この記事を要約すると
- 2026年4月から住所変更登記が義務化され、住所や氏名変更から2年以内の申請が必要になります。怠ると過料が課される可能性もあります。
- 登記簿上の住所が古いままだと所有者確認が難しくなり、売却や融資がスムーズに進まないことも。過料のリスクもあります。
- 住基ネットや商業登記と連携し、法務局が職権で登記を更新する制度。個人の場合、事前申出が必要で、海外居住者は対象外です。
1. 住所変更登記の義務化とは?|2026年4月から始まる新ルール
1-1. 住所変更登記・氏名変更登記とは
住所変更登記・氏名変更登記とは、不動産の所有者が登記簿上の住所や氏名を最新情報に更新するための手続きです。
例えば、次のようなケースが該当します。
- 引っ越しをした ⇒ 住所変更登記 が必要
- 結婚・離婚で姓が変わった ⇒ 氏名変更登記 が必要
登記簿上の情報と実際の住所・氏名が一致していないと、不動産売却や相続時に手続きが滞る原因になります。
例:旧住所のままでは不動産を売却できない
売買契約の際、登記簿上の所有者情報と本人確認書類の住所が一致していなければ、売買契約をすることができても、住所、氏名変更の登記(前提登記)を済ませない限り、名義変更の登記をすることができません。
1-2. 義務化の背景と目的
住所変更登記の義務化は、「所有者不明土地問題」が深刻化したことがきっかけです。
国土交通省の調査では、所有者が特定できない土地は 全国で約410万ヘクタール、九州本島の面積に相当する広さに及びます。そして、その原因の約3分の1が「住所変更登記をしないまま放置していること」にあるのです。
所有者が不明な土地は、災害復旧・公共工事・再開発などの妨げになっており、国としても対策が急務となっています。
1-3. 義務化の基本ルール
2026年4月1日以降、住所や氏名を変更した場合は 2年以内に登記申請が必要です。
項目 | 内容 |
---|---|
施行日 | 2026年4月1日 |
対象者 | 不動産を所有する個人・法人すべて |
申請期限 | 住所・氏名変更から2年以内 |
遡及適用 | 施行日前の変更も対象(期限は2028年3月31日まで) |
罰則 | 5万円以下の過料 |
つまり、今後の変更だけではなく、過去に住所を変更して、変更の登記をしないまま放置している場合も対象です。
例えば、10年前に引っ越しをして住所変更の登記をしていないのであれば、2028年3月末までに対応しなければなりません。
2.住所変更登記をしていないとどうなる?リスクと影響
住所変更登記を長期間放置しても、所有権そのものが失われるわけではありません。
しかし実務では、登記簿上の住所と現在の住所がつながらなくなることで、所有者本人であることをスムーズに証明できなくなるという大きな問題が発生します。
ここでは、司法書士として現場でよく見かける4つのリスクをご紹介します。
2-1. 登記簿上の住所と現在住所がつながらなくなるリスク
法務局は、登記簿上の住所・氏名と申請書に記載された現在の住所・氏名を突き合わせ、同一人物かどうかを確認します。その際、住民票や戸籍附票などで「住所のつながり」を証明する必要があります。
しかし、転居を繰り返している場合や、古い住所変更登記をしていない場合、住所変遷を証明する資料が不足すると、同一人物であることを立証するための作業が非常に煩雑になります。
住所のつながりを証明できない場合の対応例
これら複数の書類を組み合わせて、登記簿上の名義人と現在の本人が同一人物であることを立証します。ただし、法務局とのやり取りが増え、登記審査が通常より時間がかかるケースもあります。
2-2. 相続手続きで大きな負担が増える
住所変更登記をしていないまま相続が発生すると、被相続人(亡くなった方)の住所変遷を証明するために、過去の住民票や戸籍附票の取得が必要です。
典型的なトラブル例
- 登記簿上の住所が30年前のまま
- 被相続人が転居を繰り返していて、すべての住所の変遷を証明する住民票や戸籍の附票が手に入らない
- 住所変更登記をしていなかったため、住所変遷を証明する書類が廃棄済みになっており取得できない
複数の役所に問い合わせる必要が出る場合もあり、 時間もコストもかかってしまいます。
2-3. 住民票・戸籍附票の保存期間切れの問題
令和元年6月20日の住民基本台帳法改正により、住民票の除票・戸籍附票の除票の保存期間は、従来の5年間から150年間に延長されました。
しかし、平成26年6月19日以前に住民票や戸籍附票が「消除」または「改製」された記録については、旧制度のためすでに廃棄されている可能性があります。
【ポイント】
- 平成26年6月19日以前に転居した場合、証明書が発行できないケースがある
- 住所のつながりを証明できなければ、登記申請時に追加書類が必要になる
- 書類収集が困難な場合、権利証・売買契約書などで補強する必要がある
このような事態を避けるためにも、古い不動産や複数回の転居がある方は、早めに住所変更登記を済ませることが重要です。
2-4. 過料(罰則)のリスク
2026年4月以降、住所変更登記を放置すると5万円以下の過料が科される可能性があります。
ただし、すぐに罰則ではなく、次のような段階を踏みます。
- 法務局から催告:「住所変更登記をしてください」という通知が届く
- 猶予期間:指定期間内に申請すれば過料は免除
- 正当な理由があれば免除(以下参照)
・長期入院や重病
・DV被害などで住所非公開を希望
・行政合併などによる住所変更 など
※「知らなかった」「忘れていた」では免除されません。
施行日前の住所変更も対象となるため、2028年3月31日までに対応が必要です。
2-5. スマート変更登記(職権登記)の対象外になるリスク
2026年4月から導入されるスマート変更登記(職権登記)では、法務局が住基ネットなどを活用して、職権で住所変更登記を行ってくれる仕組みがあります。
しかし、この制度を利用するには、事前に「検索用情報(氏名・生年月日・住所)」を法務局に申し出る必要があります。申し出をしていないと、自動更新の対象外となり、将来自分で申請が必要になります。
手間を減らすためにも、既に所有している不動産については「検索用情報の申出」を行い、新たに不動産を取得する場合には不動産登記の申請と同時に申出を行うことをおすすめします。
このように、住所変更登記を怠った場合の直接的なリスクは「本人確認の煩雑化」ですが、その先には「相続や売却の遅延」「余計な費用」「トラブルの発生」といった二次的な不利益が広がります。
早めに登記を整えておくことが、自分や家族を守る一番の予防策となります。
3.スマート変更登記(職権登記)とは?手続きをラクにする新制度
2026年4月1日から、住所変更登記や氏名変更登記の義務化と同時に、「スマート変更登記(職権登記)」という新しい仕組みが始まります。
これは、所有者の負担を軽減するために、法務局が自動的に住所・氏名変更登記を行う制度です。
申請の手間を省ける便利な制度ですが、利用するためには事前の準備が必要です。
3-1. スマート変更登記の仕組み
スマート変更登記は、法務局が住基ネットや商業登記システムと連携し、住所や氏名の変更を確認したうえで、登記簿上の情報を登記官の職権で更新する制度です。
これまで住所変更登記は本人申請が必要でしたが、スマート変更登記を利用すれば、自分で法務局へ行かなくても登記が完了します。
【対象となるケース】
- 個人所有の不動産 ⇒ 住基ネットとの連携
- 法人所有の不動産 ⇒ 商業登記システムとの連携
3-2. 個人の場合:住基ネットとの連携(事前申出が必要)
個人がスマート変更登記を利用するには、法務局へ事前の申出が必要です。
この申出で「検索用情報(氏名・生年月日・住所など)」を登録しておくと、住基ネットからの情報をもとに法務局が定期的に住所変更を確認します。
2025年4月21日以降に所有権の登記を行う場合は、登記申請時にこの検索用情報を併せて提供することで、自動的に連携登録されます。一方で、2025年4月21日より前にすでに所有権の名義人となっている場合は、事前に申し出を行う必要があります。
手続きは法務省の「かんたん登記申請」ページから行うことができ、「検索用情報の申出」メニューを選び、所有者の生年月日・メールアドレス・不動産の地番などを入力するだけで、Web上で簡単に申出が完了します。
【手続きの流れ】
- 事前申出
氏名・生年月日・住所などの情報をオンラインまたは法務局窓口で申請 - 法務局による定期確認
少なくとも2年に1回、住基ネットの情報と照合 - 住所変更の自動登記
変更が確認されると、登記官が職権で登記簿を更新 - 本人への通知
登記完了後、所有者に通知が届くので内容を確認できる
【特徴とメリット】
- 法務局に行かなくても住所変更登記が自動で完了
- 登録免許税は非課税
- 書類を揃える手間がかからない
ただし、事前申出をしていないと、スマート変更登記の対象外となり、従来どおり自分で申請する必要があります。
3-3. 法人の場合:商業登記との連携(申出不要)
法人の場合は、2026年4月以降、商業登記と不動産登記のシステムが自動連携します。
【手続きの流れ】
- 商業登記で本店移転などの住所変更登記を行う
- その情報が不動産登記システムに自動連携
- 登記官が職権で不動産登記簿の住所を変更
- 登記完了通知が法人へ送付される
【法人の場合のポイント】
- 個人のような事前申出は不要
- 商業登記をすれば自動的に不動産登記も更新される
- 登録免許税は非課税
複数の不動産を所有している法人にとって、大幅な業務効率化につながります。
3-4. スマート変更登記の注意点
スマート変更登記は便利な制度ですが、以下の点に注意が必要です。
① 海外在住者は対象外
住基ネットと連携する制度のため、住民票が日本にない方は対象外です。海外移住予定の方は、転出前に住所変更登記を済ませておくのが安心です。
② 会社法人番号のない法人は対象外
商業登記を行っていない法人(町内会・一部の管理組合など)は、自動更新の対象外で、従来どおり申請が必要です。
③ 事前申出が必須の場合がある
個人は事前に検索用情報を法務局へ登録しておかないと、スマート変更登記が適用されません。
④ 希望するタイミングで変更登記できない
スマート変更登記は、法務局が定期的に住基ネットを照合して行う職権登記です。所有者が「今すぐ登記したい」と希望しても、法務局による照会のタイミングを待つ必要があります。
すぐに登記が必要な場合は、従来どおり自分で申請する方が早いケースもあります。
4.住所変更登記の手続き方法|自分でやるか司法書士に依頼するか
2026年4月から住所変更登記が義務化されるため、引っ越しや氏名変更があった場合は、2年以内に登記手続きを行う必要があります。
ここでは、住所変更登記を自分で申請する場合と司法書士に依頼する場合の両方について、手続きの流れや必要書類、費用の目安を解説します。
4-1. 自分で申請する場合
住所変更登記は、所有している不動産の所在地を管轄する法務局で申請します。
申請方法は 窓口・郵送・オンラインの3つから選択できます。
【申請場所】
・不動産の所在地を管轄する法務局
例:東京都世田谷区の不動産 ⇒ 東京法務局世田谷出張所
【申請方法】
・窓口申請:法務局窓口に直接持参
・郵送申請:必要書類をまとめて書留で送付
・オンライン申請:申請用総合ソフトを利用し、電子署名で手続き
【必要書類】
・登記申請書
・住民票の写しまたは戸籍附票(住所変更時)
・戸籍謄本(氏名変更時)
・返信用封筒(郵送申請時)
【費用】
・登録免許税:1物件あたり1,000円
・住民票・戸籍附票:1通あたり200〜300円
・戸籍謄本:1通450円程度
複数の不動産を所有している場合は、所有物件ごとに登録免許税がかかりますが、1件にまとめて申請することも可能です。
4-2. オンライン申請の流れ
オンライン申請を希望する場合は、法務局が提供している「登記・供託オンライン申請システム」を利用します。
パソコンから手続きができるため、法務局まで出向く必要がなく便利です。
【オンライン申請のステップ】
- 申請用総合ソフトをインストール
法務省の公式サイトから無料でダウンロード可能。 - 申請情報を入力
不動産情報、住所、氏名などを入力。 - 必要書類をPDF化して添付
住民票や戸籍謄本をスキャンしてデータで提出。
住民票の写しなど紙で発行される添付情報は、申請後に法務局へ原本を送付する必要があります。 - 電子署名で認証
マイナンバーカードなどを利用して本人確認。 - 申請完了後、登記完了証をオンラインで受領
【費用】
- 登録免許税は窓口申請と同じ 1物件あたり1,000円
- 追加手数料は不要
オンライン申請は24時間対応しており、郵送よりも処理が早いのがメリットです。
4-3. 司法書士に依頼する場合
登記手続きを自分で行うことも可能ですが、書類作成や必要書類の収集、法務局とのやりとりは想像以上に複雑です。
特に、以下のようなケースでは司法書士に依頼する方がスムーズです。
司法書士に依頼するメリット
- 必要書類の収集から申請までをすべて任せられる
- 住所変遷が複雑でも適切に対応してもらえる
- 法務局とのやりとりや補正対応も代行してもらえる
費用の目安
- 登録免許税:1物件あたり1,000円(自分で申請する場合と同じ)
- 司法書士報酬:10,000円〜20,000円程度
- 必要書類の取得代行費用が別途かかる場合あり
特に、転居を繰り返して住所変遷が多いケースや、相続登記とあわせて行う場合は、司法書士に依頼することで大幅に手間と時間を省くことができます。
5.相続と住所変更登記の関係|同時対応でトラブル防止
相続登記の義務化は、既に2024年4月から始まっており、相続による不動産の名義変更は相続発生から3年以内に行う必要があります。
そして前述のとおり、2026年4月からは住所変更登記の義務化もスタートし、住所や氏名が変わった場合は変更から2年以内に登記申請が必要です。
この2つの制度は別々の義務ですが、実務では相続登記と住所変更登記を同時に申請するケースが多くなっています。
ここでは、その関係性と同時申請のメリットを詳しく解説します。
5-1. 相続登記義務化と住所変更登記義務化の関係
相続登記と住所変更登記は、別々の手続きですが、相続登記を行う際に相続人の住所が登記簿上と異なるケースが多くあります(例:登記簿は東京都新宿区のまま、実際の現住所は神奈川県横浜市など)。
この場合、相続登記と相続人の住所変更登記を同じタイミングで申請できます。同じタイミングで行うことで、必要書類を一度にそろえられ、法務局への申請も一回で済むため、効率的です。
また、相続登記義務化と住所変更登記義務化はそれぞれ独立した制度ですが、同時に行うことで、結果的に両方の義務を一度に果たすことができるため、効率的かつ確実な対応につながります。
5-2. 相続登記と住所変更登記を同時に行うメリット
相続登記と住所変更登記を同時に申請することで、以下のメリットがあります。
- 申請回数をまとめられる
相続登記と相続人の住所変更登記を同時に申請できるため、法務局への申請回数を減らせます。 - 書類準備の手間を最小限に
必要書類(住民票・戸籍附票など)を一度にそろえられるため、別々に申請するより効率的です。 - 売却や融資時のトラブル防止
相続登記時点で登記簿上の住所を最新にしておけば、将来的な不動産売却や担保設定の際に手続きがスムーズに進みます。
ここでいう住所変更登記は、主に相続人の住所変更登記を指します。
一方で、被相続人(亡くなった方)の登記簿上の住所が現住所と異なる場合でも、住民票の除票や戸籍附票を添付すれば同一人物であることを証明できるため、被相続人の住所変更登記は原則不要です。
さらに、住民票や戸籍附票で住所のつながりが証明できない場合でも、上申書や権利証を添付することで省略が可能です。
ただし、遺言で相続人以外に不動産を遺す「特定遺贈」がある場合など、例外的に被相続人の住所変更登記が必要となるケースもあります。
5-3. 放置すると起きるリスク
相続登記や住所変更登記を放置すると、次のような問題が発生します。
こうしたトラブルを避けるためにも、相続登記と住所変更登記は可能な限り同時に対応するのがおすすめです。
5-4. 司法書士に相談するメリット
相続登記と住所変更登記を同時に行う場合、必要書類の収集や登記申請書の作成、法務局とのやり取りが複雑になることがあります。
司法書士に依頼すると、次のようなサポートを受けられます。
特に、相続人が多い場合や住所変遷が複雑な場合は、司法書士に依頼することで効率的かつ確実に登記を完了できます。
6. よくある質問・Q&A
Q1. 住所変更登記はいつまでにやらなければいけませんか? |
A1. 住所や氏名の変更があった日から 2年以内 に申請する必要があります。施行日前(2026年4月1日より前)の変更でまだ登記していない場合は、2028年3月末までに手続きしなければなりません。 |
Q2. 住所変更登記を忘れてしまうとどうなりますか? |
A2. 正当な理由なく申請を怠ると、5万円以下の過料の対象となります。ただし、いきなり罰則が科されるわけではなく、まずは法務局から催告が届きます。その時点で申請すれば過料を避けられるケースもあります。 |
Q3. 自分で住所変更登記をすることはできますか? |
A3. 可能です。法務局の窓口、郵送、オンラインのいずれかの申請方法で手続きができます。ただし、住民票や戸籍附票、戸籍謄本などの必要書類を揃える必要があり、書類不備があると補正を求められるため、不安があれば司法書士に依頼すると安心です。 |
Q4. スマート変更登記を利用すれば何もしなくていいのですか? |
A4. 完全に放置できるわけではありません。スマート変更登記を利用するには、事前に検索用情報を法務局へ申し出る手続きが必要です。また、法務局が職権で登記するため、所有者が希望するタイミングで変更されるわけではない点にも注意してください。 |
Q5. 相続登記と住所変更登記はどちらを優先すべきですか? |
A5. 原則としては相続登記を優先して所有者を確定させるのが基本です。ただし、登記簿上すでに共有者となっている相続人が、他の相続人の持分を取得して単独所有者になる場合には、その相続人の住所変更登記を先に行う必要があります。住所を最新にしたうえで「持分全部移転」の相続登記を申請することで、スムーズに手続きが進められます。 |
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