この記事を要約すると
- 相続放棄をしても代襲相続は発生しないため、子や孫が負債を相続する心配はありません。
- ただし、相続関係の順序次第では再転相続や連鎖的な放棄により他の親族に相続が及ぶ可能性があります。
- 相続放棄の仕組みや期限、影響範囲について正しく理解し、必要に応じて専門家のサポートを受けることでトラブルを回避できます。
1. 相続放棄をすると、代襲相続は発生しない
相続放棄をした場合、その子どもや孫に相続が移ることはありません。
相続放棄は「初めから相続人ではなかった」とみなす制度です。そのため、放棄した人の直系卑属、つまり、子どもや孫による代襲相続は発生しません。
代襲相続が発生するのは、相続人の相続開始以前に死亡している場合や、相続欠格・廃除といった理由で相続権を失っていた場合に限られます。そのため、相続放棄は代襲相続の原因とはならないという点を理解しておくことが重要です。
特に、借金などのマイナスの遺産を相続放棄で回避した際に、「自分の子どもに負債が移るのでは?」と心配する人は多いものですが、相続放棄であればその心配は不要です。
2. 相続放棄をすると代襲相続が発生しない理由
相続放棄は「最初から相続人でなかった」とみなされるため、代襲相続は発生しません。
代襲相続とは、本来相続人となるはずだった人が死亡・欠格・廃除によって相続できない場合に、その子が代わりに相続人になる制度です。
一方で、相続放棄は本人の意思で相続権を放棄する手続きであり、これを行った人は最初から相続人でなかったものとして法律上取り扱われます(参考:民法第939条)。
このように、代襲相続は「相続人としての地位が失われる」ことが前提である一方、相続放棄は「地位そのものがなかったことにされる」ため、放棄した人の子や孫には相続権が移らないことを覚えておきましょう。
3. 混同に注意!相続放棄後でも代襲相続が発生することがある
相続放棄によって代襲相続は発生しませんが、相続の順番や関係性によっては「代襲相続が起きる」「代襲と見間違えやすいケース」があります。ここでは、そんな注意すべきパターンをわかりやすくケース別に解説します。
【ケース1】父の相続放棄後に祖父の相続が発生した
父の相続を放棄しても、祖父の相続では子(孫)が代襲相続人になる可能性があります。
相続放棄は被相続人ごとに個別に判断されるため、父の相続を放棄したからといって、祖父の相続まで放棄されたことにはなりません。たとえば、父の死亡後に祖父が亡くなった場合、父はすでに故人であるため、父に代わってその子(孫)が祖父の遺産を代襲相続することになります。
このような場合、孫が祖父の財産を相続したくないと考えるなら、父についての相続放棄とは別に、祖父の相続についての相続放棄の手続きが必要です。相続放棄は自動的に適用されるものではなく、相続が発生するたびに被相続人毎に家庭裁判所での申立てが必要となる点に注意しましょう。
【ケース2】兄弟姉妹が放棄・死亡して甥姪に相続が回った
相続人となるはずであった兄弟姉妹が死亡していた場合、被相続人の甥や姪が代襲相続人になります。ただし「相続放棄」では代襲は発生しません。
たとえば、被相続人の兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合、その子である甥や姪が代襲相続人になります。これは民法889条2項により定められた代襲相続で、兄弟姉妹が死亡していることが条件です。
一方、兄弟姉妹が相続放棄をした場合、その子(甥姪)に代襲相続は発生しません。相続放棄は「最初から相続人ではなかった」扱いとなるため、その子に権利は移らないためです。
つまり、被相続人が死亡した場合は代襲相続が生じることがありますが、「相続放棄」で代襲相続は生じません。混同しやすいため、制度の違いを正しく理解しておきましょう。
【ケース3】祖父の相続が発生し、父が放棄前に死亡した(再転相続)
父が祖父の相続放棄をする前に死亡した場合、子が再転相続によって二重に相続人となる可能性があります。
このケースでは、祖父の相続手続き中に父が死亡したことで、子が「父の相続人」と「祖父の代襲相続人」の二重の立場になることがあります。これを再転相続と呼びます。再転相続は、代襲相続と異なり、相続が複数の段階で発生している点が特徴です。
このような場合、子が父と祖父両方の相続放棄を検討する必要があるため、タイミングの見極めが非常に重要です。たとえば、父の相続開始を知ってから3ヶ月以内に相続放棄をしなければ、父の財産とともに、祖父の相続分も承継してしまう可能性があります。
再転相続は判断を誤ると、思わぬ相続義務を背負うこともあるため、早めに状況を整理し、必要に応じて専門家に相談するのが望ましいでしょう。
【ケース4】相続放棄が連鎖して無関係な親族に相続が移った
先順位の相続人がすべて相続放棄すると、順次、後順位の相続人に権利が移り、思いがけず相続人になるケースがあります。
たとえば、被相続人の子が全員相続放棄すると、次順位の直系尊属(父母)に相続権が移ります。直系尊属も相続放棄をすると、次は兄弟姉妹ですが、被相続人の相続開始以前に兄弟姉妹が死亡していれば甥や姪へと相続権が移動していきます。
このような連鎖的な放棄によって、被相続人と疎遠だった親族が突然相続人となり、借金などの債務を背負う可能性もあります。
相続放棄をした場合、自分のあと相続人となる人物にその旨を伝えないと、突然督促状が届いたり、遺産分割協議に巻き込まれるなどのトラブルが生じるおそれがあります。事前に相続放棄の意思と背景を伝えることで、親族間の混乱を避けやすくなります。
4. 代襲相続人が相続放棄したいときの手続き
代襲相続人も通常の相続人と同様に、家庭裁判所への申述によって相続放棄を行うことができます。
相続放棄は、相続の開始および自分が相続人であることを知った日から3か月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行う必要があります(民法915条)。これは代襲相続人であっても同じです。
申立てには以下のような書類が必要になります。
- 相続放棄申述書
- 被相続人の戸籍謄本(死亡の記載のあるもの)
- 被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍謄本
- 申述人の戸籍謄本
- 申述人の住民票(もしくは戸籍附票)
- 被相続人の除票(もしくは戸籍の徐附票)
代襲相続人が甥姪の場合は、これらに加えて、代襲相続人であることを証明するために、通常よりも多くの戸籍書類が必要になる場合があります。
また、相続放棄は一度申請が受理されると撤回できません。被相続人の遺産に借金などが含まれている場合や、そもそも関わりたくないと考えている場合は、慎重に判断しつつ、必要に応じて専門家のサポートを受けることが望ましいでしょう。
5. 代襲相続人が放棄する際の注意点
代襲相続人も通常の相続人と同様に放棄は可能ですが、いくつか注意点があります。ここでは、手続き前に知っておきたいポイントを具体的に解説します。
5-1. 遺産分割協議だけで債務を回避できるとは限らない
遺産分割協議で「相続しない」と取り決めても、法的に債務を免れることはできません。
遺産分割協議とは、相続人同士が遺産の分け方を話し合う場のことですが、これは相続人のあいだでの合意に過ぎず、債権者に対し、遺産分割の効果を主張することはできません。
たとえば、代襲相続人として遺産分割協議に参加し、自分は何も受け取らないとする遺産分割協議がまとまったとしても、債権者が納得しなければ自己の相続分に応じた債務の返済義務を負うことになります。
このように、相続財産に借金が含まれている場合は、遺産分割協議ではなく、家庭裁判所での相続放棄が最も確実な放棄の手段となります。
負債を相続したくないときは、協議への参加ではなく、相続放棄を正式に行うことで、初めて債務を完全に回避することが可能です。手続きには期限があるため、迷っている間に期限を過ぎてしまわないよう早めに対応しましょう。
5-2. 相続放棄は次順位の相続人にも必ず伝えておく
自分が相続放棄をした場合、次に相続人となる親族に連絡しておくことが非常に重要です。
相続放棄をすると、その人は「はじめから相続人でなかった」とみなされ、相続権は次順位の相続人へと移ります。たとえば、子が全員相続放棄をした場合、次は被相続人の親が相続人となり、さらにその人たちも放棄すれば、兄弟姉妹が相続人となり、兄弟姉妹が既に死亡していた場合には甥姪へと相続が連鎖していきます。
この連鎖のなかで、次順位となる親族が事情を知らずに対応を遅らせると、借金などを相続してしまうリスクもあります。
家庭裁判所からは次順位の相続人へ自動的に通知が行われないため、相続放棄をした人が積極的に連絡を入れることが、親族間トラブルの予防につながります。特に債務が絡む相続では、相手にとっても重要な判断材料となるため、誠意をもって情報共有を行いましょう。
5-3. 複雑なケースでは専門家への相談を検討する
代襲相続や相続放棄が絡む相続では、専門家への相談がスムーズな解決につながります。
代襲相続は「誰が相続人になるのか」が非常に複雑になりやすく、相続放棄の可否や影響範囲を自己判断するのは困難です。特に再転相続や被相続人が複数いるケースでは、放棄すべきタイミングや対象を間違えると想定外の債務を背負うリスクもあります。
また、相続放棄には戸籍や住民票などの提出書類が多く、家庭裁判所への申述手続きにも正確さが求められます。不備があると受理されなかったり、再提出が必要になったりするため、手続きを一発で確実に終えたい方には、司法書士や弁護士への依頼がおすすめです。
親族間でのトラブルや債権者対応も含めて安心して進めたい方は、早めに専門家へ相談しておくとよいでしょう。
6. よくある質問
相続放棄と代襲相続に関しては、誤解されがちな点も多くあります。ここではよくある質問を中心に、簡潔に答えを紹介していきます。
Q1. 代襲相続を放棄するにはどうすればいい? |
A1. 代襲相続人も通常の相続人と同様に、家庭裁判所で相続放棄の申述を行う必要があります。手続きには、相続開始を知った日から3ヶ月以内という期限があるため注意が必要です。また、代襲相続であることを証明するために、通常より多くの戸籍などの書類が必要になることがあります。手続きをスムーズに進めたい場合は、専門家への相談もおすすめです。 |
Q2. 相続放棄は代襲相続の原因になる? |
A2. 相続放棄は代襲相続の原因にはなりません。代襲相続が発生するのは、相続人が死亡・欠格・廃除された場合に限られます。一方、相続放棄は「相続人でなかったものとみなされる」ため、その子どもや孫に相続権が移ることはありません。 |
Q3. 代襲相続を無視するとどうなる? |
A3. 代襲相続を無視して、ほかの相続人のみで行った遺産分割協議は無効となります。自分が代襲相続人となり、その相続に関与したくないのであれば、家庭裁判所で相続放棄の申述を行いましょう。 |
Q4. 代襲相続人はどこまで相続放棄できる? |
A4. 代襲相続人は、通常の相続人と同様に相続放棄が可能です。ただし、相続人の範囲には制限があります。直系卑属(子・孫など)の代襲相続については、再代襲(ひ孫・玄孫など)も認められています。一方で、兄弟姉妹の代襲相続は一代限りとされており、その子(甥姪)は代襲できますが、甥姪の子ども(再代襲)は相続人にはなれません。放棄の対象は「自分が代襲した相続」単位であり、放棄するには個別に家庭裁判所へ申述が必要です。相続の発生ごとに、放棄の手続きを行う必要がある点に注意しましょう。 |
7. 相続放棄と代襲相続の仕組みを正しく理解してトラブルを防ごう
相続放棄を行った場合でも、原則として子どもや孫に代襲相続は発生せず、借金などの負債が引き継がれる心配はありません。これは、相続放棄によって「はじめから相続人ではなかった」と法律上みなされるためです。
しかし実際には、再転相続や連鎖的な放棄、親族の死亡による代襲相続など、放棄と代襲が絡む複雑なケースが多く存在し、制度を正しく理解していないと混乱を招くおそれもあります。誤った判断により、意図せず債務を相続してしまうケースもあるため、冷静かつ慎重な対応が大切です。
とはいえ、相続放棄や代襲相続に関する手続きは、期限管理や戸籍書類の収集など専門的な知識を要する場面が多いものです。特に再転相続や相続人の調査が絡む場面では、司法書士や弁護士といった専門家のサポートが不可欠といえるでしょう。
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