この記事を要約すると
- 内縁関係と法律婚との違いについて
- 内縁関係で財産を残すための方法について
- トラブルを防ぐための注意点について
1. 内縁関係とは?法律上の配偶者との違いを知る
1-1. 内縁関係の定義と特徴
内縁関係とは、法律上の婚姻届を提出していないものの、夫婦としての共同生活を営んでいる関係を指します。このような関係は、社会的に夫婦と認識されている場合も多く、「事実婚」と呼ばれることもあります。住民票においては、「世帯主との続柄」の欄に「未届の妻」「未届の夫」と記載されることで、ある程度公的に認知される場合もあります。
内縁関係が成立するには、単なる同居では不十分で、夫婦としての生活実態が必要です。たとえば、同じ家で生活し、家計を共にし、周囲からも夫婦と見なされるような状況が求められます。また、内縁関係は同性カップルにも適用される場合があり、一部の自治体ではパートナーシップ証明書を発行して、より広い範囲で内縁関係を認める取り組みが進められています。
1-2. 法律婚との違い
内縁関係は、社会的には夫婦と見なされることが多いものの、法的には法律婚とは明確に異なる扱いを受けます。
以下のような主な違いがあります。
■相続権がない
法律上の配偶者は常に法定相続人として財産を受け取る権利があります。しかし、内縁関係の妻や夫は法定相続人には含まれず、パートナーが亡くなった場合、財産を自動的に受け取ることはできません。これが、内縁関係における大きな課題の一つです。
■配偶者居住権が認められない
配偶者居住権は、法律婚の配偶者が、亡くなった配偶者の所有していた住居に無償または低額で住み続けることを保障する制度です。そのため、内縁の夫婦が共同生活を送っていた住居が相続人に引き継がれる場合、内縁の妻や夫は法的にその住居に住み続ける権利を主張することが難しく、相続人から立ち退きを求められる可能性があります。
■親権に関する取り扱い
内縁関係で生まれた子どもの親権は、原則として母親が単独で持つことになります。父親が親権を取得するには、母親の単独親権を変更する家庭裁判所での手続きが必要です。また、子どもは母親の戸籍に入り、姓も母の姓となります。父親が認知を行うことで、子どもの戸籍に父親の名前が記載され、父親の戸籍にも認知の事実が記録されます。これにより、父子関係が法的に認められ、子どもは父親の相続人となる権利を得ます。
■税制上の優遇が受けられない
法律婚では、配偶者控除や相続税の配偶者軽減措置など、多くの税制優遇措置があります。一方で、内縁関係ではこれらの適用はありません。特に相続税においては、法律婚の配偶者であれば多くの財産を非課税で受け取れる制度がありますが、内縁関係では適用されず、通常の税率が課されます。
1-3. トラブルが発生しやすい理由
内縁関係が法律婚と異なる大きな理由の一つは、その法的な保護の弱さです。たとえば、内縁の夫が突然亡くなった場合、残された妻は相続権がないために生活の基盤を失うリスクがあります。また、亡くなった夫の財産が親族に渡り、遺産分割の過程で内縁の妻と親族の間でトラブルが発生するケースも少なくありません。
さらに、法律婚では夫婦で築いた財産が共有財産と見なされる場合がありますが、内縁関係では必ずしも共有財産として認められないことがあります。このため、内縁のパートナーに財産を確実に残すためには、遺言書や生前贈与などの事前対策が必要になります。
内縁関係は、社会的には夫婦と見なされる場合が多いものの、法律婚とは大きく異なる扱いを受けます。特に相続や税制において法律婚の配偶者と同等の権利が認められない点が、トラブルや不安の原因になることが多いです。こうした背景から、内縁関係での生活を続ける場合、事前に適切な準備をすることが何より重要です。
2. 内縁の妻・夫に相続権はない|法定相続人の範囲
2-1. 法定相続人とは?
日本の民法は、誰が相続人になれるかを「法定相続人」として明確に定めています。法定相続人の範囲は以下のとおりです。
① 配偶者と子ども
配偶者は常に法定相続人として相続権を持ちます。また、子ども(嫡出子、非嫡出子、養子も含む)は第一順位の相続人となり、配偶者と共に財産を分ける権利があります。
② 直系尊属(親や祖父母)
子どもがいない場合は、直系尊属が第二順位として相続人になります。この場合も、配偶者と共に財産を分けます。
③ 兄弟姉妹
子どもも直系尊属もいない場合、兄弟姉妹が第三順位の相続人になります。この場合も、配偶者がいれば財産を分けることになります。
内縁の妻や夫は、この法定相続人には含まれていません。
どれだけ長期間共に生活し、夫婦同然の関係を築いていても、法律上の婚姻関係にない限り相続権は認められないのが現状です。
2-2. 内縁のパートナーが相続権を持たない理由
法定相続人の範囲が民法で明確に定められているのは、相続財産の分配において公平性を保つためです。
内縁関係は、社会的には夫婦と認識される場合が多いですが、法律上の婚姻関係ではないため、相続権は認められていません。この理由は、相続は夫婦以外の第三者を巻き込むものであり、内縁関係にある人に相続を認めると混乱が生じるためとされています。
特に問題になるのが、内縁関係で長年築いてきた共同財産の扱いです。
法律婚の場合、夫婦で築いた財産は「共有財産」として取り扱われますが、内縁関係では共有財産として認められることは少なく、実質的にその財産は法定相続人である親族に渡ることが一般的です。
2-3. 法定相続人が優先される現実とトラブル事例
内縁の妻や夫に相続権がないことで、実際に起きるトラブルの一例を紹介します。
事例1. 長年内縁関係にあった夫が亡くなったケース
ある内縁の妻が、20年以上パートナーと生活を共にしていました。
夫の収入で生活を支えられ、家計の運営も任されていました。しかし、夫が亡くなった際、夫の兄弟が法定相続人として財産をすべて受け取り、妻は何も受け取ることができませんでした。
自宅不動産についても、所有権にもとづいて内縁の妻に対して明け渡し請求をしてくる可能性もあります。内縁の妻には家の使用貸借の権利が認められるので、すぐには追い出せないこともありますが、将来にわたるトラブルの元になってしまいます。
事例2. 内縁関係で貯蓄の分配が認められなかったケース
内縁の夫婦が共同で生活費を出し合いながら、夫名義の銀行口座に貯蓄をしていた場合、夫が亡くなると、その貯蓄は法定相続人である親や兄弟に相続されます。内縁の妻が生活費の一部としてその貯蓄を使いたいと主張しても、法的には共有財産として認められず、遺族間でトラブルになることがあります。
結果として、生活費の確保が困難になり、生活基盤が大きく揺らいでしまうケースもあります。
3. 内縁関係でも財産を残すための3つの方法
内縁関係のパートナーに財産を確実に残すためには、法的な相続権がない現状を踏まえた上で、適切な対策が必要です。ここでは、内縁の妻や夫に財産を残すために有効な3つの方法について解説します。
3-1. 遺言書を作成する
内縁のパートナーに確実に財産を遺すためには、公正証書遺言が最適です。公証人が関与して作成されるため法的な有効性が高く、遺言書が無効になるリスクがほとんどありません。原本は公証役場に保管されるため、紛失や改ざんの心配もありません。また、自筆証書遺言のように検認がない点からもパートナーへの負担も少なくなるでしょう。
【注意点】
■ 遺留分に配慮する
法定相続人には「遺留分」と呼ばれる最低限の相続分が法律で保証されています。たとえば、被相続人に子どもがいる場合、その子どもは遺産の半分を遺留分として請求する権利があります。内縁のパートナーに多くの財産を遺す内容にすると、遺留分請求が発生する可能性があるため、遺言内容を工夫する必要があります。
■遺言執行者の選任
遺言書に基づいて遺産分配を確実に進めるには、遺言執行者を選任しておくことが重要です。信頼できる専門家(弁護士や司法書士)に依頼することで、手続きが円滑に進み、トラブルを防ぐことができます。
公正証書遺言を活用し、これらの注意点を押さえることで、内縁のパートナーに確実に財産を遺すことができます。専門家のアドバイスを受けながら準備を進めることをおすすめします。
【遺言書のメリット】
- 内縁のパートナーに財産を確実に遺せる。
- 法的な信頼性が高い。
- 遺言書があることで、親族間の争いを抑えられる。
3-2. 生前贈与を活用する
生前贈与は、被相続人が存命中に財産を内縁関係のパートナーに渡す方法です。
贈与者が自由に財産を渡せるため、相続発生後のトラブルを回避できます。
贈与税の非課税枠
年間110万円までの贈与には税金がかかりません。毎年少しずつ財産を渡すことで、贈与税の負担を抑えながら財産を移転できます。
【注意点】
■贈与契約書の作成
生前贈与を行う際には、贈与契約書を作成しておくことで、後々のトラブルを防ぐことができます。
■贈与税の申告
非課税枠を超える贈与には、受贈者が贈与税を支払う必要があります。税額や手続きについては、専門家に確認しておきましょう。
【生前贈与のメリット】
- 財産を確実にパートナーに渡せる。
- 遺言書と異なり、相続発生後に法定相続人が異議を唱えるリスクがない。
3-3. 特別縁故者として申し立てる
被相続人に法定相続人がいない場合、内縁関係のパートナーが家庭裁判所に「特別縁故者」として申し立てを行うことで、財産を受け取れる可能性があります。
特別縁故者の条件
家庭裁判所で特別縁故者と認められるためには、以下の条件を満たす必要があります。
1.被相続人と生計を共にしていた。
2.被相続人の療養や介護に努めていた。
3.被相続人と特別な絆があった。
【申し立ての手続き】
特別縁故者として財産を受け取るには、相続発生後に家庭裁判所に申し立てを行います。手続きには、被相続人との関係を証明する書類(住民票や写真など)が必要です。
【注意点】
- 申し立てが認められるかどうかは家庭裁判所の判断次第であり、必ずしも認められるわけではありません。
- 遺言書や生前贈与と比較すると、法的に不安定な方法です。
内縁関係のパートナーに財産を残すためには、「遺言書の作成」「生前贈与の活用」「特別縁故者としての申し立て」という3つの方法が有効です。特に、遺言書や生前贈与は法的に安定した手段であり、内縁のパートナーに確実に財産を遺したい場合におすすめです。
それぞれの方法にはメリットとデメリットがありますので、自分たちの状況に合った手段を選びましょう。
また、どの方法を選ぶにしても、専門家への相談を通じて万全な準備を進めることが重要です。
4. トラブルを防ぐために考慮すべき注意点
内縁関係のパートナーに財産を確実に遺し、相続を巡るトラブルを防ぐためには、事前の準備が欠かせません。
ここでは、注意すべきポイントを具体的に解説します。
4-1. 他の相続人との関係調整
内縁関係のパートナーに財産を遺す場合、他の法定相続人(親族)との調整が必要になる場合があります。遺言書を作成していたとしても、法定相続人には「遺留分」という最低限の取り分が保障されています。このため、内縁のパートナーが多くの財産を受け取る内容の遺言書があった場合でも、法定相続人から遺留分請求を受ける可能性があります。
トラブルを防ぐには、事前に法定相続人に事情を説明しておくことや、遺留分を考慮した遺言書の内容を検討することが重要です。また、弁護士などの専門家を介して調整を進めると、感情的な対立を避けやすくなります。
4-2. 必要な書類や証拠の整備
内縁関係を証明するための書類や証拠を整えておくことも大切です。例えば、以下のような書類が役立ちます。
書類など | |
---|---|
住民票 | 同一住所での居住を示すもの |
写真や手紙 | 生活を共にしていた証拠 |
共有名義の契約書 | 財産形成を共に行った証拠 |
これらの書類は、特別縁故者としての申し立てや、遺言執行の場面で重要な役割を果たします。
4-3. 生前贈与や遺言書の適切な活用
生前贈与や遺言書を利用する場合、それぞれの制度を正しく理解し、法律上の要件を満たす形で行う必要があります。たとえば、自筆証書遺言には全文を自筆で記載することが求められ、公正証書遺言には公証人や証人の立会いが必要です。不備があれば無効となるリスクがあるため、専門家のアドバイスを受けながら進めることをおすすめします。
また、生前贈与を行う場合には、贈与税の申告が必要になるケースがあるため、税理士のサポートを受けるとスムーズです。
4-4. 専門家の力を借りる
内縁関係での相続対策は、法的な手続きや親族間の調整が必要になるため、弁護士や税理士、司法書士などの専門家に相談することが不可欠です。専門家は法的なリスクを防ぐだけでなく、トラブル発生時にもスムーズに対応してくれるため、安心して準備を進められます。
内縁関係では法的な保護が限定的であるため、他の相続人との調整や書類の準備、専門家の協力が重要です。事前にしっかりと対策を講じることで、トラブルを未然に防ぎ、大切なパートナーに確実に財産を遺すことができます。
5. よくある質問
Q1. 内縁関係の妻や夫が法定相続人になることはありますか? |
A1.内縁関係のままでは法定相続人になれません。ただし、遺言書や生前贈与で財産を残すことが可能です。 |
Q2. 遺言書を作成すれば、確実に財産を渡せますか? |
A2. 遺留分請求のリスクがあるため、専門家のアドバイスを受けた上で作成することが重要です。 |
Q3. 特別縁故者として認められるための条件は何ですか? |
A3. 被相続人と同居していた、生活を共にしていたなどの条件が必要です。家庭裁判所への申し立てが必要になります。 |
Q4. 生前贈与と遺言書、どちらを選ぶべきですか? |
A4.どちらも有効な手段です。ケースによって使い分ける必要があるため、専門家に相談してみましょう。 |
Q5. 生命保険金を内縁関係のパートナーに渡すことはできますか? |
A5.可能ですが、保険会社ごとに条件が異なるため事前確認が必要です。 |
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