月を経過するまでの間、その時から6ヶ月間は時効の完成が猶予されるというルールもあります。
3-1. 一時的に阻止する「完成猶予・停止」
時効の進行を一時的に止める方法として「完成猶予」や「停止」があります。
時効の「完成猶予」および「停止」とは、時効の完成を一時的に止める手続きです。完成猶予や停止の効果が存続している間は、時効は完成しません。2020年3月31日以前に発生した債権については「停止」の手続き、2020年4月1日以降に発生した債権は完成猶予の手続きをとります。
【時効の停止事由】
- 天災地変など
- 内容証明郵便などによる履行の催告(6カ月間のみ)
【時効の完成猶予事由】
- 裁判上の請求
- 支払督促
- 和解・調停
- 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
- 強制執行
- 担保権の実行
- 競売
- 財産開示手続
- 第三者からの情報取得手続
- 仮差押え、仮処分
- 内容証明郵便などによる履行の催告(6カ月間のみ)
- 協議の合意
3-2. 時効をリセットする「中断・更新」
時効の進行を止めて最初からやり直す方法として「中断」や「更新」があります。
2020年3月31日以前に発生した債権については「中断」、2020年4月1日以降に発生した債権については「更新」の手続きをとります。
【時効の中断事由】
- 裁判上の請求
- 差押え・仮差押え・仮処分
- 債務の承認
【時効の更新事由】
- 訴訟の提起、支払督促、和解・調停、破産手続参加等の後、権利が確定したこと
- 強制執行、担保権の実行、競売、財産開示手続き、第三者からの情報取得手続が終了したこと
- 権利の承認
例えば、相続した借金について債権者から請求を受け、その一部を支払った場合、債務の承認とみなされるため、時効は中断され、再度最初から時効期間がカウントされます。
時効の更新・中断は基本的に債権者側の行動によって生じるものですが、債務者側としては、時効の利益を放棄する意思表示をしないよう注意が必要です。特に借金の相続があった場合は、安易に債務を認めたり、一部返済したりする前に専門家に相談することをおすすめします。
4. 相続の手続きはどの士業に任せればいい?
相続の手続きは司法書士や弁護士などの士業に任せられますが、それぞれ専門分野が異なります。
ケース別に推奨される士業について解説するので、ぜひ参考にしてください。
4-1. 士業の対応可能な業務内容
遺言書の確認や相続税の申告、不動産の名義変更など、士業によって担当分野が異なります。
以下の表に弁護士・司法書士・税理士・行政書士の4つの士業の業務内容をまとめました。
手続き | 弁護士 | 司法書士 | 税理士 | 行政書士 |
---|---|---|---|---|
遺言書の検認手続き | ◯ | △ ※1 | × | × |
相続財産の調査 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
相続人の調査 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
遺産分割協議書の作成 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
相続放棄・限定承認 | ◯ | △ ※1 | × | × |
相続税の申告・納付 | △ ※3 | × | ◯ | × |
相続人同士のトラブル解決 | ◯ | △ ※2 | × | × |
預金・貯金・有価証券の払い戻し | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
有価証券の名義変更 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
不動産の名義変更 | △ ※4 | ◯ | × | × |
※1 家庭裁判所への提出書類の作成は可能
※2 認定司法書士の場合、請求額が140万円以下の訴訟であれば可能
※3 税理士登録をしている場合
※4 法律上可能だが、実務上は司法書士に任せるケースが多い
4-2. 相続トラブルなら弁護士がおすすめ
相続の手続きをするうえで、既に相続人間で意見が対立している場合など複雑な問題が絡む場合は弁護士への相談がおすすめです。
弁護士は法律の専門家として、相続全般の問題を幅広く扱えるので、必要に応じてほかの専門家との連携も可能です。
特に、相続人間で意見が対立している場合や、遺言の解釈に疑義がある場合、遺留分の問題がある場合などは、弁護士の法的知識が役立ちます。また、弁護士には守秘義務があり、家族の秘密も安心して相談できます。
4-3. 不動産の名義変更なら司法書士
不動産の名義変更(相続登記)が主な目的なら、司法書士への依頼がおすすめです。
司法書士は不動産登記の専門家であり、必要書類の収集から申請手続きまで一貫してサポートしてくれます。
特に2024年4月からの相続登記義務化にともない、3年以内の登記が必要となったため、司法書士の存在はますます重要になっています。
司法書士に依頼すれば、戸籍謄本や住民票の収集、遺産分割協議書の作成アドバイス、法務局への申請まで一括して対応してもらえるのが魅力です。
4-4. 相続税の申告と納付なら税理士
相続財産が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人数)を超える場合は、相続税の申告が必要となります。
相続税の申告が必要な場合は税理士への依頼がおすすめです。税理士は相続財産の評価から、控除や特例の適用、申告書の作成まで専門的にサポートしてくれます。
特に不動産や事業用資産、有価証券など評価が難しい財産がある場合や、小規模宅地等の特例などの節税対策を検討したい場合は、税理士の知識がおおいに役立つでしょう。
5. よくある質問・Q&A
ここでは、遺産相続における事項について、よくある質問と回答をまとめました。
Q1. 遺産相続は何年前まで遡れる? |
A1. 原則として、遺産相続は被相続人の死亡と同時に開始され、相続人には遺産分割を請求する権利が発生します。遺産分割請求そのものには時効はなく、相続人である限り、いつでも請求することが可能で、何年でもさかのぼることができます。ただし、本来の相続人が、自分の相続権を第三者に不当に奪われた場合に、その回復を求める「相続回復請求権」には時効があります。この権利は、権利侵害を知ってから 5年以内、相続開始から 20年以内という期間内に行使しなければならず、それを過ぎると請求できなくなります(民法第894条)。 したがって、最大で相続開始から20年以内までは、相続回復請求権を通じて自分の権利を主張できる場合がありますが、実際には「知ってから5年以内」に動かなければならないことが多く、実質的な行使期間は短くなりがちです。例えば、10年前に父親が亡くなり、当時から自分が相続人であることや他の人が遺産を取得していることを知っていた場合、すでに相続回復請求権は時効により消滅している可能性が高いといえます。 なお、遺産が後から発見された場合や、相続の事実を最近になって知った場合など、特殊な状況では「いつから期間が進行するのか」という点が重要となるため、こうした場合には早めに法律の専門家へ相談されることをおすすめします。 |
Q2. 相続の3ヶ月ルールとは? |
A2. 相続の3ヶ月ルールとは、相続の放棄や限定承認を行う期限のことです。相続人は、自分が相続人であることを知り、かつ被相続人が死亡したことを知った時から3ヶ月以内に、家庭裁判所で相続放棄や限定承認の手続きをする必要があります。この期間を過ぎると、原則として無条件で相続を承認したものとみなされ、プラスの財産だけでなくマイナスの財産(借金など)も引き継ぐことになります。 被相続人の借金が心配な場合は、まず財産状況を調査し、必要であれば早めに相続放棄を検討することが大切です。特に、仕事が忙しい時期と重なる場合でも、この3ヶ月は厳格に適用されることが多いため注意しましょう。財産調査に時間がかかるなど熟慮期間内に決めきれない場合には、家庭裁判所に対して申立てを行うことで、3か月の期間を伸長することができます。 |
Q3. 新しく財産が出てきたら遺産分割協議はやり直せる? |
A3. 新たな財産が見つかった場合、原則として遺産分割協議をやり直せます。ただし、すでに遺産分割協議が成立し、その内容に「後から発見された財産についても同じ割合で分ける」などの取り決めがある場合は、その合意に従うことになります。 また、新たな財産についてのみ追加の遺産分割協議を行うことも可能です。ただし、すでに分割した財産の価値と比べて新発見の財産が高額である場合など、全体のバランスを考慮して再協議が必要になるケースもあります。新たな財産が見つかった場合は、まず相続人全員に情報を共有し、公平な分割方法を話し合うことが重要です。 |
6. 時効や期限を逃さないために、専門家に相談を
相続には様々な時効や期限があり、それぞれの期限内に適切な手続きを行うことが重要です。特に仕事が忙しい時期と重なる場合は、専門家のサポートを受けることをおすすめします。
弁護士や司法書士、税理士などの専門家は、相続手続きの経験が豊富であり、効率的に手続きを進めるノウハウを持っています。時効や期限を過ぎると取り返しのつかない事態になることもあるため、早めの相談が肝心です。
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