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不動産の相続相続の登記

共同相続登記の失敗を防ぐには?法定相続分での分割に潜むリスクを解説

相続が発生すると、不動産の名義変更を行う「相続登記」が必要です。しかし、遺産分割協議がまとまらない場合や安易に法定相続分で登記を行うと、不動産が共有状態になり、後々トラブルに発展するリスクがあります。本記事では、法定相続分による共同相続登記のリスクやデメリット、実際のトラブル例を取り上げ、失敗を防ぐための具体的な対策を解説します。

この記事で分かること

  • 共同相続登記とは、相続人全員の名義で不動産を共有する登記方法です。法定相続分での登記は手続きが簡単ですが、共有状態がトラブルの原因になることがあります。
  • 相続登記は原則として相続人全員の協力が必要ですが、法定相続分で登記する場合、相続人の一人が単独で申請することも可能です。
  • 共有名義にすると、売却や管理に全員の同意が必要になり、意思決定が複雑化します。共有者の増加やトラブル発生のリスクもあります。

1. 法定相続分による共同相続登記とは?

1-1. 相続登記の概要

相続登記とは、不動産の名義を被相続人(故人)から相続人に変更する手続きです。
この手続きには主に次の3つの方法があります。

  1. 遺言による相続登記
  2. 遺産分割による相続登記
  3. 法定相続分による相続登記

法定相続分による相続登記は、遺産分割協議がまとまらない場合や協議を行わない場合に用いられます。
この方法では、民法で定められた法定相続分に基づいて不動産を相続人全員の名義に登記します。

1-2. 法定相続分で登記する理由

法定相続分での登記には、以下のようなメリットがあります。

手続きの簡便さ
 遺産分割協議書や相続人全員の実印、印鑑証明書が不要であり、比較的簡単に進めることができます。

時間の都合
 協議が長引く場合や、相続人間で合意に達するまでの間に暫定的に不動産を登記する手段として有効です。

保存行為として
 相続人の一人が単独で申請できるため、他の相続人からの同意や協力を得る必要がありません。

1-3. 法定相続分による共同相続登記をすると共有名義になる

法定相続分で相続登記を行うと、不動産は自動的に共有名義になります。例えば、法定相続人が3人いる場合、それぞれの持分が法定相続分の割合で登記簿に記載され、共有者全員が不動産の権利を有することになります。

共有名義になることで、売却や管理などの重要な決定には共有者全員の同意が必要となります。このため、共有者間で意見が分かれると、不動産の活用が制限される可能性が高くなります。また、共有状態のまま放置すると、次世代の相続で共有者がさらに増え、意思決定がより複雑になるリスクもあります。

1-4. 共有の考え方

民法における「共有」とは、所有権を共同で保有していることを指します。これは、共有持分は不動産全体に及ぶものであり、具体的な部分を分け合うものではありません。たとえば、法定相続分が3分の1ずつの場合、共有者全員が不動産全体を利用する権利を持ちます。

共有者の1人が不動産全体を単独で使用することはできますが、使用に伴う利益の分配や持分を超えた利用の対価を他の共有者に支払う必要が生じることがあります。また、各共有者は自分の持分のみを売却することが可能であり、持分を第三者に譲渡した場合、その第三者が新たな共有者となるため、さらに管理や処分が難しくなることがあります。

共有の仕組みは一見公平に見えますが、実際には管理や処分において多くの課題を生じる可能性があるため、安易に選択すべきではありません。

2. 共同相続登記がもたらす問題点

法定相続分での共同相続登記は、一見すると簡便な方法ですが、実際にはさまざまな問題点を引き起こす可能性があります。これらの問題は、長期間にわたり相続不動産の管理や処分を難しくするだけでなく、共有者間の関係にも悪影響を及ぼすことがあります。

2-1. 共有状態の発生

法定相続分で遺産を相続をすると、不動産が共有状態になります。この状態では、すべての相続人がその不動産の権利を持つ一方で、売却や賃貸などの重要な決定には全員の同意が必要です。一人でも同意を得られない場合、不動産の活用が大幅に制限されることがあります。

例えば、共有者の一人が不動産を売却したいと考えても、他の共有者が反対することで売却が進まないケースがよくあります。また、空き家になった不動産では、固定資産税や修繕費などの維持費用の負担割合を巡り、共有者間でトラブルになることもあります。

2-2. 登記内容の変更が複雑

法定相続分での登記後に遺産分割協議が成立し、不動産の所有者を変更する場合、再度登記手続きが必要となります。この手続きには新たな費用が発生するだけでなく、時間と労力もかかります。また、変更手続きが遅れると、相続人間の信頼関係に亀裂が生じるリスクもあります。

特に、登記の変更が贈与や譲渡とみなされる特殊なケースでは、税務上の注意が必要です。これにより、手続きが一層複雑化し、予想以上の費用が発生する可能性があります。

2-3. 登記識別情報通知書の発行制限

登記申請をして名義人となった際、法務局より登記識別情報通知(いわゆる権利証)が発行されます。この登記識別情報通知は、「申請人自らが登記名義人」になったときに発行されます。一部の相続人が保存行為として法定相続分で登記を行う場合、申請人となった相続人にのみ登記識別情報通知書(権利証)が発行されます。他の共有者には発行されないため、後に不動産を売却したり、担保に提供する際に余分な手続きが必要になります。

例えば、他の共有者が本人確認情報の作成を司法書士に依頼する必要がある場合、1人あたり5万~10万円程度の費用がかかることがあります。このような余計な費用は、相続人全体の負担を増大させる要因となります。

2-4. 共有者の増加

共有状態を放置していると、時間の経過とともに共有者が増える可能性があります。たとえば、共有者の一人が亡くなり、その相続人が新たな共有者として権利を持つ場合、共有者の数が増加し、意思決定がますます困難になります。

共有者が増えると、不動産の管理や売却の際に必要な同意を得るための調整が複雑化します。このような事態を防ぐためには、初めから共有状態を避けるか、早期に共有状態を解消するための方策を講じることが重要です。

2-5. 法的トラブルのリスク

共有者の一人が借金を抱えている場合、その持分が差し押さえられることがあります。また、持分を第三者に譲渡することも可能であり、結果として不動産の管理や処分がより一層困難になるケースがあります。

例えば、ある共有者が金融機関からの借入金の返済が滞り、その持分が競売にかけられると、不動産の一部を知らない第三者が取得することになります。この場合、共有者間での調整が難航し、不動産の利用価値が大きく損なわれる可能性があります。

以上のように、法定相続分での登記は、後々の手間や費用、トラブルを引き起こすリスクが高い方法です。これらの問題を回避するためには、遺産分割協議を行い、先を見据えた分割方法を選択することが賢明でしょう。

3. 法定相続分での共同相続登記による具体的なトラブル事例

法定相続分による共同相続登記は、実際にはさまざまなトラブルが発生するリスクがあります。ここでは、具体的な事例を通じて、その問題点を詳しく解説します。

3-1. 売却の同意が得られないケース

法定相続分で登記された不動産を売却するには、共有者全員の同意が必要です。しかし、共有者間で意見が対立すると、売却の手続きが進まないことがあります。

例えば、ある家族が法定相続分で登記を行った後、兄が不動産を売却したいと考えても、弟が「売却額が低すぎる」と反対した場合、話し合いが難航し、売却そのものが頓挫するケースがあります。このような状況では、相続人間で妥協点を見つけるのに多大な時間と労力が必要となります。

3-2. 共有者の行方不明による遅延

共有者の一人が行方不明になると、不動産の売却や名義変更が進められなくなります。この場合、裁判所で「不在者財産管理人」を選任する手続きを行う必要がありますが、これには時間と費用がかかります。

例えば、海外に移住して音信不通となった相続人が共有者に含まれている場合、他の共有者だけで手続きを進めることはできません。このようなケースでは、不在者財産管理人の報酬や手続き費用が発生し、相続人全員の負担が増大します。

3-3. 持分の差押えや譲渡

共有者の一人が経済的な問題を抱えている場合、その持分が差し押さえられることがあります。また、持分を第三者に譲渡することも可能であり、共有関係に全く関係のない第三者が関与することでトラブルが複雑化します。

例えば、借金を抱えた共有者が自分の持分を金融機関に担保として提供し、返済不能になった場合、その持分が競売にかけられることがあります。こうした状況では、新たな共有者として第三者が加わり、不動産の管理や利用に関する調整がさらに困難になります。

3-4. 管理費用や責任分担をめぐる対立

共有状態の不動産では、固定資産税や修繕費用などの維持費用が発生します。これらの費用をどのように分担するかについて、共有者間で意見が合わないことがよくあります。

例えば、ある共有者が「自分はその不動産を使用していないので費用を負担したくない」と主張する一方、別の共有者が「使用していなくても持分がある以上、負担するべきだ」と反論することがあります。このような対立が深刻化すると、法的な解決が必要になる場合もあります。

3-5. 共有者の相続による共有者の増加

法定相続分で登記を行った後、共有者の一人が亡くなった場合、その持分は次の相続人に引き継がれます。このプロセスが繰り返されると、共有者が次第に増加し、意思決定がさらに困難になります。

例えば、当初3人で共有していた不動産が、共有者の相続によって10人以上の共有者を抱える状況に発展することがあります。このような場合、売却や管理に必要な同意を得るのがほぼ不可能になり、不動産の活用価値が大幅に低下することがあります。

以上のように、法定相続分での共同相続登記には、実務上の多くの問題が潜んでいます。これらのリスクを避けるためには、どのような対策をすればいいでしょうか。次の章でその対策を確認していきましょう。

4. トラブルを防ぐためにできること

相続に関するトラブルを防ぐためには、計画的な準備と適切な対応が重要です。ここでは、具体的な対策を4つの観点から解説します。

4-1. 相続人申告登記の利用

相続人申告登記は、2024年の相続登記義務化に伴い導入された制度です。この制度では、遺産分割協議がまとまらない場合でも、法務局に対し相続人の一人として申告を行うことで登記義務を果たせます。

法定相続分での登記を避けつつ、時間をかけて遺産分割協議を進める余地を確保できる点が大きなメリットです。申告登記の申出を行うことで、共有状態に伴うトラブルを未然に防ぐことができます。

4-2. 遺言書による事前対策

被相続人が遺言書を残しておくことで、相続に関するトラブルを大幅に減らすことができます。遺言書には、相続人それぞれが取得する不動産の分割方法や割合を具体的に記載します。遺言書がない場合、相続人間で意見が対立しやすくなるため、トラブルの発生率が高くなります。

特に公正証書遺言を作成することをお勧めします。公証役場で作成された遺言書は有効性が高く、偽造や改ざんのリスクがありません。また、公正証書遺言は家庭裁判所の検認手続きが不要となるため、相続手続きがスムーズに進む利点もあります。

4-3. 換価分割や代償分割を行う

遺産分割において、共有状態を避けるために有効な方法として換価分割や代償分割があります。

■換価分割
 不動産を売却し、その売却代金を相続人間で分配する方法です。この方法を採用することで、共有状態を避けるだけでなく、不動産の管理や処分に伴う問題を回避できます。

■代償分割
 相続人の一人が不動産を単独で相続し、その代わりに他の相続人へ代償金を支払う方法です。不動産を取得する相続人が資金を準備できる場合、この方法は特に有効です。ただし、代償金の額が適正であることを他の相続人に納得してもらう必要があります。

これらの方法は、不動産を円滑に分割するための実務的な解決策として非常に有効です。

4-4. 現物分割により不動産の分割を行う

現物分割は、不動産をそのままの形で分ける方法です。この方法では、土地を分筆して分割する、複数の不動産をそれぞれの相続人が単独で取得するなどの形が考えられます。

例えば、二つの不動産を2人で分ける場合にいずれの不動産も共有にするのではなく、それぞれを単独で取得する方法です。
もしくは、1筆の土地を2つに分筆(記簿上の一つの土地を複数の土地に分けて登記し直すこと)をして、それぞれを相続人が取得することで共有状態を避けることができます。ただし、分筆に伴う手続きや費用、分筆後の不動産価値の変動などを考慮する必要があります。また、不動産の評価額に差がある場合には、代償金を併用してバランスを取ることが一般的です。

現物分割は、不動産の特性や相続人の希望に応じて柔軟に対応できる点がメリットですが、分割方法について全員の合意を得ることが前提となります。

5. よくある質問

Q1. 共同名義の固定資産税は誰が払いますか?
A1. 固定資産税は共有者全員の持分に応じて負担するのが原則ですが、通知は代表者に送られることが多いです。実際の支払いは共有者間で話し合いにより決めることが一般的です。
Q2. 遺産分割協議が長引いている場合、どうすればよいですか?
A2. 相続人申告登記を活用することで、登記義務を果たしつつ、協議を進めることができます。
Q3. 法定相続分で登記する際の費用はどれくらいかかりますか?
A3. 不動産の評価額に基づき、登録免許税として0.4%を支払います。また、戸籍の取得にかかる実費や司法書士費用として数万円から十数万円が必要です。
Q4. 共有状態のまま放置するとどんなリスクがありますか?
A4.売却が困難になり、共有者が増加して意思決定がさらに複雑化します。また、管理費や固定資産税の負担をめぐるトラブルが発生しやすくなります。
Q5. 法定相続分での共有で相続登記を行った後に相続人が相続放棄をした場合、どんな登記が必要ですか?
A5. 相続放棄があった場合、放棄者の持分を他の相続人に移転するための更正登記や遺産分割協議書に基づく変更登記が必要です。専門家への相談をお勧めします。

6. nocosにできること

nocosを運営するNCPグループは、司法書士・行政書士・税理士等の有資格者100名以上を要する、相続手続きに特化した専門集団です。2004年の創業以来、累計受託件数80,000件以上の実績を重ね、現在、日本全国での相続案件受託件数No.1※となっています。全国の最寄りの事務所やご自宅へのご訪問、オンライン面談等で資格者が直接ご相談を承りますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

正木 博

保有資格・・・司法書士・行政書士・社会保険労務士・宅地建物取引士
得意分野・・・相続全般(特に遺言・相続手続きなど)

年間約30件ほどのセミナーを行い、
これまで携わった相続手続き累計件数 5,000件以上

宮城県司法書士所属 登録番号 宮城 第769号

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