この記事を要約すると
- 遺産が生活保護費6ヶ月分を超えると、生活保護は停止・廃止される可能性があります。
- 家財道具や最低限の住宅は影響が少ないですが、高額な資産は売却を求められます。
- 相続財産は隠すことができず、不正受給と判断されると返還や法的責任が発生します。
1. 遺産を相続したら生活保護は打ち切られる?
結論からお伝えすると、継続する場合も打ち切られる場合も両方あります。
生活保護制度は生活困窮者を対象としているため、一定額以上の財産を持つことで受給資格を失うためです。
1-1. 遺産が少額・マイナスなら生活保護を継続できる
遺産相続の額が少額である場合、生活保護を継続できる可能性があります。
生活保護なしで暮らせるほどの遺産が相続されない限り、引き続き生活保護が必要と判断されるためです。数万円程度の遺産では、生活保護を受給している状況とほとんど変わらず、長期間の自立は難しいでしょう。
遺産がマイナス(借金や負債が多い状態)の場合は、生活状況がむしろ悪化するため、生活保護の継続が認められるのが一般的です。
また、相続した財産が家財道具など日常生活に必要なものに限られる場合も、生活保護の継続が認められやすいといえます。
1-2. 保護なしで6ヶ月生活できるかどうかで判断される
生活保護の継続可否を判断する際の基準は、「相続した財産で生活保護なしでどれくらい生活できるか」です。
一般的に、6か月を超えて保護を要しない状態が継続すると判断されると廃止となります。この計算は、その方の生活保護費の月額をベースに判断されます。
例えば、月10万円の保護費を受給していて、相続した現預金が50万円であれば、6ヶ月分の保護費を超えないため、廃止はされないでしょう。
対して、相続した現預金が80万円であった場合、6ヶ月を超えて保護を要しない状態が継続すると判断され、生活保護が廃止される可能性は高いといえます。
なお、生活保護には停止と廃止の2段階のステップがあり、個々の事情に合わせて判断されます。
受給停止 | 一時的に支給が中断される状態。条件が整えば再申請なしで支給が再開される可能性あり。 |
受給廃止 | 受給資格自体が失われること。再度受給するには新たな申請が必要。 |
2. 生活保護の受給条件。いくらまでなら影響がない?
生活保護を受ける条件は、世帯収入が国が定める基準(最低生活費)に満たないことです。最低生活費とは、衣服代、食費、家賃、教育費など生活に必要な費用の合計金額で、住んでいる地域や世帯人数によって異なります。
例えば、東京都23区内のアパートで一人暮らしをしている50代のAさんの場合、130,940円が最低生活費の目安となります。収入がこの最低生活費を下回る場合、最低生活費から世帯収入を差し引いた額が生活保護費として支給されます。
参照:生活保護制度における生活扶助基準額の算出方法(令和7年4月)
ここからは、Aさんの父が亡くなり、受け取った遺産が預貯金で500万円と100万円のケースに分けて、生活保護の受給継続の可否について解説します。
2-1. 遺産で500万円をもらったら「廃止」の可能性が高い
遺産で500万円を受け取った場合は、生活保護は「廃止」される可能性が高いでしょう。500万円はAさんの約3年分の最低生活費に該当し、生活保護を受給する必要はないと判断される可能性が高いためです。
なお、生活保護の受給が「廃止」されると生活保護受給者ではなくなるため、住民税などの税金の免除などが受けられなくなります。
また、遺産相続後に再び生活に困窮するような状況になった場合には、再度審査が行われることになります。
2-2. 100万円なら停止・廃止の可能性あり
遺産が100万円の場合は、生活保護が「停止」または「廃止」となる可能性があります。
100万円はAさんの約8ヶ月弱分の最低生活費に該当、6ヶ月を超えて保護なしで生活できる金額を受け取ることになるためです。
ただ、受給停止、廃止の判断は個々の事情によっても変わるため、担当のケースワーカーと相談することが大切です。
3. 主な遺産の種類と相場
遺産には様々な種類があり、それぞれ生活保護への影響が異なります。代表的な遺産の種類と、生活保護への影響を見ていきましょう。
3-1. 現金・預金
現金や預金は最も一般的な遺産のひとつであり、生活保護への影響は大きいといえます。
これらは即時に生活費として使える資産とみなされるため、金額に応じて生活保護の継続可否が判断されます。
相続した現金・預金の額が生活保護費6ヶ月分を超える場合、生活保護は廃止される可能性が高いでしょう。
ただし、葬儀費用や借金の返済など、すぐに支出が必要な場合は、その分を差し引いて判断されることもあります。いずれにせよ、正確な申告が重要です。
3-2. 家具・家電などの家財
家具や家電などの家財道具は、日常生活に必要な程度であれば、生活保護の継続に大きな影響を与えないことが一般的です。これは、生活に必要な基本的な家財は保有が認められるためです。
ただし、高級家具や美術品など、明らかに生活必需品を超える価値がある場合は、その資産を活用(換価)することで最低限の生活を維持できるため、生活保護の受給停止や廃止となる可能性があります。
相続した家財が日常生活に必要な範囲内かどうかは、ケースワーカーの判断によるところが大きいので、遺産の内容について相談することをおすすめします。
3-3. 家や土地などの不動産
家や土地などの不動産を相続した場合、生活保護に大きな影響を与える可能性があります。
実際に居住するための住居であれば、一定の広さまでは保有が認められる場合がありますが、相続した不動産が別の場所にある場合や、明らかに必要以上に広い・価値が高い場合は、売却して生活費に充てるよう指導されることが一般的です。
不動産の価値評価は複雑なため、専門家や福祉事務所に相談し、適切な対応を検討することが重要です。
4. 生活保護を受けながら保有できない財産もある
生活保護受給者でも遺産を相続できますが、金額や遺産の内容によっては生活保護を受けながら保有できない財産もあります。詳しく見ていきましょう。
4-1. 遺産相続は申告が必須
生活保護の受給中に遺産相続があった場合、福祉事務所への申告は必須です。報告を怠ったり、故意に隠したりすると不正受給とみなされる可能性があります。
福祉事務所は銀行口座を閲覧できるので、遺産相続を隠しておくことは困難です。不正が発覚した場合、過去の生活保護費の返還を求められるだけでなく、場合によっては法的責任を問われることもあります。正直に報告することが最善の選択です。
4-2. 生活保護を継続するための相続放棄はできない
「生活保護を継続するために遺産の相続を放棄する」という選択は、基本的に認められません。
相続放棄は本来、相続財産がマイナス(借金超過)の場合に、その負債を引き継がないための制度です。プラスの財産を意図的に放棄することは、生活保護制度の趣旨に反すると判断されます。
もし相続放棄を検討している場合は、必ず事前に福祉事務所に相談し、適切な助言を得ることが重要です。
5. 打ち切り後も生活保護の再申請は可能
遺産相続によって生活保護が打ち切られても、将来的に再び困窮状態になった場合は生活保護の再申請が可能です。
ここでは、再申請に関して解説します。
5-1. 遺産相続で生活保護が廃止されても再申請は可能
遺産相続によって生活保護が廃止されたあとでも、相続した財産を使い果たし、再び生活に困窮するようになった場合は、生活保護の再申請が可能です。
ただし、再申請の際には、相続した財産をどのように使ったかの詳細な説明が求められます。生活費や医療費など、生活上必要な支出に使ったことを示す領収書などを保管しておくとよいでしょう。
遺産を短期間で使い切ったり、贅沢品の購入に充てたりした場合は、再申請が認められにくくなる可能性があるので注意してください。
5-2. 審査に通らないと受給できない
生活保護の再申請をする場合でも、通常の申請と同様の厳格な審査があります。特に遺産相続後の再申請では、財産の使い道に関して詳しく調査されると思っておきましょう。
再申請が認められるためには、現在の収入や資産が最低生活費を下回っていること、親族からの援助が期待できないことなどの条件を満たす必要があります。
6. 遺産を相続したら生活保護費の返還は必要?
不正受給しなければ返還する必要はありません。
返還を求められるのは、相続の事実を知りながら申告しなかった場合です。相続の事実を知った時点で速やかに福祉事務所に報告することが重要です。
7. 生活保護費の返還を求められる行為
生活保護制度は、真に困窮している方を支援するための大切な社会保障制度です。しかし、一部の不適切な行為により、過去の保護費の返還を求められることがあります。
ここでは、特に遺産相続に関連して返還請求の原因となりやすい行為を紹介します。
7-1. 遺産相続することを福祉事務所に言わない
生活保護受給中に収入、支出その他生計の状況について変動があったときは、福祉事務所等の保護実施機関への届け出が義務付けられています(生活保護法第61条)。
これは遺産相続の場合も同様です。この報告を怠ると、不正受給とみなされる可能性があります。
不正受給と判断された場合、相続が発覚した時点で、過去に受給した保護費の全額または一部の返還を求められることがあります。さらに悪質な場合は、刑事責任を問われることもあります。
近年では、行政機関間の情報共有が進み、相続手続きや口座変動などの情報から遺産相続が発覚するケースが増えています。隠し通すことはほぼ不可能と考えるべきでしょう。
7-2. 遺産(財産)があるのに受給申請を行う
遺産相続などで十分な財産がありながら、それを隠して生活保護の申請を行うことも重大な違反行為です。
生活保護は「資産や能力をすべて活用してもなお生活できない方」を対象としているため、申請時に保有財産を正確に申告することは基本的な義務です。財産を隠していたことが後から発覚した場合、不正受給とみなされ、受給した保護費の返還を求められます。
また、虚偽の申告は詐欺罪に問われる可能性もあります。財産状況は必ず正確に申告しましょう。
7-3. 受給に影響が出ないよう一部の財産だけ相続する
遺産分割協議で、生活保護に影響が出ないよう意図的に相続財産を少なくする行為も問題があります。
例えば、兄弟姉妹に多く相続してもらい、自分の相続分を少なくするような取り決めです。
福祉事務所は相続関係の調査権限を持っており、相続の経緯や遺産分割の内容について詳しく調査することがあります。意図的な財産隠しは避けましょう。
8. よくある質問
遺産相続と生活保護に関するよくある質問と回答をまとめました。個々の状況によって判断が異なる場合もあるため、必要に応じて福祉事務所や専門家にも相談しましょう。
Q1. 遺産を相続したことを隠してもばれない? |
A1. 遺産相続を隠し通すことはほぼ不可能です。現代では、行政機関同士の情報連携が進んでおり、相続手続きや口座変動などの情報から遺産相続の事実が福祉事務所に把握されることが多いためです。発覚した場合は、不正受給として厳しい処分を受ける可能性があるので、正直に申告して適切な手続きを踏むことが、長期的に見て最善の選択です。 |
Q2. どのような遺産を相続したら打ち切りになる? |
A2. 生活保護が打ち切りになるかどうかは、相続した遺産の種類と金額によって異なります。目安としては、月々の生活保護費の6ヶ月分を超える額の資産があると廃止になる可能性が高いです。例えば、月10万円の保護を受けている場合、60万円を超える額の現金や預貯金を相続すると廃止になりやすいでしょう。不動産や自動車など高額な財産の場合も、基本的には売却して生活費に充てるよう指導される傾向があります。 |
Q3. 遺産がマイナスでも相続放棄はできない? |
A3. 遺産がマイナス(借金超過)の場合、生活保護受給者であっても相続放棄は可能です。負債を引き継ぐと生活状況が悪化するため、相続放棄が認められやすいといえます。ただし、相続放棄は相続開始(被相続人の死亡)を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きする必要があります。この期限を過ぎると原則として相続放棄はできなくなるので、早めに福祉事務所に相談し、適切な助言を受けることが重要です。 |
9. 遺産を相続したら正直に申告するのが重要!
遺産相続と生活保護の関係について、詳しく見てきましたが、最も重要なのは、遺産相続があった場合には速やかに福祉事務所等の保護実施機関に届け出をすることです。
隠し事をせず正直に申告することで、適切な判断と手続きが行われ、将来的なトラブルを防げます。相続した財産によっては生活保護が打ち切られる可能性がありますが、その場合でも計画的に資産を活用し、必要に応じて再申請することが可能です。
生活状況に不安がある場合は、福祉事務所のケースワーカーや法律の専門家に相談するなど、適切なサポートを受けながら対応することをおすすめします。
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