この記事を要約すると
- 固定資産税は毎年1月1日時点の所有者に課され、相続が発生すると納税義務は相続人に引き継がれます。相続登記が完了していない場合も、固定資産税の支払い義務は相続人全員に発生し、代表者がまとめて支払う必要があります。
- 相続登記をしない場合、固定資産税の請求は被相続人名義のまま続きます。納税通知書が届かず未納になるリスクがあり、売却や活用も難しくなるため、速やかに登記や「固定資産現所有者申告」を行うことが重要です。
- 相続人が不動産を取得すると、翌年以降の固定資産税の支払い義務はその人に移ります。ただし、遺産分割協議が完了するまでは相続人全員が連帯して納税義務を負い、代表者が一括で支払い、後に精算するのが一般的です。
1. 相続財産の固定資産税は誰が支払う?基本ルールを解説
1-1. 固定資産税の納税義務者とは?
固定資産税は、毎年1月1日時点で不動産を所有している人が納税義務を負います。この1月1日を「賦課期日」と呼び、たとえその年の途中で所有者が死亡したとしても、賦課期日時点での所有者に固定資産税が課税されます。
ただし、所有者が亡くなるとその納税義務は相続人に引き継がれます。地方税法によると、相続人が固定資産税を支払うことになりますが、誰がどのように支払うかは相続の状況によって異なります。
1-2. 相続人が支払う必要があるケースとは?
相続が発生し、不動産の所有者が確定していない場合は、相続財産は一時的に相続人全員の共有財産とされます。このため、相続により取得する人が決まるまで相続人全員に連帯で納税義務が生じるのが原則です。
ただし、実際に納付を行うのは相続人全員ではなく、その中から代表者が選ばれて支払います。この代表者が固定資産税を一括して支払い、後から他の相続人と負担分を調整するのが一般的です。
1-3. 遺産分割後の固定資産税の支払い
不動産の相続人が確定する前は、相続人全員が所有者とみなされ、固定資産税の納税義務も共有します。実際の納付は相続人の中から代表者を決めて行い、負担割合は相続人同士で話し合う必要があります。
遺産分割協議が成立し、新しい所有者が確定した場合、翌年以降の固定資産税はその人が支払います。
ただし、確定した年の納税義務は1月1日時点の所有者に基づくため、相続人全員で対応し、精算方法を事前に決めておくことが大切です。
1-4. 相続が決まっていないときの対応
相続人の間で不動産の取得者が確定していない場合、納税通知書が被相続人名義のまま届きます。その際は「相続人代表者指定届出書」を提出し、納税通知書の受取先を代表者に変更するしておくことをおすすめします。代表者は、納税通知書を受け取るだけで納税義務が集中するわけではなく、支払いは相続人全員が連帯して行う必要があります。この場合、相続人の間で代表者に支払い分を集める方法等を事前に話し合っておくことが大事です。
2. 固定資産税の支払い方法と注意点
2-1. 納税通知書の確認方法
固定資産税の納税通知書は、1月1日時点の登記簿上の名義人に宛てて、毎年4月〜6月頃に市区町村(東京都の場合は都税事務所)から送付されます。相続が発生しても、すぐに名義変更されるわけではないため、納税通知書は被相続人名義のまま届くことが多いでしょう。そのため、相続人のうち誰が受け取るのかを決め、「相続人代表者指定届出書」を提出することで、通知書の送付先を相続人代表者へ変更することができます。
もし納税通知書が手元にない場合は、市区町村の役所で「固定資産公課証明書」や「固定資産評価証明書」を取得することで、固定資産税の税額を確認できます。証明書の取得には相続人であることを示す戸籍謄本や本人確認書類が必要です。
2-2. 代表者を決めて支払う必要がある理由
相続人全員が固定資産税を負担する義務を持ちますが、市区町村へ直接分割して支払うことはできません。そのため、相続人のうち1人が代表者となり、固定資産税を一括で支払う必要があります。支払い後、代表者が他の相続人から負担分を精算する形になります。
代表者を決めずに放置すると、納税期限を過ぎて延滞金が発生したり、相続人間で「誰がどの割合で支払うのか」で揉める原因になりかねません。早い段階で話し合いを行い、代表者を決めておくことが重要です。
2-3. 延滞するとどうなる?ペナルティと対応策
固定資産税を期限までに支払わないと、延滞金が発生します。
延滞期間が1カ月以内であれば年2.4%程度(最大年7.3%)、1カ月を超えると最大年14.6%の延滞金が課される可能性があります(総務省|加算金、延滞金、還付加算金)。さらに、長期間滞納すると、不動産の差し押さえ対象となる場合もあるため注意が必要です。
支払いが困難な場合は、延滞金が発生する前に市区町村の納税相談窓口に相談し、分割納付や納税猶予の手続きを検討しましょう。納税期限を過ぎる前に対応すれば、延滞金の負担を避けることができます。
2-4. 固定資産税を支払う際の注意点
納税通知書が届いたら、相続人全員で費用負担について話し合い、代表者を決めて速やかに支払うことが大切です。また、相続財産に多額の負債がある場合は、相続放棄を検討することで固定資産税の支払い義務を回避する選択肢もあります。
未納のまま放置すると、財産の差し押さえや相続人間のトラブルにつながる可能性があるため、早めの対応を心がけましょう。
3. 相続登記をしないと固定資産税はどうなる?
3-1. 相続登記をしない場合の固定資産税の扱い
相続登記をしないまま放置すると、不動産の名義は被相続人のままとなります。しかし、固定資産税の納税義務がなくなるわけではなく、相続人がその支払いを引き継ぐことになります。納税通知書は引き続き被相続人宛てに送られますが、実際の支払いは相続人が行わなければなりません。
また、相続人が複数いる場合、固定資産は相続人全員の共有財産とみなされ、納税義務も共有者全員が負います。
ただし、市区町村への納税は分割して行うことができず、代表者がまとめて支払う必要があります。
3-2. 相続登記が済んでいないと起こるトラブル
相続登記をしないと、以下のようなトラブルが発生する可能性があります。
■納税通知書が相続人に届かない
納税通知書は被相続人の住所に送付されるため、相続人が別の場所に住んでいる場合、通知書を受け取れず、固定資産税の未納が発生することがあります。
■誰が支払うべきか不明確になる
相続人全員が納税義務を負うものの、誰が実際に支払うのかが決まっていないと、支払いを巡って相続人間でトラブルになることがあります。
■売却や活用ができない
相続登記をしていないと、不動産の売却や活用が難しくなります。例えば、売却を検討しても、登記が被相続人のままだと名義変更ができず、買い手がつきにくい状況になります。
■将来的に手続きが複雑化する
相続登記を放置している間に相続人が亡くなると、さらに次の相続人へ権利が移り、登記手続きがより複雑になります。その結果、相続人の数が増え、手続きが困難になるケースもあります。
3-3. 「固定資産現所有者申告」の重要性
相続登記がすぐにできない場合でも、「固定資産現所有者申告」を行うことで、固定資産税の納税通知書を新しい所有者(相続人)宛てに送付してもらうことが可能です。
この申告を行わないと、納税通知書が被相続人の住所に送られ続け、相続人が納税義務を認識しないまま延滞が発生するリスクがあります。申告手続きを行うことで、納税義務の所在を明確にし、滞納を防ぐことができます。
3-4. 2024年4月から相続登記が義務化
2024年4月から相続登記が義務化され、不動産を取得した相続人は3年以内に相続登記を行わなければならなくなりました。登記を怠ると、10万円以下の過料が科される可能性があるため、早めに手続きを進めることが重要です。
相続登記を行うことで、固定資産税の支払い手続きを明確にし、不動産の管理や売却がスムーズに進められるため、速やかに対応することをおすすめします。
4. 固定資産税の負担を減らすには?
固定資産税は、不動産を所有している限り毎年発生するため、相続後の負担を軽減する方法を検討することが重要です。ここでは、固定資産税の負担を減らす具体的な方法を紹介します。
4-1. 不動産を売却する
最も確実に固定資産税の負担をなくす方法は、不動産を売却することです。不動産を手放せば翌年以降の固定資産税は不要になり、売却益を相続税や他の支払いに充てることも可能です。
売却の際は、売却時点を基準に売主と買主で税額を精算するのが一般的で、例えば3月末に売却した場合、1月1日から3月末までの税額を売主が負担し、4月以降の分を買主が負担します。売却を検討する場合は、早めに不動産会社へ査定を依頼し、市場価格を把握しておくことが大切です。
4-2. 相続放棄を検討する
不動産を含む相続財産全体の負担を避けるため、相続放棄を選択する方法もあります。相続放棄をすると、固定資産税を含むすべての相続財産や負債の引き継ぎがなくなります。ただし、以下の点に注意が必要です。
- 相続放棄は相続開始を知った日から3カ月以内に家庭裁判所で手続きが必要
- 固定資産税の支払い義務はなくなるが、他の財産(預貯金など)も相続できなくなる
- 相続放棄をした場合、次の順位の相続人に納税義務が移る可能性がある
財産全体の状況を把握した上で、相続放棄が適切か慎重に判断することが重要です。
4-3. 固定資産税の軽減措置を活用する
固定資産税には、一定の条件を満たすことで税負担を軽減できる制度があります。
■住宅用地の特例
住宅用地であれば課税標準を3分の1に減額するほか、特に200平方メートル以下の部分(小規模住宅用地)に対する課税標準は6分の1に減額されるため、居住用の不動産なら適用できるか確認しましょう。
■新築住宅の軽減措置
新築住宅の場合、一定の条件を満たせば固定資産税が3~5年間半額になる特例があります(新築住宅に係る税額の減額措置|国土交通省)。
■分割納付や納税猶予制度
固定資産税の支払いが困難な場合、市区町村の窓口で分割納付や納税猶予を申請することが可能です。事前に相談することで、無理なく支払える方法を検討できます。
4-4. 不動産の有効活用を検討する
不動産を売却せずに保有する場合は、賃貸に出すことで家賃収入を固定資産税の支払いに充てることも可能です。使っていない不動産がある場合は、貸し出しや用途変更も視野に入れるとよいでしょう。
固定資産税の負担を減らすためには、早めの対策が必要です。不動産の活用方法を検討し、適用できる軽減措置を活用することで、賢く負担を抑えましょう。
5. 固定資産税の相続手続きでやるべきことリスト
相続が発生すると、不動産の固定資産税の支払いも相続人が引き継ぐことになります。納税遅れやトラブルを防ぐため、以下の手続きを早めに進めることが重要です。
5-1. 固定資産税の納税額を確認する
固定資産税の納税通知書が手元にあれば、そこに納税額が記載されています。通知書には課税標準額や納期限も記載されているため、内容をよく確認し、支払いの準備をしましょう。
納税通知書の確認
代償分割では、相続人が取得した遺産に基づいて相続税が課税されます。代償金を支払う側の相続人は、取得した財産の評価額から代償金を差し引いた金額が課税対象となります。一方、代償金を受け取る側は、取得した遺産に代償金を加算した額が課税対象です。
証明書の取得
納税通知書が見つからない場合は、市区町村役場(東京都の場合は都税事務所)で「固定資産公課証明書」や「固定資産評価証明書」を取得することで、税額を確認できます。取得には、被相続人の死亡と相続人の関係を証明する戸籍謄本や除籍謄本が必要です。
5-2. 固定資産税の支払手続きを行う
納税通知書の送付先が被相続人のままだと、相続人が通知書を受け取れず支払いが滞る可能性があります。
相続人代表者の指定
市区町村に「相続人代表者指定届出書」を提出すれば、納税通知書の送付先を相続人代表者に変更できます。これにより、税金の管理がしやすくなり、支払い漏れを防ぐことができます。
分割納付や猶予の相談
支払いが困難な場合、市区町村の窓口で分割納付や納税猶予の申請が可能です。早めに相談すれば、延滞金の発生を防ぐことができます。
5-3. 固定資産税の支払い義務者を明確にする
不動産を相続する人が確定するまで、固定資産税の納税義務は相続人全員にありますが、納税は代表者がまとめて行う必要があります。そのため、誰が支払いを担当するのか、どのように負担を分担するのかを事前に決めておくことが大切です。
また、相続登記が完了していない場合でも、「固定資産現所有者申告書」を市区町村に提出すれば、新しい所有者として登録され、納税通知書を相続人宛に送付できます。
固定資産税の相続手続きでは、納税額の確認、納税通知書の送付先変更、支払い義務者の明確化が重要です。手続きを適切に行うことで、納税遅れや相続人間のトラブルを防ぐことができます。
6. よくある質問
Q1. 相続した不動産を売却すれば固定資産税は支払わなくていい? |
A1. 売却すれば翌年以降の固定資産税の支払い義務はなくなります。ただし、売却するまでの期間に発生した固定資産税は負担しなければなりません。売却時には、売主と買主で日割り計算による精算を行うのが一般的です。 |
Q2. 固定資産税を相続人全員で分担できる? |
A2. 固定資産税は相続人全員が負担義務を持ちますが、市区町村に個別に支払うことはできません。代表者が一括で支払い、後から相続人間で精算する形になります。事前に分担方法を話し合っておくとトラブルを防げます。 |
Q3. 固定資産税の支払いが難しい場合はどうすればいい? |
A3. 支払いが困難な場合は、市区町村の納税相談窓口で分割納付や支払い猶予を申請できます。申請が認められれば、一定期間の猶予や分割払いが可能になります。放置すると延滞金が発生するため、早めの相談が重要です。 |
Q4. 相続登記をしないと固定資産税の請求はどうなる? |
A4. 相続登記をしない場合、固定資産税の請求は被相続人名義のまま届きます。相続人が代表して納付する必要があり、放置すると延滞金が発生します。相続登記を行うことで、支払うべき相続人が明確になり手続きがスムーズになります。 |
Q5. 固定資産税は相続税の債務控除にできる? |
A5. 被相続人が亡くなった時点で未払いの固定資産税は、相続税の計算時に債務控除として差し引くことができます。ただし、相続人が支払う義務自体はなくならないため、必ず納税する必要があります。 |
7. nocosにできること
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