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相続放棄

相続放棄のデメリットとは?後悔を防ぐ判断ポイントやトラブル回避策を解説

相続放棄のデメリットとは?後悔を防ぐ判断ポイントやトラブル回避策を解説

「相続放棄をすると、損をするのでは?」「放棄したら親族に迷惑がかかるのでは?」と不安や疑問を抱えている方も多いのではないでしょうか。相続放棄は借金を引き継がずに済む有効な選択肢である一方、財産を一切受け取れない、原則撤回できないなどの制約や、親族間トラブルの火種となるリスクも抱えています。この記事では、相続放棄の基本から、具体的なデメリットや判断基準、手続きの流れ、注意点までをわかりやすく解説します。相続放棄で後悔しないために必要な知識を、網羅的に把握したい方は、ぜひ参考にしてみてください。

この記事を要約すると

  • 相続放棄には、プラスの財産も受け取れないうえ、原則として撤回できないというデメリットがあります。また、放棄によって相続権がほかの親族に移るため、トラブルの原因となることもあります。
  • 相続放棄を後悔しないためには、財産のプラス・マイナスを総合的に判断し、限定承認の検討や親族との共有、専門家への相談が重要になります。
  • 相続放棄には家庭裁判所への申述や3か月の期限があり、書類の不備や判断ミスで無効となるリスクもあるため、早めの準備と専門家への相談がおすすめです。

1. 相続放棄とは?まず押さえておきたい基礎知識

相続放棄とは、相続人が被相続人(亡くなった人)の財産や負債を一切受け継がないとする法的な手続きのことです。

相続放棄をすると、その相続人は最初から相続人でなかったものとみなされます(民法第939条)。これにより、プラスの財産はもちろん、借金などのマイナスの財産も引き継がずに済みます。

相続放棄は、被相続人が亡くなったことを知った日から3か月以内に、家庭裁判所へ申述する必要があります。この期間を「熟慮期間」と呼びます。相続するか放棄するかを判断するためには、被相続人の財産状況を正確に把握しなければなりません。

また、相続放棄をする際は注意点も多く、相続財産に手をつけると「単純承認」とみなされてしまい、放棄できなくなるケースもあります。そのため、判断に迷う場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談することが重要です。

2. 相続放棄の主なデメリット5つ

相続放棄は借金を引き継がずに済むというメリットがある一方で、注意すべきデメリットも存在します。

ここでは、以下の5つのデメリットを詳しく解説します。

  1. プラスの財産も一切相続できなくなる
  2. 一度放棄すると原則、撤回・取り消しができない
  3. 相続権が次順位に移り、親族トラブルになる可能性がある
  4. 死亡保険金や退職金の非課税枠が使えない
  5. 相続財産の保存義務(管理義務)が残る場合がある

① プラスの財産も一切相続できなくなる

相続放棄をすると、マイナスの財産だけでなく、預貯金や不動産などのプラスの財産も一切相続できなくなります。法的には「初めから相続人でなかった」とみなされるため、価値のある財産があとから見つかっても受け取ることはできません

特に注意が必要なのは、当初は負債が大きいと判断して相続放棄をしたものの、未確認だった資産が後々判明するケースです。放棄後は取り消すことができないため、損をしてしまう可能性があります。相続財産の調査は十分に行いましょう。

② 一度放棄すると原則、撤回・取り消しができない

相続放棄は、家庭裁判所に申述して受理された時点で法的効力を持ちます。一度受理されたあとは、原則として撤回や取り消しはできません。

たとえ、あとになってプラスの財産が見つかったり家族の事情が変わったりしても、放棄の効力を無効にすることはできないことを覚えておきましょう。

ただし、例外として、詐欺や脅迫、重大な勘違い(錯誤)による申述であれば、取消しが認められる可能性もあります。とはいえ、立証のハードルは高く、裁判所の判断が必要です。

そのため、相続放棄は取り返しのつかない手続きであることを理解し、慎重な判断を心がけましょう。

③ 相続権が次順位に移り、親族トラブルになる可能性がある

同順位の相続人全員が相続放棄をすると、相続権は次の順位にある親族へ移ります。たとえば、子や配偶者が放棄すれば、故人の親や兄弟姉妹が新たな相続人となります。

放棄した事実を共有しないまま放置すると、次順位の相続人が突然、借金の請求を受けるといったトラブルに発展することもあります。

特に親族関係が疎遠だったり、遺産の内容が不透明な場合には、「なぜ自分が負債を背負うのか」と不信感を抱かせてしまう可能性もあるでしょう。こうしたトラブルを回避するためには、相続放棄の意向を早めに関係者へ伝えることが大切です。

④ 死亡保険金や退職金の非課税枠が使えない

相続放棄をしても、死亡保険金や退職金などは「受取人固有の財産」として受け取ることができます。ただし、相続人ではなくなることで「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が使えなくなり、結果的に相続税の負担が増える可能性があります。

たとえば、保険金を1,000万円受け取る場合でも、相続人であれば非課税枠を利用できたのに、放棄したことで全額課税対象になるケースがあります。

非課税枠の恩恵は「相続をする人」であることが条件となるため、事前に保険金や退職金の受取予定も含めてシミュレーションしておくことが大切です。

⑤ 相続財産の保存義務(管理義務)が残る場合がある

相続放棄をしたとしても、相続財産を現に占有していた場合は、次の管理者へ引き渡すまでのあいだ保存義務が残る可能性があります。

なお、2023年4月の民法改正で、相続財産を管理する責任を負う人の規定が明確化され「相続放棄をした時点でその相続財産を占有していた人」という基準が設けられました。これに合わせ、「管理義務」といわれていた責任が「保存義務」に変更されています。

これは民法940条に定められており、たとえば空き家を放棄前から管理していた場合、その建物の倒壊などによる損害が発生すれば、賠償責任を問われることもあります。

この義務を免れるためには、他の相続人または次順位の相続人に占有していた遺産を引き継いでもらう必要があります。その相続人も相続放棄をした場合は、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立て、相続財産清算人に遺産を引き継ぐことで、この義務を免れることができます。

相続放棄をして「完全に関係がなくなる」と誤解しないよう、注意が必要です。

3. 相続放棄をして後悔しないための判断基準

相続放棄は一度行うと撤回できないため、判断を誤ると後悔につながりかねません。重要なのは、被相続人の財産状況や家族関係、そして自身の将来の影響までを視野に入れて慎重に決断することです。

ここでは、放棄を検討する際にチェックしておきたい判断基準を紹介します。

3-1. プラス資産と負債を比較して総合的に判断する

相続放棄を検討するうえで最も基本的かつ重要な視点は、「相続財産がプラスになるかマイナスになるか」の判断です。

預貯金や不動産、有価証券などの資産と、借金や未払い金といった負債のバランスを明確に把握し、総合的に評価する必要があります。

とくに注意すべきなのは、相続財産に評価の難しい不動産や未公開株などが含まれる場合です。見た目の額面だけで判断せず、専門家に査定を依頼するのも一つの方法です。

見落としによる「実はプラスだった」というケースを避けるためにも、丁寧な財産調査が欠かせません。

3-2. 限定承認という選択肢も検討する

相続放棄をするかどうか判断がつかない場合、「限定承認」という制度も選択肢に加えるとよいでしょう。限定承認とは、相続財産の範囲内でのみ負債を弁済する方法で、プラスの財産が負債を上回っていれば差額分を受け取ることができます。

限定承認は、遺産の全体像が見えないときに有効です。たとえば、不動産や有価証券の評価が難しい場合でも、資産を超える借金は負担せずに済むため、一定の安全策となります。

ただし、限定承認には「相続人全員の同意」が必要であり、相続税の減税制度を受けることができなくなるなど、税金面でのデメリットがあるうえ、手続きも煩雑なため、専門家への相談が前提となる点には注意が必要です。

3-3. 親族や兄弟姉妹への影響も踏まえて決断する

相続放棄をすると、相続権は次順位の相続人に移ります。自分が相続を放棄したことで、思いがけず親や兄弟姉妹が負債を相続する可能性があるため、その影響を事前に理解しておくことが大切です。

たとえば、長男が放棄した結果、疎遠だった次男や、高齢の両親が借金の請求を受けてしまうケースもあります。放棄する本人には責任はなくても、親族間で不信感やトラブルが生じることもあるため、事前の連絡や共有が欠かせません。
家族関係に波風を立てないためにも、相続放棄の意向は早めに話し合い、家族全員が納得したうえで判断しましょう。

3-4. 迷う場合は専門家のアドバイスが有効

相続放棄をすべきか迷っている場合は、司法書士や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。相続財産の内容や金額、ほかの相続人との関係性などを踏まえて、法律的・実務的な観点から最適な判断材料を提供してくれます。

特に、相続財産に不動産や未公開株式などが含まれている場合や、親族間の関係が複雑なケースでは、専門的な知識がなければ正しい判断が難しいものです。また、限定承認を選ぶ際にも、手続きの煩雑さや書類不備によるリスクがあるため、プロのサポートが有効です。

手続きの遅れや判断ミスが致命的な結果につながる前に、信頼できる専門家に早めに相談しておくと安心です。

4. 相続放棄で起こりがちなトラブルとその回避策

相続放棄は有効な手段ですが、手続きや情報共有の不備によって思わぬトラブルを引き起こすこともあります。相続放棄を適切に進めるには、ほかの相続人との連携や法律上のルールを正確に理解することが欠かせません。

ここでは、実際に起こりがちな3つのトラブルを紹介し、その回避策について解説します。

4-1. 相続財産に手をつけてしまい放棄できなくなる

相続放棄を考えていても、被相続人の財産にうっかり手をつけてしまうと、相続放棄ができなくなる恐れがあります。これは「法定単純承認」と呼ばれる状態で、相続財産を使ったとみなされる行為があると、自動的に相続を承認したと扱われてしまいます

たとえば、被相続人の預貯金を引き出して自分の口座に移したり、不動産の賃料を受け取ったりすると、それだけで「相続した」と判断されてしまいます。さらに、形見分けや遺品整理で財産を譲渡した場合も該当することがあるため、注意が必要です。

相続放棄を検討しているあいだは、相続財産には一切手をつけないことが原則です。判断に迷う場合は、財産調査だけにとどめ、確定するまでは何も処分しないようにしましょう。

4-2. 申述期限を過ぎて放棄ができなくなる

相続放棄には明確な期限があり、「相続の開始を知った日から3か月以内」に家庭裁判所へ申述しなければなりません。この期間を「熟慮期間」といい、過ぎてしまうと原則として放棄は認められなくなります。

この期限を誤解しやすいのが「被相続人が亡くなった日」ではなく、「自分が相続人であると知った日」が起点となる点です。たとえば、相続人が兄弟姉妹に移ったケースでは、通知を受けた日から3か月以内が期限となります。

申述期限を過ぎると、たとえ借金の存在を知らなかった場合でも、原則として放棄はできず、法的にはすべての権利義務を相続したことになります。期限内に放棄の判断と準備を進めるには、早めの財産調査と専門家への相談が不可欠です。

5. 相続放棄の手続きの流れ

相続放棄は、家庭裁判所への申述という正式な手続きによって成立します。単なる「相続しない」という意思表示では無効になるため、法的な手続きが必要不可欠です。以下のようなステップで進めるのが一般的です。

ステップ内容
相続財産の調査・プラスとマイナスの財産を洗い出し、放棄の可否を判断する
必要書類の準備・戸籍謄本や住民票などをそろえる
・申述人や被相続人の状況に応じて書類は異なる
家庭裁判所に申述書を提出・被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出する
照会書に回答・返送・意思の確認のために、裁判所から届く書類に記入し返送する
申述受理通知書を受け取る・無事に手続きが完了すれば、相続放棄が正式に認められたこと
 を示す通知書が届く

相続放棄は、形式や期限を守らなければ無効になることがあります。不備が心配な方は、早い段階で司法書士や弁護士に相談することがおすすめです。

6. 相続放棄にかかる費用の目安

相続放棄にかかる費用は、自分で手続きを行う場合と、司法書士や弁護士などの専門家に依頼する場合で大きく異なります。

費用の項目としては、収入印紙や郵便切手、戸籍取得などの費用に加え、専門家に依頼する場合は報酬も発生します。

あくまで目安になりますが、以下に代表的な費用項目と相場を整理したので、参考にしてみてください。

費用項目自分で手続きする場合専門家(司法書士・弁護士)へ
依頼する場合
裁判所への申立費用
(収入印紙代)
800円
(1名分)
実費として別途発生
(依頼料とは別)
郵便切手代約400~1,000円
(裁判所による)
実費として別途発生または報酬に
含まれることもある
戸籍など
書類の取得費用
約1,500〜3,000円
(1名分)
実費として別途発生または報酬に
含まれることもある
専門家の報酬なし約3万〜10万円
(1名あたり)
合計費用の目安約3,000〜5,000円程度約3.5万〜11万円程度
(実費込みの場合)

専門家に依頼する場合、戸籍の取得や書類の不備対応も含めた「丸ごと対応」の報酬体系が多く、実費込みで提示されることもあります。一方で、急ぎの対応や複雑な事案になると、追加料金が発生する可能性もあるため、事前の見積もり確認が重要です。

なお、自分で手続きを進める場合でも、提出書類の不備や期限の誤認で申述が却下されるリスクがあります。不安な方は、費用とリスクを比較したうえで、専門家への相談を検討するとよいでしょう。

7. よくある質問

相続放棄に関するご相談で、特に多い質問についてQ&A形式で解説します。判断や手続きで迷いやすいポイントを、できるだけわかりやすく解説します。

Q1. 相続放棄をしたらNGな行為は?
A1. 相続放棄後に相続財産を処分したり使用したりすると、放棄が認められなくなる可能性があります。たとえば、故人の預金を引き出す、遺品を売却するなどはNG行為です。相続人としての権利を行使したと見なされるため、注意が必要です。
Q2. 相続放棄をすると何が失われますか?
A2. 相続放棄を行うと、被相続人のすべての財産(資産・負債の両方)を相続する権利が失われます。具体的には、預貯金・不動産・株式などのプラスの財産も受け取れなくなり、相続人としての立場も失います。
 さらに、死亡保険金や退職金に対する非課税枠の適用も受けられなくなるため、相続税の負担が増えるケースもあります。
Q3. 親族「みんなが相続放棄」をすると、何が起きる?
A3. 相続人全員が相続放棄をした場合、相続財産は最終的に国庫に帰属します。ただし、実際にはすぐに国に引き渡されるわけではなく、家庭裁判所が選任する「相続財産清算人」によって財産整理が行われます。
 なお、清算までのあいだは、相続財産を現に占有している相続放棄者に財産の管理義務が残ることがある点にも注意が必要です。
Q4. 相続放棄した借金は誰が払うの?
A4. 相続放棄をした本人には、借金の返済義務は一切ありません。ただし、相続放棄をしなかった同順位の相続人がいた場合には、その相続人が債務を引き継ぎます。同順位の相続人が全員、相続放棄をした場合は、相続権が次順位に移るため、その人が債務を相続する可能性があります。
 すべての相続人が放棄した場合は、債権者は請求先を失い、最終的に債務が消滅するケースもあります。とはいえ、親族間の連絡不足からトラブルに発展することが多いため、相続放棄の意思はできるだけ共有しておくことが大切です。

8. 相続放棄の判断は慎重にかつ早めに!不安があれば専門家に相談しよう

相続放棄をすると、負債も含めたすべての遺産を引き継がずに済みます。これは「初めから相続人でなかった」とみなされるため、本人に債務の責任は及びません。

一方で、放棄によって相続権が親族に移ると、思わぬトラブルや負債の連鎖を招くこともあります。また、申述には3か月以内という期限があるうえ、手続きには戸籍の収集や法的な判断が必要です。

判断に迷う場合や相続人が複雑なケースでは、司法書士や税理士などの専門家に相談するのが安心です。nocosを運営するNCPグループでは、オンラインにも対応した相続サポート体制を整えていますので、早めの相談をおすすめします。

正木 博

保有資格・・・司法書士・行政書士・社会保険労務士・宅地建物取引士
得意分野・・・相続全般(特に遺言・相続手続きなど)

年間約30件ほどのセミナーを行い、
これまで携わった相続手続き累計件数 5,000件以上

宮城県司法書士所属 登録番号 宮城 第769号

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