この記事を要約すると
- 遺言書の検認は、遺言の形状などを家庭裁判所が確認する手続きであり、有効性を保証するものではありません。
- 検認後は財産の確認や遺言執行者の確認、名義変更や相続税申告などの手続きを順に進める必要があります。
- 遺言内容に不審点がある場合は、遺言無効確認訴訟や遺留分侵害額請求など、法的対応も検討が必要です。
1. そもそも遺言書の検認とは?
遺言書の検認とは、家庭裁判所が遺言書の形状など、現状の遺言書の内容を明確化して、偽造や変造を防ぐための手続きです。まずは、その目的や法的効力との違いを押さえておきましょう。
1-1. 検認の定義と目的
検認とは、自筆証書遺言や秘密証書遺言などの遺言書を家庭裁判所に提出し、その内容や形状を確認する手続きです。民法第1004条に基づき、遺言書の保管者または発見者は、相続開始を知ったあとに速やかに検認を申し立てる義務があります。
検認の目的は、相続人全員にその存在を通知し、その内容を知る機会を提供するとともに、遺言書の偽造・変造を防止することです。検認では、遺言書の筆跡・日付・署名・加除訂正の状況などが確認され、遺言書の状態が記録されます。この記録は、のちに相続人間でのトラブルを防ぐ資料としても重要な役割を果たします。
1-2. 法的効力との違い
検認は、遺言書の形状などを確認し記録する手続きにすぎず、遺言の有効性や内容の正当性を裁判所が判断するものではありません。そのため、検認が済んだからといって、遺言書が法的に有効と確定されるわけではない点に注意が必要です。
たとえば、遺言者が遺言作成時に認知症であった場合や、遺言書に法律上の形式不備があった場合は、あとから無効とされる可能性もあります。検認後でも、相続人は遺言無効確認訴訟や遺留分侵害額請求などの法的手段を取ることが可能です。
2. 遺言書の検認が終わったあとの流れ
検認が終わったあとは、実際に相続手続きを進めていく必要があります。ここでは、遺言書の検認が終わったあとの以下の流れを解説します。
- 遺言書に記載された財産の範囲を確認する
- 遺言執行者の有無を確認する
- 財産目録を作成する
- 相続人ごとに相続財産を確認する
- 各種の相続手続きを実行する
- 必要に応じて特別な届出・申立てを行う
- 相続税の申告・納付も忘れずに
2-1. 遺言書に記載された財産の範囲を確認する
遺言書の検認が終わったら、まずは遺言書に記載されている財産が相続財産の全体を網羅しているかどうかを確認しましょう。
不動産、預貯金、有価証券など、財産の種類や範囲が明確に記載されていない場合、その財産については遺言書の効力が及ばず、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。
記載のない財産を曖昧にしたまま手続きを進めると、相続人間のトラブルにつながるおそれがあるため注意が必要です。
2-2. 遺言執行者の有無を確認する
次に、遺言書に遺言執行者が指定されているかどうかを確認します。遺言執行者は、遺言の内容を実現するための権限と義務を持つ者で、遺言書の文中に「〇〇を遺言執行者に指定する」といった形で記載されます。
たとえば、遺言に認知や相続人の廃除が含まれている場合は、遺言執行者が必要です。指定がないときは、家庭裁判所に申し立てて選任してもらう必要があります。
一方、そうした内容が含まれていない遺言書で遺言執行者の指定がない場合は、原則として相続人全員が協力して遺言の内容を執行することになります。この場合、金融機関や役所での手続きを進めるには、相続人全員の署名や他の相続人からの委任状を求められるのが一般的です。
2-3. 財産目録を作成する
遺言執行者がいる場合、遺言執行者が相続財産の調査と財産目録を作成します。
財産目録には、不動産・預貯金・有価証券・負債などが漏れなく記載される必要があります。調査にあたっては、不動産登記事項証明書や金融機関の残高証明書を取得するほか、信用情報機関(CIC・JICC等)を活用して負債の有無も確認します。
財産目録は、正確な相続手続きを進めるための土台といえるでしょう。
2-4. 相続人ごとに相続財産を確認する
財産目録が完成したら、各相続人が相続する財産の内容を確認しましょう。財産の「種類」や「所在」が明確になっていないと、のちの名義変更や相続登記の際に問題となります。
たとえば、不動産であれば所在地の地番、預貯金であれば金融機関名や口座番号などを事前に把握しておくことが重要です。相続内容を相続人間で共有することで、手続きがスムーズに進みます。
2-5. 各種の相続手続きを実行する
相続財産の内容が確定したら、財産の種類ごとに必要な手続きを進めます。
自筆証書遺言などによる相続手続きには、検認済証明書の提出が求められるケースが多いため、忘れずに用意しておきましょう。
以下は代表的な相続財産と手続き内容です。
相続財産の種類 | 手続き内容 | 手続き先 |
---|---|---|
不動産 | 相続登記 | 法務局 |
預貯金 | 解約・名義変更 | 銀行 |
株式・投資信託 | 解約・名義変更 | 証券会社 |
保険金 | 請求・契約者変更 | 保険会社 |
自動車 | 名義変更(移転登録) | 運輸支局 |
上記の手続きには、遺言書の原本や検認済証明書に加え、相続人の本人確認書類、印鑑証明書、戸籍謄本なども必要になります。相続財産ごとに提出書類や手続き方法が異なるため、事前に手続き先の窓口や公式サイトで確認しておくとスムーズです。
また、必要に応じて司法書士などの専門家に依頼することで、複雑な手続きも安心して進めることができます。
2-6. 必要に応じて特別な届出・申立てを行う
遺言の内容によっては、通常の相続手続きに加えて特別な届出や申立てが必要となる場合があります。
たとえば、遺言で婚外子を認知すると定めていた場合、遺言執行者は就任の日から10日以内に認知届を市区町村に提出しなければなりません。
また、未成年後見人が遺言で指定されている場合は役所へ届出を行い、指定がなく必要な場合は家庭裁判所で選任申立てが必要です。
さらに、被相続人が遺言によって推定相続人の廃除、または廃除の取消しを行っている場合は、遺言執行者が家庭裁判所に申立てる必要があります。
2-7. 相続税の申告・納付も忘れずに
相続税の申告と納付は、相続開始を知った日の翌日から10カ月以内に行う必要があります。この期限を過ぎると延滞税や加算税が課される可能性があるため注意しましょう。
相続税の申告義務は、相続人及び受遺者の固有の義務であり、遺言執行者であっても相続人や受遺者に代わって相続税の申告をすることはできません。
遺産評価や控除の適用には専門的知識が求められるため、早めに税理士などの専門家に相談し、確実に準備を進めることが大切です。
3. 遺言書に不審な点があったときの注意点・対処法
遺言書の検認が済んだからといって、必ずしも内容が有効とは限りません。不審点が見つかった場合の確認方法や法的対応を解説します。
3-1. まずは検認を鵜呑みにせず有効性を見極める
遺言書の検認は「有効性を確定する手続き」ではありません。あくまで遺言書の形状や記載内容を家庭裁判所が確認し、偽造や変造を防ぐための形式的な手続きです。
そのため、検認が済んだ遺言書でも、内容や作成時の状況によっては無効となる可能性があります。
遺言書の筆跡が本人のものか、署名・日付の記載が正確か、作成当時の判断能力に問題がなかったかなど、法的な有効性について冷静に確認する必要があります。
3-2. 遺言無効確認訴訟を検討する
遺言書の有効性に重大な疑問がある場合は、「遺言無効確認訴訟」を家庭裁判所に提起する方法があります。
たとえば、遺言者が認知症などで意思能力を欠いていたと疑われる場合や、遺言書の筆跡が本人のものと異なると感じる場合には、法的に無効とされる可能性があります。
この訴訟では、医師の診断記録や筆跡鑑定、証人の証言などをもとに、遺言の有効性を争うことになります。訴訟を起こすには法的知識や証拠が必要となるため、弁護士に相談のうえ、慎重に対応を進めましょう。
3-3. 遺留分侵害額請求を行う
遺言書によって特定の相続人の取り分が極端に少なくなっている場合は、「遺留分侵害額請求」が可能です。
遺留分とは、配偶者・子・直系尊属といった一定の法定相続人に認められる、最低限の相続権のことです。遺言の内容がこの権利を侵害している場合、他の相続人などに対し、原則として金銭による補填を求めることができます。
遺留分侵害額請求は、相続開始と侵害を知った日から1年以内に行う必要があるため、早期に内容を精査して対応を進めることが重要です。
3-4. 異議申し立ての期限と手続きを確認する
遺言書の内容に異議がある場合でも、無制限に申し立てができるわけではありません。
遺留分侵害額請求には「1年以内」という明確な期限が設けられています。
また、遺言無効確認訴訟の申立てに期限は定められていませんが、時間が経つにつれて証拠の収集が困難になるため、できるだけ早く訴訟を提起することが望ましいでしょう。異議申し立てを行う方法としては、相続人間での協議や家庭裁判所での調停・審判、さらには訴訟などが考えられます。
それぞれの対応には期限や手続きの違いがあるため、内容に応じて適切な手続きを選択する必要があります。不明点がある場合は、早めに弁護士へ相談しましょう。
4. よくある質問・Q&A
遺言書の検認に関して寄せられることが多い疑問を、Q&A形式でわかりやすく解説します。手続き前後の不安解消に役立ててください。
Q1. 遺言書の検認後の手続きの流れは? |
A1. 遺言書の検認が終わると、まず家庭裁判所から検認済証明書を取得します。そのあと、遺言書の内容に従って遺言執行者や相続人が相続手続きを進めます。具体的には、相続財産の確認、財産目録の作成、各種名義変更や解約手続き、相続税の申告・納付などが必要です。遺言書に記載のない財産があれば、別途遺産分割協議も行います。遺言書の内容を正しく読み取り、期限内に必要な処理を進めることが重要です。 |
Q2. 検認を受けると、遺言の有効性はどうなる? |
A2. 検認を受けても、遺言の有効性が法的に確定するわけではありません。検認はあくまで、検認の日現在での遺言書の状態(形状、署名、日付、加除訂正など)を明確にし、偽造や変造を防ぐための手続きです。もし遺言の内容が法律に反していたり、作成時に遺言者の判断能力がなかったと疑われる場合は、たとえ検認が済んでいても遺言が無効とされる可能性があります。不審点がある場合は、遺言無効確認訴訟などを通じて、有効性を争うことができます。 |
Q3. 検認期日通知書はいつ届く? |
A3. 検認期日通知書は、検認の申立てのあとに、家庭裁判所から相続人全員に送付されます。通常は申立てから数週間〜1ヶ月程度で届くことが一般的です。ただし、裁判所の混雑状況や郵送の事情により、到着が遅れることもあります。長期間届かない場合は、家庭裁判所に問い合わせるとよいでしょう。 |
Q4. 遺言書の検認には期限がある? |
A4. 遺言書の検認には、明確な法定期限は設けられていません。ただし、民法では「相続の開始を知ったあと、遅滞なく」家庭裁判所に提出しなければならないと定められています(民法第1004条)。実務上は、相続税の申告期限(相続開始から10か月以内)などを考慮し、できるだけ早く検認を申し立てる必要があります。検認の遅れによって名義変更や遺産分割が進まない事態もあるため、遺言書を発見したら速やかに対応することが大切です。 |
5. 相続に向けて、遺言書の検認が終わったあとの対応を正しく理解しよう
遺言書の検認は、あくまで内容を形式的に確認する手続きであり、それ自体が遺言の効力を保証するものではありません。検認が終わったあとは、遺言内容の確認、遺言執行者の確認、財産目録の作成など、速やかに次のステップへ進む必要があります。
さらに、相続財産の名義変更や遺産分割、相続税の申告など、煩雑かつ専門的な作業が待ち構えています。不審点がある場合は、遺言の有効性や遺留分の確認も重要となります。
こうした相続手続きをすべて自力で行うのは簡単ではありません。誤りがあれば財産の分配トラブルや税務上のペナルティにつながるおそれもあります。
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