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相続放棄

相続で借金がある場合の対処法|借金の調査方法と放棄の流れを徹底解説

相続で借金がある場合の対処法|借金の調査方法と放棄の流れを徹底解説

親の遺産を整理していたら、予想外の借金が見つかった——そんな時、どのように対応すれば良いのでしょうか?相続ではプラスの財産だけでなく、借金や未払い金などのマイナスの財産も引き継ぐことになります。しかし、必ずしも全てを相続する必要はありません。本記事では、亡くなった方の借金を調査する方法や、相続放棄を含む3つの選択肢の詳細、放棄後の借金が誰に引き継がれるのかをわかりやすく解説します。

この記事を要約すると

  • 相続ではプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も引き継ぐ必要があります。借金を相続した場合、単純承認、相続放棄、限定承認のいずれかを選択し、適切に対応することが重要です。
  • 亡くなった人の借金は、法定相続人が相続の一環として引き継ぎます。プラスの財産が借金を上回る場合には、返済義務を負うことになります。
  • 相続放棄をした場合、その人には借金の返済義務はありません。ただし、借金は次順位の相続人に引き継がれ、全員が放棄すれば相続財産清算人が対応します。

1.相続で借金を引き継ぐとは?基本の仕組みを理解する

相続では、不動産や預貯金などのプラス財産だけでなく、借金や未払い金といったマイナス財産も対象になります。相続をする際には、プラスとマイナス両方の財産を考慮し、慎重に対応する必要があります。ここでは、借金相続の基本的な仕組みや、借金が発覚するタイミングと注意点について解説します。

1-1.相続で引き継ぐ財産の種類:プラスとマイナスの両面

相続では、亡くなった方(被相続人)の所有していた財産を全て引き継ぐことになります。この財産には、次のような「プラスの財産」と「マイナスの財産」が含まれます。

プラスの財産例】

  • 現金や預貯金
  • 不動産(住宅や土地など)
  • 株式や投資信託
  • 保険金(特定の条件下)

マイナスの財産例

  • 借金(住宅ローン、消費者金融、クレジットカード利用分など)
  • 未払いの税金(所得税や住民税など)
  • 滞納家賃や健康保険料
  • 損害賠償債務

相続では、これらすべての財産が対象となり、マイナスの財産も例外ではありません。
例えば、被相続人が多額の借金を残していた場合、相続人はその返済義務を引き継ぐことになります。

1-2.借金が発覚するタイミングと注意点

借金の存在が発覚するタイミングは、主に次のような場面で明らかになります。

1.遺品整理中
 遺品の中から借用証明書や契約書、督促状などが見つかることがあります。

2.郵便物の確認
 亡くなった方宛てに届く郵便物には、金融機関や貸金業者からの通知が含まれる場合があります。
 これらを確認することで、借金の有無や額が判明することがあります。

3.信用情報機関の利用
 金融機関の借入状況を調査する場合、信用情報機関に問い合わせを行うことが可能です。相続人は特定の手続きを行えば、故人の借入状況を確認できます。

借金がある場合、プラス財産を上回るかどうかが重要な判断基準となります。この点を調査せずに相続手続きを進めると、多額の負債を抱えるリスクがあります。また、借金を知りながら対応を怠ると、借金の返済義務が自動的に発生してしまう可能性もあります。

まずは、遺品や郵便物を整理して借金の有無を確認し、早急に財産の全容を把握することが大切です。この調査を基に、相続の方針を決定していきましょう。

2.亡くなった方の借金を調査する方法

相続を進める上で、借金などのマイナス財産を正確に把握することは非常に重要です。財産の全体像を把握しないまま手続きを進めると、予期せぬ負担が発生するリスクがあります。ここでは、プラス財産とマイナス財産を調査する具体的な方法について解説します。

2-1.プラス財産の調査方法

被相続人が残した預貯金や不動産などのプラス財産を確認するためには、以下の手順を参考にしてください。

1. 預貯金の確認
 遺品整理中に見つかる通帳やキャッシュカード、または金融機関からの郵便物を基に、各金融機関に「残高証明書」を請求します。 通帳が見つからない場合でも、思い当たる金融機関に照会を行えば、口座の有無を確認できます。

2. 不動産の確認
 自宅に届いている「固定資産税の納税通知書」や「名寄せ帳」を確認します。これにより、所有する土地や建物が把握できます。 名寄せ帳や登記事項証明書は、市区町村役場や法務局で取得可能です。

3. その他の財産
 証券会社からの通知や契約書類があれば、株式や投資信託などの有価証券を確認します。遺品の中に保険証券があれば、生命保険の有無も確認してください。

2-2.マイナス財産の調査方法

借金や未払い金など、マイナス財産の調査は慎重に行う必要があります。以下の方法で確認を進めましょう。

1. 金融機関からの借入確認
 被相続人が利用していた金融機関で「残高証明書」を取得します。借入金の残高や利息も確認できます。
 借金の返済が滞ると、金融機関や債権者から督促状が送られてくるため、郵便物を注意深く確認してください。

2. 信用情報機関の利用
 相続人であれば、信用情報機関に問い合わせて、被相続人の借入状況を調査できます。主要な信用情報機関は以下の通りです。

  • 全国銀行個人信用情報センター(KSC)
  • 株式会社シーアイシー(CIC)
  • 株式会社日本信用情報機構(JICC)

 これらに問い合わせることで、消費者金融やクレジットカードの借入情報を把握できます。

3. 遺品の中の契約書や借用証の確認
 遺品整理を行い、借用証明書や金銭消費貸借契約書が残されていないか確認してください。

2-3.調査時の注意点

借金の調査は、相続放棄や限定承認を検討する際に重要なステップです。ただし、借金を確認する前に故人の財産を処分すると、「単純承認」とみなされる可能性があります。単純承認が成立すると、相続放棄や限定承認は選択できなくなるため、財産には手をつけず慎重に進めることが大切です。また、借金の調査には時間がかかります。3か月の熟慮期間内に間に合わない場合には、熟慮期間伸長申立てをしておきましょう。

このようにプラス財産とマイナス財産の両方を正確に調査し、財産の全体像を把握することで、最適な相続方法を選ぶ準備が整います。

3.借金がある場合の3つの選択肢

相続財産に借金が含まれていた場合、相続人には主に3つの選択肢があります。それぞれの方法にはメリットや注意点があり、状況に応じた適切な判断が求められます。
ここでは、単純承認、相続放棄、限定承認の3つの方法について解説します。

3-1.単純承認:すべての財産を引き継ぐ

単純承認とは、プラスの財産もマイナスの財産もすべて相続する方法です。

【適したケース】

  • プラスの財産が明らかに多い場合
  • 借金が少額で、返済が可能な場合

【注意点】

  • 相続放棄や限定承認の手続きを行わない場合、3か月の熟慮期間が過ぎると、自動的に単純承認が成立します。
  • 一度単純承認が成立すると、以後は相続放棄や限定承認に切り替えることができません。

単純承認を選ぶ場合でも、被相続人が保証人となっている借金や連帯債務がないか、慎重に確認することが重要です。

3-2.相続放棄:借金を含めたすべての財産を放棄する

相続放棄とは、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しないことを選択する方法です。

【適したケース】

  • 借金がプラスの財産を大幅に上回る場合。
  • 借金の返済が困難な場合。

【手続きの流れ】

1.家庭裁判所での申述
 相続放棄をするには、被相続人が亡くなったことを知った日から3か月以内に家庭裁判所へ「相続放棄申述書」を提出します。

2.必要書類
 被相続人の戸籍謄本や住民票の除票、申述人の戸籍謄本などを添付します。

【注意点】

  • 相続放棄は撤回ができません。
  • 相続放棄をしても、被相続人が保証人となっていた借金に対する支払い義務は免れません。

3-3.限定承認:プラスの財産の範囲内で借金を引き継ぐ

限定承認とは、プラスの財産を使って借金を返済し、残った財産だけを相続する方法です。

【適したケース】

  • プラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いかわからない場合。
  • 手放したくない特定の財産(自宅など)がある場合。

【手続きの流れ】

1.家庭裁判所への申述
 相続人全員が協力し、相続開始を知った日から3か月以内に限定承認の手続きを行います。

2.必要書類
 被相続人の財産目録や戸籍謄本、住民票の除票などが必要です。

【注意点】

  • 相続人全員の同意が必要です。一人でも反対すると限定承認は選べません。
  • 不動産や株式がある場合、多額の譲渡所得税が発生する可能性があります。

相続人がどの選択肢を選ぶべきかは、財産の状況や家族構成、負債の金額などによって異なります。まずは財産の全体像を把握したうえで、慎重に判断することが重要です。必要であれば、専門家に相談するのも有効な手段です。

4.相続放棄後の借金は誰が支払うのか?

相続放棄を行うことで、相続人は借金の返済義務を免れることができますが、それで借金が消えるわけではありません。借金は法定相続人間で引き継がれる仕組みになっており、最終的に誰が支払うことになるのかは、法定相続人の状況によって異なります。このセクションでは、相続放棄後の借金の行方について解説します。

4-1.相続放棄による借金の引き継ぎの仕組み

相続放棄を行った場合、その人は最初から相続人でなかったものとみなされます。その結果、借金の返済義務は次順位の相続人に引き継がれます。

具体例

被相続人が亡くなり、配偶者と3人の子が法定相続人である場合を考えてみましょう。

●長男が相続放棄をした場合
 長男に引き継がれるはずだった借金は、残る相続人(配偶者と次男、長女)に分割されます。

●子ども全員が相続放棄をした場合
 借金は次順位の相続人(被相続人の両親や祖父母などの直系尊属)に引き継がれます。なお、配偶者は次順位の相続人とともに借金を相続します。

●配偶者と子ども全員が相続放棄し、次順位の相続人も相続放棄した場合
 借金はさらに次の順位である被相続人の兄弟姉妹や甥姪に引き継がれます。兄弟姉妹が被相続人の相続開始以前に死亡していた場合は、甥姪が借金を引き継ぎます。

このように、相続放棄が連鎖的に続くと最終的に法定相続人が全員借金を放棄することもあります。

4-2.法定相続人全員が相続放棄した場合の対応

すべての法定相続人が相続放棄を行うと、借金の返済義務を負う人はいなくなります。しかし、借金が消滅するわけではありません。以下の手続きが必要になります。

1. 相続財産清算人の選任
 法定相続人全員が相続放棄した場合、被相続人の財産は「相続財産法人」として扱われます。
 債権者や利害関係者の申立により、家庭裁判所が相続財産清算人を選任します。

2. 借金の返済
 相続財産清算人は、相続財産の範囲内で債務を弁済します。
 プラス財産が借金を上回る場合、清算人が残りの財産を処理しますが、マイナスが上回る場合、債権者が損失を被ることになります。

4-3.注意点とトラブル回避のポイント

相続放棄をする際には、次順位の相続人や親族に事前に相談することが重要です。相続放棄がなされた事実は、家庭裁判所から次順位の相続人に通知されることはないため、突然債権者から連絡を受けた相続人が混乱するケースが少なくありません。

また、借金を相続放棄で回避する場合でも、故人が保証人となっていた場合には、その保証債務が相続人に引き継がれる可能性があります。この点も慎重に確認してください。

相続放棄は借金問題を解決する有効な手段ですが、周囲の親族への影響やトラブルを最小限にするため、計画的に対応することが重要です。専門家に相談しながら進めることで、リスクを抑えた相続手続きが可能になります。

5.相続放棄のデメリットとトラブル回避のポイント

相続放棄は、借金などの負債から解放される有効な手段ですが、慎重に行わなければ思わぬデメリットを招くことがあります。また、放棄による親族間のトラブルも懸念されるため、事前の計画や対応が重要です。ここでは、相続放棄のデメリットと、それに伴うトラブルを回避するための具体的な方法について解説します。

5-1.相続放棄のデメリット

相続放棄にはいくつかの注意点があります。主なデメリットをみていきましょう。

1. 資産も放棄する必要がある
 相続放棄をすると、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続できません。
 被相続人が不動産や預貯金などの資産を持っていた場合、借金を上回る資産があっても、それらを相続する権利を失います。財産の調査が不十分なまま放棄を選択すると、後から価値のある資産が見つかった場合でも取り戻すことはできません。

2. 次順位の相続人に負債が引き継がれる
 相続放棄をした場合、借金の返済義務は次順位の相続人に移ります。事前に相談がないと、親族が突然借金の請求を受け、トラブルに発展する可能性があります。

3. 相続のやり直しができない
 相続放棄は、原則として撤回ができません。一度手続きを終えると「やっぱり相続すればよかった」と思っても手遅れです。

4. 法定単純承認が成立する可能性
 被相続人の財産を勝手に使用したり処分したりすると、相続放棄をするつもりでも「単純承認」とみなされてしまいます。この場合、借金も含めた財産を全て相続することになり、放棄は認められません。

5-2.トラブル回避のポイント

相続放棄のデメリットを最小限に抑え、親族間のトラブルを避けるために、以下のポイントを押さえておきましょう。

1. 財産調査を徹底する
 相続放棄を決める前に、被相続人の財産全体を正確に把握しましょう。プラス財産が借金を上回る場合は、放棄以外の選択肢が有利なこともあります。遺品整理や信用情報機関への問い合わせを通じて、借金の有無や額を明確にしてください。

2. 親族間で事前に相談する
 相続放棄を選択する場合、次順位の相続人や同順位の親族に事前に相談することが重要です。突然、親族に借金が引き継がれることを避けるため、適切な連絡と説明を行いましょう。

3. 財産には一切手をつけない
 被相続人の預貯金を引き出したり、不動産を使用・売却したりすると、単純承認とみなされる可能性があります。相続放棄を検討している間は、財産に一切手をつけないようにしてください。

相続放棄は負債を回避するための手段として有効ですが、財産調査や親族間の配慮を怠ると、大きなトラブルや損失を招く可能性があります。これらのポイントを押さえ、慎重に手続きを進めることが大切です。

6. よくある質問

Q1. 相続放棄は一度したら撤回できますか?
A1. 基本的に撤回はできません。相続放棄は法律上、撤回が認められないため、慎重に判断する必要があります。ただし、詐欺や脅迫があった場合や重大な事実の誤認があれば例外的に撤回が認められる場合があります。
Q2. 相続放棄をしても保証人としての責任は残りますか?
A2. はい、残ります。相続放棄をしても被相続人の借金に対する保証人となっている場合、その保証債務の支払い義務は免れません。保証人としての責任を免除するには、別途対応が必要です。
Q3. 相続放棄をすると、他の相続人とトラブルになる可能性はありますか?
A3. 可能性はあります。相続放棄によって借金が次順位の相続人に引き継がれるため、事前に相談がないと混乱を招くことがあります。放棄を決めたら、親族に連絡し、丁寧に説明することをおすすめします。
Q4. 限定承認を選ぶ場合、費用や手続きはどれくらいかかりますか?
A4. 限定承認には家庭裁判所への申述や財産目録の作成などの手続きが必要です。申立費用は数千円程度ですが、弁護士や専門家に依頼する場合の費用は数十万円かかることがあります。
Q5. 家庭裁判所での相続放棄手続きの期限を過ぎてしまった場合、どうすればいいですか?
A5. 期限を過ぎると相続放棄は原則として認められませんが、特別な事情があれば例外として手続きを認めてもらえる可能性があります。早めに弁護士に相談し、対応策を検討しましょう。

7. nocosにできること

nocosを運営するNCPグループは、司法書士・行政書士・税理士等の有資格者100名以上を要する、相続手続きに特化した専門集団です。2004年の創業以来、累計受託件数89,000件以上の実績を重ね、現在、日本全国での相続案件受託件数No.1※となっています。全国の最寄りの事務所やご自宅へのご訪問、オンライン面談等で資格者が直接ご相談を承りますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

正木 博

保有資格・・・司法書士・行政書士・社会保険労務士・宅地建物取引士
得意分野・・・相続全般(特に遺言・相続手続きなど)

年間約30件ほどのセミナーを行い、
これまで携わった相続手続き累計件数 5,000件以上

宮城県司法書士所属 登録番号 宮城 第769号

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