この記事を要約すると
- 相続登記は2024年から義務化され、3年以内に登記を行わないと、相続人に10万円以下の過料が科される可能性があります。
- 登記を怠った相続人が過料の対象となり、放置すれば裁判所から支払い命令を受けることもあります。
- 相続人申告登記などの簡易手続きを利用すれば、期限内の対応で過料を回避することができます。
1. 相続登記の過料は誰が払う?
相続登記の義務を怠った場合、過料が科されることがあるため、誰が対象となるのかを正しく理解することが重要です。
1-1. 相続登記をしていない相続人が支払う
相続登記の義務は、相続人一人ひとりに課せられるものです。
そのため、相続登記を行わなかった相続人が過料の対象となります。たとえば、複数の相続人のうち一部が登記手続きを完了していた場合、手続きをしていない相続人だけが過料の対象となります。
相続登記の義務化は2024年4月1日から施行され、これ以降に発生した相続については、原則として相続の開始を知った日から3年以内に登記を行う必要があります。
また、2024年4月1日より前に発生した相続であっても、2027年3月31日までに登記を行う義務があります。過去の相続についても放置している場合は、早めに対応しておくことが重要です。
1-2. 相続人全員が対象になることもある
相続登記がまったく行われていない場合、関係する相続人全員が過料の対象となる可能性があります。
不動産の相続登記は、共同相続人が協力して行う必要があるため、手続きの遅れに各相続人の責任が問われる場合があるのです。
「誰かがやるだろう」と放置してしまうと、結果的に全員が義務を怠ったとみなされ、法務局の判断によって個別に過料(10万円以下)が科されるリスクがあります。
相続人同士で協力し、期限内に登記を完了させることが過料回避の鍵となります。
2. 2024年に相続登記が義務化された
「相続登記はいつまでにやればいい?」と疑問に思う方も多いはずです。実は、2024年から相続登記のルールが大きく変わりました。これまで任意だった相続登記が義務になったのです。
放置していると過料が科されることもあり、他人事では済まされません。ここでは、義務化の背景や対象者についてわかりやすく解説します。
2-1. 2024年4月1日以降に亡くなった方から登記の対象
2024年4月1日以降に相続が発生した不動産は、相続登記が義務化されています。
相続登記の期限は、「不動産を相続で取得したことを知った日」から3年以内とされています。たとえば、親が亡くなったあとに不動産の存在を知った場合、その日から3年以内に登記申請を行う必要があります。
また、2024年4月1日よりも前に相続が発生していた場合でも注意が必要です。このような過去の相続についても、施行日を起算点として3年以内、つまり2027年4月1日までに登記を完了しなければなりません。
2-2. 相続登記を怠ると、10万円以下の過料の適用対象になる
相続登記を正当な理由なく怠った場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。
この罰則は、登記義務の履行を促すために設けられたもので、相続による取得だけでなく、遺言による遺贈にも適用されます。
ただし、すべてのケースで即座に過料となるわけではありません。たとえば、相続人の人数が多く、資料の収集に時間がかかる場合や、遺言の有効性をめぐって争いがある場合など、事情によっては「正当な理由」として認められる可能性があります。
そのほかにも、重病やDV被害、経済的困窮など、登記申請が困難な状況がある場合は、法務局が個別に事情を考慮して判断します。
3. 過料が発生するまでの流れ
「登記をしていないとすぐに過料になるの?」と不安に思う方もいるかもしれませんが、実はすぐにペナルティが科されるわけではありません。
ここでは、過料が発生するまでの過程を順を追って紹介します。
3-1. 法務局から催促される
相続開始から3年以内に相続登記の申請が行われないと、不動産所在地を管轄する法務局(登記官)から登記申請を促す催告書が届きます。
これは単なる案内ではなく、登記申請の義務と期限について注意喚起を行う文書です。
催告書には、具体的な申請期限が明記されており、その期限内に登記手続きを行わなければ、次の段階へと進む可能性があります。
通知を受け取った時点では、まだ過料は科されませんが、ここで迅速に対応すれば、余計なトラブルや費用を避けることができます。
催告を受けたら、「すぐに申請できる状況か」「何が必要か」を確認し、必要に応じて司法書士などの専門家に相談するのが得策です。
3-2. 催告に応じないと裁判所へ通知される
法務局からの催告通知にもかかわらず、期限内に相続登記の申請を行わなかった場合、登記官はその状況を確認のうえで、過料の手続きを進めるため、地方裁判所に通知することがあります。
この通知を受けた裁判所が、違反の事実や事情を精査し、過料の有無とその金額を決定します
ただし、登記申請ができなかったことに「正当な理由」があると認められる場合は、裁判所への通知が見送られることもあります。正当な理由には、遺産分割協議中の争い、登記申請者の重病、経済的困難などが含まれます。
いずれにしても、法務局からの催告に対応しないと、登記義務違反として過料の手続きへ移行することになるため、早めの対応が必要です。
3-3. 裁判所から過料の支払いを求められる
法務局から通知を受けた地方裁判所は、相続登記義務違反の内容を精査し、過料を科すかどうか、およびその金額を判断します。
違反が認定された場合には、10万円以下の過料が科され、支払いを命じられることになります。過料の金額は最大で10万円とされていますが、具体的な額は個別の事情に応じて裁判所が決定します。
一度科された過料は、原則として取り消すことができません。「知らなかった」「忙しかった」といった理由では免除されないため、対応の遅れは大きなリスクとなります。
また、過料とは別に、不動産の売却や活用ができない、固定資産税だけが発生し続けるといったデメリットもあるため、義務を果たすことの重要性は極めて高いといえるでしょう。
相続が発生したら、速やかに登記手続きを進めることが、後悔しないための確実な対策です。
4. 相続登記の過料を避けるためには?
ここでは、どうすれば過料を未然に防げるのか、実際に取れる行動を紹介します。
4-1. 3年の期限内に手続きを終えるのがベスト
過料を最も確実に防ぐ方法は、「不動産を相続したことを知った日から3年以内」に相続登記を済ませることです。これにより、登記義務違反にはならず、法的なトラブルも避けられます。
また、登記が完了していれば、不動産の売却・活用がスムーズになるほか、将来の二次相続(相続人が亡くなる場合)でも手続きが煩雑になりにくくなります。
なお、遺言書がない場合、誰がどの不動産を取得するかを相続人全員で話し合う「遺産分割協議」を行うことが望まれます。
協議が成立すれば、その内容に基づいて登記申請が可能になりますが、まとまらない場合は、各相続人が法定相続分に応じた持分で登記することも可能です。
ただし、持分での共有登記のままだと、売却や利用に制約が生じることもあるため、可能であれば早めに協議を整えるのが理想的です。
話し合いが難航している場合は、早めに司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
4-2. 遺産分割がまとまらないときは「相続人申告登記」で義務を果たす
相続登記の期限である3年以内に遺産分割協議がまとまらない場合は、「相続人申告登記」を行うことで、登記義務を果たしたものとみなされ、過料を回避できます。
相続人申告登記とは、不動産の所有者が亡くなったこと、そして自分が相続人であることを法務局に申告する手続きです。
この申告により、登記記録に申出人の氏名や住所が記載され、法的な義務を履行したと認められます。
手続きは相続人が単独で行うことができ、法務局に持参・郵送・オンラインのいずれかの方法で提出可能です。申出自体に費用はかかりませんが、戸籍謄本などの証明書類取得にかかる実費は必要です。
ただし、この手続きは「登記の義務を果たすため」のものであり、不動産の売却や名義変更はできません。また、後日、遺産分割が成立した場合は、その時点から3年以内に正式な相続登記を行う必要があります。
5. 相続登記のやり方
ここでは、相続登記を進めるための具体的な手順をわかりやすく紹介します。
5-1. 登記に必要な書類を集める
最初のステップは必要書類の収集です。書類が揃わないと登記を進めることはできません。必要になるのは以下の書類です。
対象 | 書類 | 入手先 |
---|---|---|
被相続人 (亡くなった方) | ・戸籍謄本(戸籍事項証明書) ・除籍謄本 ・改製原戸籍 | 本籍地の市区町村で取得 |
・住民票の除票/戸籍の附票 | 住所地の市区町村/本籍地の市区町村 | |
・固定資産課税明細書/固定資産評価証明書 | 毎年4月頃に市区町村から送付/ 不動産が所在する市区町村の窓口 (東京23区の場合、都税事務所) |
|
相続人 | ・戸籍謄本(抄本)(戸籍事項証明書) | 本籍地の市区町村 |
・印鑑証明書 | 住所地の市区町村 | |
新しく所有者に なる相続人 | ・住民票 | 住所地の市区町村 |
事前に書類を準備するためのスケジュールを組んでおくと安心です。
5-2. 書類を作成する
次に、登記申請書をはじめとした必要書類を作成します。
対象 | 書類 |
---|---|
新しく所有者になる相続人 | ・登記申請書 ・相続関係説明図 |
相続人 | ・遺産分割協議書 |
申請書には、不動産の所在地や登記名義をどう変更するかなどを記載します。
書き損じや記載漏れがあると、後日登記官から補正の指示や申請の取下げを求められることもあるので、落ち着いてひとつずつ確認しながら進めていきましょう。
5-3. 遺産分割協議書の作成・押印
相続人が複数いる場合、誰がどの不動産を取得するかを明確にするために、「遺産分割協議書」を作成する必要があります。
これは任意の形式で作成できますが、不動産の所在地や内容、相続人全員の氏名・実印の押印など、一定の要件を満たす必要があります。
重要なのは、相続人“全員”が合意して押印することです。たとえ一人でも署名・押印が欠けていると無効となり、登記申請ができません。
協議が円滑に進めば比較的早く作成できますが、意見の対立などで長引くこともあります。相続登記には期限があるため、できるだけ早い段階から話し合いを始めることが、スムーズな手続きの鍵となります。
5-4. 法務局へ申請する
必要な書類がすべて整ったら、いよいよ法務局に申請を行います。
不動産の所在地を管轄する法務局に対して、窓口への持参や郵送のほか、申請書の提出をオンラインで行い、添付書類は郵送または持参で提出する方法も可能です。
書類の不備がなければ、登記が完了するまでにおおよそ1〜3週間程度かかります。
提出時には登録免許税(不動産の固定資産評価額の0.4%)が必要です。事前に評価証明書で金額を確認しておき、納付方法(収入印紙など)も調べておくと安心です。
もし不安な場合は、事前に法務局での相談や登記相談窓口の活用もおすすめです。正しく申請をすれば、自分で手続きを完了させることも可能です。
6. よくある質問・Q&A
ここでは、相続登記に関するよくある質問・Q&Aを紹介します。
Q1. 過料を放置するとどうなる? |
A1. 過料を放置すると、差し押さえや強制執行といった深刻な事態に発展する可能性があります。最悪の場合は信用情報に影響が及ぶこともあり得ます。過料が科されたら、できるだけ早く支払いを済ませ、次の手続きに進むことが重要です。 |
Q2. 相続登記は誰かに依頼できる? |
A2. 相続登記は専門家に依頼可能です。主に依頼先は司法書士で、書類作成から法務局への申請まで一括で任せられます。「手間を省きたい」「書類の作成が不安」と感じる方には非常に便利な選択肢です。物件の数や手続きの複雑さによって異なりますが、おおむね5〜15万円程度が相場です。 |
Q3. 過料はいくら? |
A3. 相続登記を怠った場合に科される過料の上限は10万円と定められています。ただし、登記を怠っていた期間や状況などが考慮されて具体的な金額が決まります。 |
7. 期限内に手続きを済ませて過料を回避しよう
相続登記の過料は、しっかり対策をしておけば避けられます。「気づいたら期限が過ぎていた…」といったトラブルが起きないよう、3年という期限をしっかり意識して行動することが大切です。
特に親族同士の話し合いが必要な場合は、思った以上に時間がかかるものです。
だからこそ、早めに一歩踏み出すことが後々の安心につながります。 まだ話し合いがまとまっていない場合でも、相続人申告登記という救済制度があるうえ、専門家に相談すれば状況に応じたアドバイスも受けられます。
「あとでやろう」ではなく「今、少しでも進めておこう」という気持ちで動き出すことが、過料を回避し、家族の財産を守る第一歩になります。
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