この記事を要約すると
- 相続登記を第三者に任せる場合、委任状が必要であり、記載漏れや誤りがあると申請が受理されない可能性があります。
- 委任状には登記目的・相続人情報・不動産の表示などを正確に記載し、補足条項も忘れずに明記しましょう。
- 専門知識が必要な相続登記は、司法書士への依頼が有効であり、手続きを一括サポートしてもらえる利点があります。
1. 相続登記における委任状とは?
相続登記における委任状とは、不動産の名義変更手続きを第三者に依頼する際に作成する書類のことです。相続登記は本来、相続により不動産を取得した本人が自ら申請するものですが、手続きを行うのが難しい場合や専門家に依頼する場合には、委任状を通じて代理申請を許可する必要があります。
委任状は、「誰が」「誰に」「どのような登記を」「どの不動産について」行うかを明示することで、代理人に正式な権限を与える役割を果たします。
たとえば、相続人の1人が他の相続人を代表して登記申請する場合や、司法書士に手続きを依頼する場合には、必ず委任状が求められます。
なお、委任状の作成にあたって特別な資格は不要で、記載事項を満たせば個人でも作成可能です。ただし、報酬を受け取って反復継続的に登記申請の代理を行うことは、司法書士または弁護士の資格がなければ違法となるため注意しましょう。
また、相続登記の委任状には決まった書式がないため、登記申請に必要な内容を正確に記載することが重要です。これには、登記の目的や原因、相続人や不動産の詳細な情報などが含まれます。誤記や不備があると、法務局で申請が受理されないこともあるため、正確な記載が求められます。
2. 委任状が必要なケース
相続登記において委任状が必要となるのは、「相続人本人以外が登記申請を行う場合」です。たとえば、以下のようなケースでは委任状の提出が求められます。
- 他の相続人に申請を任せる場合
相続人のうち一人が他の相続人の代理で登記申請を行うには、代理される相続人からの委任状が必要です。これは遺産分割協議後に不動産を取得する相続人が決まり、その者以外が手続きを進めるような場面でよくみられます。 - 司法書士などの専門家に依頼する場合
司法書士が登記申請を行うには、登記を受ける相続人全員からの委任状が必要です。司法書士が代理人として登記手続きを行うには法的な根拠が必要であり、委任状はその証拠として機能します。 - 身体的・地理的事情により本人が申請できない場合
高齢や病気などで移動が困難な場合や、相続人が遠方に住んでいる場合には、家族や信頼できる第三者に代理を依頼することがあります。この場合も、委任状が必要です。
なお、法定相続分に基づく共有名義で相続登記を行う際、例外的に他の相続人の委任状が不要となることがあります。ただし、その場合は登記識別情報通知が発行されないといったデメリットが生じるため、慎重な判断が必要です。
3. 【ひな型付き】相続登記の委任状の書き方
相続登記の委任状を正確に作成するには、不動産の詳細情報や相続関係を明記する必要があります。
ここでは、相続登記に使う委任状の書き方をステップごとに解説します。各ステップを参考にしながら、確実に記載を進めていきましょう。
ステップ1:登記事項証明書を取得しよう
まずは相続登記の対象となる不動産の情報を正確に把握するため、登記事項証明書(登記簿謄本)を取得しましょう。この書類には、不動産の「所在」「地番」「種類」「構造」「床面積」など、委任状に記載すべき情報がすべて載っています。
登記事項証明書は、不動産の所在地を管轄する法務局で取得できます。また、オンライン(登記・供託オンライン申請システム)でも請求可能です。発行手数料は1通あたり600円前後です。
不動産が複数ある場合は、それぞれの登記事項証明書を取り寄せておきましょう。情報の記載ミスを防ぐためにも、書類を見ながら転記するのが基本です。
ステップ2:委任する相手(受任者)を記載しよう
委任状には、相続登記を任せる相手・受任者の「住所」と「氏名」を正確に記載します。住所は、原則として住民票に記載されている住所を正確に記載する必要があります。
「〇番〇号」などの番地表記を「〇-〇」といった略記に変えることは問題ありませんが、可能な限り住民票に記載された正式な表記を用いるのが安全です。
また、委任する相手が司法書士などの専門家である場合は、職印や登録番号の記載は不要です。名前と住所のみで十分です。
たとえば、佐藤 花子さんが山田 太郎さんに登記手続きを委任する場合、次のように記載します。
受任者 住所 東京都新宿区〇〇町〇〇番地 氏名 山田 太郎 |
受任者の情報に間違いがあると、法務局から補正の指示や取り下げを求められる可能性もあるため、記載ミスがないか確認したうえで記載するようにしましょう。
ステップ3:登記申請を委任する旨を記載しよう
受任者の氏名と住所の下には、登記申請を委任する内容を明記します。
具体的には、「下記登記申請に関する一切の件を委任します」といった文言を使用します。これにより、どの手続きを代理してもらうのかが明確になります。
たとえば、次のように記載します。
上記の者を代理人と定め、下記登記申請に関する一切の件を委任します。 |
この一文を記載することで、登記の申請だけでなく、修正や補足の対応など付随する事務全般も含めて委任することが可能になります。委任の範囲を明確にするため、簡潔でありながら網羅的な表現が必要です。
ステップ4:登記の目的を記載しよう
委任状には、具体的な登記の目的を記載する必要があります。登記の目的とは、被相続人から誰にどのような権利が移転されるのかを示すものです。
被相続人が不動産を単独で所有していた場合には、以下のように記載します。
登記の目的 所有権移転 |
一方、被相続人が不動産を複数人で共有していた場合は、その持分のみを移転することになります。この場合の記載例は以下のとおりです。
登記登記の目的 〇〇〇〇持分全部移転 |
※「〇〇〇〇」には、被相続人の氏名をフルネームで記載
登記の目的を誤って記載すると、法務局から補正を求められる可能性があります。単独所有か共有かによって適切に書き分けることが重要です。
不動産の所有形態が不明な場合は、必ず登記事項証明書を取得して確認しましょう。
ステップ5:登記原因(相続日)を記載しよう
委任状には、登記の原因となる事実とその日付を正確に記載する必要があります。相続登記の場合、登記原因は「相続」であり、日付は被相続人が亡くなった日を記載します。
記載例は以下のとおりです。
原因 令和〇年〇月〇日 相続 |
この「令和〇年〇月〇日」の部分には、被相続人の死亡日を記載します。死亡日は、戸籍謄本や除籍謄本、住民票の除票などで正確に確認しましょう。
なお、日付が不正確だったり記載が漏れていたりすると、法務局から補正を求められる可能性もあるため、記入ミスには注意が必要です。
ステップ6:相続人情報を記載しよう(ケース別)
委任状には、不動産を相続する相続人の住所・氏名・持分割合などの情報を記載します。被相続人の氏名もあわせて記載し、「相続人(被相続人 〇〇)」の形式で明示します。
記載内容は、不動産の所有形態と相続人の人数に応じて変わります。以下、代表的な4パターンを紹介します。
(1)単独所有を1人で相続する場合
相続人 (被相続人 山田太郎) 東京都新宿区〇〇町〇丁目〇番〇号 山田花子 |
(2)共有持分を1人で相続する場合
被相続人の持分割合を正確に記載します。
相続人 (被相続人 山田太郎) 東京都新宿区〇〇町〇丁目〇番〇号 持分3分の2 山田花子 |
(3)単独所有を複数人で相続する場合
複数の相続人が持分を共有する場合、それぞれの住所・氏名・持分割合を明記します。
相続人 (被相続人 山田太郎) 東京都新宿区○○町○丁目○番○号 持分2分の1 山田花子 神奈川県横浜市○○区○丁目○番○号 持分2分の1 山田次郎 |
(4)共有持分を複数人で相続する場合
被相続人の共有持分をさらに複数人で分ける際は、全体に対する持分で記載する点に注意が必要です。
相続人 (被相続人 山田太郎) 東京都新宿区○○町○丁目○番○号 持分12分の3 山田花子 神奈川県横浜市○○区○丁目○番○号 持分12分の1 山田次郎 |
正確な持分を記載するためには、登記事項証明書で不動産の所有形態と持分を必ず確認しましょう。
ステップ7:不動産の表示を記載しよう(物件別)
委任状には、相続登記の対象となる不動産の情報(不動産の表示)を記載します。これは登記事項証明書(登記簿謄本)に記載された内容をもとに記入する必要があります。
不動産の種類によって記載方法が異なるため、以下に物件別の記載例を紹介します。
なお、「不動産番号」は記載しても記載しなくても問題ありません。
土地の場合
土地を相続する場合は、以下の情報を記載します。
不動産の表示 不動産番号 1234567890123 所在 東京都渋谷区〇〇一丁目 地番 5番2 地目 宅地 地積 81.22㎡ |
共有名義だった場合は、「共有者 〇〇 〇〇 持分〇分の〇」と明記します。
建物(戸建て)の場合
戸建てなど一棟の建物を相続する場合の例です。
不動産の表示 不動産番号 0123456789012 所在 東京都渋谷区〇〇一丁目5番地2 家屋番号 5番2 種類 居宅 構造 木造瓦葺2階建 床面積 1階 70.25㎡ 2階 62.08㎡ |
共有名義である場合は、土地と同様に共有者・持分の記載を加えましょう。
マンションの一室の場合
マンションなど区分所有建物を相続する場合には、以下のように複数の項目を記載します。
不動産の表示 不動産番号 3141592653589 一棟の建物の表示 所在 東京都新宿区○○二丁目 5番地2 建物の名称 ○○マンション 専有部分の建物の表示 家屋番号 ○○二丁目5番2 建物の名称 202号室 種類 居宅 構造 鉄筋コンクリート造5階建 床面積 2階部分 68.76㎡ 敷地権の表示 符号 1 所在及び地番 東京都新宿区○○二丁目5番2 地目 宅地 地積 879.23㎡ 敷地権の種類 所有権 敷地権の割合 2697411分の7193 |
敷地権の符号が複数ある場合は、すべて記載する必要があります。
ステップ8:補足条項を記載しよう
相続登記に必要な委任状には、登記そのもの以外の手続きについても代理できる旨を記載しておくと安心です。これにより、代理人が登記以外の関連業務も一括して対応できるようになります。
以下は、記載しておくと便利な補足条項です。
補足条項 | 内容 |
---|---|
登記識別情報の受領 に関する一切の件 | 登記完了後に発行される「登記識別情報通知書(いわゆる新しい権利証)」を、 代理人が受け取れるようにするための記載です。登記識別情報は今後の売却や 担保設定時に必要になる重要書類のため、確実に受け取れるようにしておきましょう。 |
復代理人選任 に関する一切の件 | 代理人がさらに別の人(復代理人)に業務を依頼する場合に備えた条項です。 たとえば、依頼した司法書士が別の司法書士に登記申請を依頼するようなケースでは、 この記載が必要となります。 |
原本還付請求および受領 に関する一切の件 | 登記申請時に提出した住民票や戸籍などの原本を、申請後に返却してもらうための代理権限です。 不要な場合は記載しなくても構いませんが、特に再利用する予定がある場合は記載しておくと便利です。 |
登記識別情報受領に係る 復代理人選任に関する一切の件 | 登記識別情報の受領についても、復代理人を選任できるようにするための記載です。 代理人が受け取れない場合に備えておくと安心です。 |
登記申請の取下げおよび 登録免許税の還付金の請求受領 又は再使用証明申出の請求受領 に関する一切の件 | 登記申請に誤りがあった場合に、一度申請を取り下げて再提出することがあります。 その際に納付済みの登録免許税を返金または収入印紙の再利用のための証明をしてもらう手続きも、 代理で行ってもらえるように記載します。 |
これらの補足条項を盛り込んでおくことで、相続登記の代理手続きを一任でき、トラブルや手戻りのリスクを減らすことができます。
ステップ9:日付・氏名・住所を記載し、署名・押印しよう
委任状の最後には、作成日・委任者の住所・氏名を記載し、押印します。この欄は委任者の本人確認にも関わる重要な部分のため、記載漏れや誤りがないように注意しましょう。
特に住所と氏名は、住民票に記載されているとおりに正確に記載する必要があります。建物名や部屋番号、旧字体なども省略せず、正式表記を確認して記入してください。
また、氏名は自署(手書き)で記載するのが望ましく、後日のトラブル防止にもつながります。仮にパソコンで作成する場合でも、署名欄だけは本人が手書きすると安心です。
押印については、認印で問題ありませんが、シャチハタなどのインク印は避けましょう。書類の正式性や長期保存の観点から、朱肉を使った印鑑を使用するのが一般的です。
以上で、相続登記の委任状の作成は完了です。記載内容をよく確認し、不備がないことを確認してから提出するようにしましょう。
4. 相続登記で委任状を作成するときの注意点
委任状には決まった書式がない分、記載ミスや不備によって無効になるリスクもあります。ここでは、作成時に押さえておきたい注意点を具体的に紹介します。
4-1. 住民票と一致する正確な住所・氏名を記載する
委任者や相続人の氏名・住所は、住民票や戸籍と完全に一致する形で記載しましょう。アパート名・部屋番号や旧字体の漢字まで、省略せずに記入することが大切です。
1文字でも異なると別人とみなされる可能性があり、登記申請が却下されることもあります。
4-2. 白紙の委任状は絶対に作成しない
委任内容が未記入のまま署名押印だけされた「白紙委任状」は、悪用されるリスクが非常に高いため絶対に避けましょう。
不動産の表示や委任の範囲をあいまいにしたまま委任すると、意図しない登記が行われる可能性があります。
4-3. 捨印は必要最低限にとどめる
捨印は、書類に誤記があった際に訂正を認める印ですが、第三者が勝手に修正できる余地を与えるものでもあります。
相手に強い信頼がない場合や内容が不安な場合は、捨印を避けるか、最小限にとどめましょう。
4-4. 記載ミスは訂正印を使って修正する
委任状の記載に誤りがあった場合は、誤った箇所を二重線で消し、訂正印を押したうえで正しい内容を記入します。
なお、記載ミスの修正方法が不適切だと、法務局から補正の指示または取り下げを求められる場合もあるため、丁寧に対応しましょう。
4-5. 旧字体や異体字を正しく使う
人名に多い旧字体や異体字は、本人の住民票・戸籍上の表記と一致させる必要があります。
具体例は以下のとおりです。
- 「高」→「髙」
- 「崎」→「﨑」
- 「斉」→「齊」
パソコンで入力する場合でも、正しい漢字を確認し、誤変換や簡略化を避けましょう。
5. 司法書士に依頼する場合のポイント
相続登記に不安がある方は、専門家である司法書士への依頼がおすすめです。ここでは、依頼のメリットや費用感、費用を抑える方法など、事前に知っておきたいポイントをまとめています。
5-1. 委任状の作成は司法書士がサポートしてくれる
司法書士に相続登記を依頼すると、委任状の作成についてもサポートしてもらえます。
通常は、登記に必要な情報を伝えるだけで、司法書士が委任状のひな形を用意し、記載例や署名欄の注意点なども案内してくれるため、初めての方でも安心です。また、複数の相続人がいる場合でも、必要な分の委任状を取りまとめて対応してくれます。
5-2. 必要書類の収集・作成もすべて任せられる
相続登記に必要な戸籍謄本や住民票、評価証明書、不動産の登記事項証明書など、煩雑な書類の収集も司法書士が代行してくれます。
さらに、相続関係説明図や遺産分割協議書といった専門性の高い書類の作成も一任できるため、手続きの手間やミスのリスクを大幅に減らすことができます。
5-3. 相場は5〜15万円前後かかる
司法書士に相続登記を依頼する際の報酬は、不動産の数や相続人の人数、手続きの複雑さにより異なりますが、相場としては5〜15万円前後が一般的です。
これに加えて、登録免許税や書類の取得費用などの実費も別途発生します。事前に見積もりを取り、費用の内訳を明確にしておくと安心です。
6. よくある質問・Q&A
相続登記の委任状に関する疑問は多く寄せられています。ここでは、読者の方から特に質問の多いポイントについて、わかりやすくQ&A形式で解説します。
Q1. 相続登記の委任状とは? |
A1. 相続登記の委任状とは、不動産の名義変更手続きを本人以外の代理人に任せる際に必要となる書類です。委任状を作成することで、相続人本人が登記手続きを行えない場合でも、家族や司法書士などの第三者が代わりに登記申請を行えるようになります。委任状には、誰が誰にどの登記手続きを任せるのかを明記し、署名・押印を行います。登記申請書と一緒に法務局へ提出することで、代理人が相続登記を行うことが可能になります。 |
Q2. 家族が代理で相続登記を申請するときも委任状は必要? |
A2. たとえ家族であっても、相続人本人以外が登記申請を行う場合は、委任状が必要です。親が高齢で法務局へ行くのが難しいために子が代理で申請するような場合でも、正当な代理権を証明するために委任状の提出が求められます。法定代理人(例:未成年者の親権者など)を除けば、家族間であっても委任状の提出が原則となるので注意しましょう。 |
Q3. 司法書士に依頼する場合、委任状には実印が必要? |
A3. 司法書士に相続登記を依頼する際、委任状への押印は必ずしも実印である必要はありません。認印でも有効とされています。ただし、同時に提出が必要な「遺産分割協議書」には実印の押印が求められ、印鑑証明書の添付も必要となります。登記の種類や法務局の対応によって異なることもあるため、念のため事前に司法書士へ確認しておくと安心です。 |
7. 迷ったら専門家に相談して、スムーズに相続登記を進めよう
相続登記における委任状は、自分以外の人に登記申請を任せるための重要な書類です。内容に不備があると手続きが滞り、不動産の名義変更が完了しないおそれもあります。
また、記載する不動産情報や持分割合、登記原因などには登記事項証明書や戸籍の確認が必要となるため、慣れていない方にとっては大きな負担となりがちです。さらに、相続人間の誤解や書類の不備によって、思わぬトラブルにつながるケースもあります。
そのため、委任状の作成を含めた相続登記全般は、できるだけ早い段階で専門家に相談することをおすすめします。
相続手続きの専門集団「nocos(NCPグループ)」では、司法書士・税理士などの専門家がチームで連携し、委任状の作成から登記完了までを一貫してサポートしています。複雑な相続にも対応しており、初回相談は無料、オンラインでも受付可能です。相続登記でお悩みの方は、まずはお気軽にご相談ください。