この記事を要約すると
- 数次相続とは、一つの相続が完了する前に次の相続が発生することを指します。
- 手続き上、複数の相続を並行して対応する必要があり、相続人の確定や遺産分割協議書の作成も通常より複雑になります。
- 相続税の申告期限や控除の扱いも異なるため、早めに税理士や司法書士などの専門家に相談することが重要です。
1. 数次相続とは?
数次相続(すうじそうぞく)とは、一度目の相続手続き(一次相続)が終わらないうちに相続人が亡くなり、次の相続がはじまってしまう状態を指します。
たとえば、父の相続手続き中に母が亡くなった場合、父と母の相続が重なり、子どもたちは両方の相続手続きを同時に進めなければなりません。
相続人の確定や遺産分割協議が複雑になるため、通常の相続よりも手続きに注意が必要です。また、相続税の申告や遺産分割協議書の作成にも特有のポイントがあるため、早期の対応が重要です。
2. 似ている相続形式との違い
数次相続とよく似た相続形式として、「代襲相続」「相次相続」「再転相続」があります。混同しやすいこれらの違いを明確に理解することで、正しい手続きを進めやすくなるでしょう。
2-1. 代襲相続との違い
代襲相続(だいしゅうそうぞく)とは、本来相続人となるべき人が被相続人の死亡以前に亡くなっていた場合に、その子や孫が代わって相続人となる制度です。
たとえば、父の相続がはじまる前に長男が死亡していた場合、長男の子ども(孫)が代襲相続人として父の財産を受け継ぎます。
一方で数次相続は、相続開始後に相続人が死亡し、新たな相続が重なるケースです。つまり、代襲相続は「被相続人が亡くなる以前の死亡」、数次相続は「相続手続き中の死亡」という相続人が亡くなるタイミングの違いであることがポイントです。
2-2. 相次相続との違い
相次相続(そうじそうぞく)とは、ある相続が発生してから10年以内に、相続人の死亡によって新たな相続が発生し、相次相続控除の適用を受けられる相続を指します。
たとえば、父の死亡により相続がはじまり、相続税を納付したあと、3年後に相続人である母が亡くなった場合が該当します。このとき、母の財産には、父から相続した財産も含まれます。
数次相続との違いは、相続税の申告・納税手続きが完了しているかどうかにあります。相次相続は一度相続が完了している前提で、数次相続は手続きが終わらないうちに次の相続がはじまる点で異なります。
2-3. 再転相続との違い
再転相続(さいてんそうぞく)とは、相続人が相続するか放棄するかの判断期間(熟慮期間)中に亡くなった場合に、その判断が次の相続人に引き継がれる制度です。
たとえば、父の死亡後、相続放棄を検討中の長男が亡くなった場合、長男の相続人が父の相続についても判断する必要があります。
数次相続と似ていますが、再転相続では、一次相続に対する「承認・放棄」の選択権が未決定のまま次の相続に移る点が特徴です。一方、数次相続は相続を承認したうえで相続人が亡くなる点で異なります。
3. 数次相続が発生した場合の流れ
数次相続が発生した場合、通常の相続手続きとは異なる点がいくつかあります。ここでは、相続人の確定から登記までの流れを段階ごとに解説します。
3-1. 相続人調査
数次相続においては、一次相続と二次相続それぞれの相続人を正確に把握する必要があります。
相続人の調査では、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取得し、法定相続人を確定させます。数次相続では、たとえば父(一次相続人)が死亡し、遺産分割前に母(二次相続人)が死亡した場合、母が相続するはずだった父の財産は、母の相続人(子どもなど)が引き継ぐことになります。
このように、二次相続人が一次相続の財産の一部を受け継ぐことになるため、全体の相続関係を整理することが重要です。相続関係が複雑になる場合は、相続関係説明図や法定相続情報一覧図を活用すると手続きがスムーズになります。
3-2. 相続放棄
数次相続では、一次相続と二次相続のそれぞれについて、個別に相続放棄の判断を行う必要があります。
相続放棄とは、被相続人の財産(プラスだけでなくマイナスの財産も含む)を一切引き継がない意思表示であり、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述します。
数次相続では、一次相続を承認し、二次相続だけ放棄することは原則できません。一次相続での承認は、二次相続人に相続税申告の義務も引き継がれるため、放棄の順序と時期には特に注意が必要です。
判断に迷う場合や熟慮期間内に相続人が亡くなった場合は、二次相続の相続開始を知った日から3ヶ月以内に相続の承認又は放棄を判断する必要があるため、早めに司法書士などの専門家へ相談しましょう。
3-3. 遺産分割協議
数次相続における遺産分割協議は、一次相続と二次相続の財産について、それぞれの相続人全員が合意する必要があります。
たとえば、父の死亡後に母が亡くなった場合、父の相続財産の一部は母に渡る予定でしたが、母が亡くなったことでその分は母の相続人が引き継ぎます。そのため、父と母のそれぞれの遺産についての遺産分割協議が必要になりますが、同時に行うことも可能です。
相続人の顔ぶれが同じ場合は、同時に協議を進めるほうが効率的ですが、異なる場合は分けて協議するほうがトラブルを避けやすくなるでしょう。協議の進行には相続関係の全体像を明確にしたうえで進めることが重要です。
3-4. 遺産分割協議書の作成
数次相続では、一次相続と二次相続それぞれの遺産分割協議書を別々に作成するのが一般的です。
一次相続における協議書では、「相続人兼被相続人」となる人物の立場や、実際に遺産を承継する二次相続人の肩書きに注意して記載します。たとえば、母が「父の相続人」かつ「二次相続の被相続人」である場合、その後の相続人である子は「相続人兼母の相続人」と記載する必要があります。
正確な肩書きや相続関係を反映させ、金融機関や法務局での手続きに支障が出ないようにすることが重要です。
協議書には、被相続人の氏名・死亡日・最後の住所、最後の本籍、相続人全員の情報、財産の分割方法、全員の署名押印が必要です。書類の法的効力を担保するためにも、慎重かつ丁寧に記載しましょう。
3-5. 相続税申告
数次相続が発生した場合、一次相続の相続税申告・納税義務は、二次相続の相続人に引き継がれます。
たとえば、父の相続税申告前に母が死亡した場合、母の相続人(子など)が父の分の申告も行う必要があります。この際、申告期限は「一次相続の相続開始を知った日」ではなく、「二次相続の発生を知った日」から10ヶ月以内に延長されます。ただし、延長が認められるのはあくまで二次相続人のみで、ほかの相続人には適用されません。
さらに、相続税の基礎控除は相続開始時の法定相続人の数で算出され、数次相続が起きても控除額は増加しません。税負担を軽減するためには、相次相続控除や特例の適用を視野に入れた申告が求められます。
3-6. 相続登記
不動産の名義変更を行う相続登記も、数次相続では2回分の登記が必要になるのが基本です。
通常は、一次相続(例:祖父から父)を登記し、そのあとに二次相続(父から子)を行います。しかし、中間の相続人が単独で財産を相続していた場合は、「中間省略登記」という方法で、最終相続人への一括登記が可能になるケースもあります。
たとえば、父が1人で祖父の財産を引き継いでいたなら、祖父から直接子どもへの登記が認められる場合があります。
相続登記は2024年の法改正により原則義務化され、相続を知った日から3年以内に手続きを行わないと過料の対象となります。複雑な登記には司法書士への相談がおすすめです。(参考:東京法務局|相続登記が義務化されました(令和6年4月1日制度開始)~なくそう所有者不明土地!~)
4. 数次相続における遺産分割協議書の書き方
数次相続では、遺産分割協議書の記載内容にも工夫が必要です。正しく作成しないと、後々の相続登記や税申告に支障が出るため、注意点を押さえておきましょう。
4-1. 作成方法は「まとめる」か「分ける」
数次相続の遺産分割協議書は、「一括でまとめて作成する方法」と「相続ごとに分けて作成する方法」があります。
相続人が同一である場合には、一括で記載することで手続きを簡略化できます。一方、相続人が異なる場合は、それぞれの相続について別々に協議書を作成したほうが明確になるでしょう。
特に不動産や預貯金など財産の種類が多い場合は、協議内容を整理しやすい「分けて作成する方法」がおすすめです。トラブルを防ぐためにも、当事者の関係性や財産の性質をふまえ、適切な作成方法を選ぶことが重要です。
4-2. 被相続人と相続人の肩書きに注意
数次相続では、遺産分割協議書に記載する肩書きの使い分けが特に重要です。
たとえば、一次相続で父が亡くなり、協議前に母も亡くなった場合、母は「相続人兼被相続人」と記載します。そのうえで、子どもは「相続人兼母〇〇の相続人」と明記します。
このように、協議書には相続の重なりを正確に反映させた表記が求められます。肩書きの記載ミスは登記や相続税申告に支障をきたす可能性があるため、内容に不安がある場合は専門家に確認することをおすすめします。
4-3. 必要な記載項目は4つ
数次相続における遺産分割協議書では、以下の4項目を正確に記載する必要があります。
- 被相続人の氏名・死亡日・最後の住所・最後の本籍
- 相続人の氏名・住所・続柄
- 対象財産の詳細と分割内容
- 相続人全員の署名・押印
特に注意すべきは、財産の分割方法が具体的かつ明確であるかという点です。
「誰が・どの財産を・どの割合で取得するか」がはっきりしないと、金融機関や法務局で受理されない場合があります。
5. 数次相続における相続税申告のポイント
数次相続では、相続税申告にも特有のルールがあります。ここでは、申告期限の延長や控除の扱いなど、通常の相続とは異なる注意点やポイントを解説します。
5-1. 一次相続の納税義務は二次相続人が引き継ぐ
数次相続では、一次相続の納税義務が二次相続の相続人に引き継がれます。
これは、一次相続の相続人が申告前に亡くなった場合、代わりにその相続人の相続人(=二次相続人)が申告・納税義務を負うという仕組みです。
たとえば、父の相続手続き中に母が亡くなった場合、母が本来すべき申告は、子が引き継いで行う必要があります。
相続税の申告漏れや遅延を防ぐためにも、一次・二次の相続関係を整理し、適切に手続きを進めることが大切です。
5-2. 申告期限の延長は一部の相続人のみ対象
数次相続が発生すると、一次相続の相続税申告期限は、二次相続人に限って延長が認められる場合があります。
通常、相続税の申告期限は「相続の開始を知った日から10か月以内」とされていますが、一次相続の相続人が亡くなり、その子などが納税義務を引き継いだ場合、その引継者に限り、二次相続開始日から10か月以内に申告すればよいとされます。
ただし、ほかの相続人にこの延長は適用されません。対象者を誤らないよう、慎重な確認が大切です。
5-3. 相続税の基礎控除は一次相続開始時点で決まる
相続税の基礎控除は、「相続開始時点の法定相続人の数」に基づいて計算されます。
たとえば、一次相続時に相続人が3人いた場合は、基礎控除額は「3,000万円+600万円×3人=4,800万円」となります。この控除額は、あとから数次相続が発生して相続人が増減しても変更されません。
数次相続では相続関係が複雑になりやすいため、基礎控除の計算は相続発生時点の法定相続人に限定される点を理解しておく必要があります。
5-4. 相次相続控除の活用で二重課税を軽減できる
数次相続では、相次相続控除を活用することで相続税の二重課税を軽減できます。相次相続控除とは、一次相続から10年以内に二次相続が発生した場合に、一部の相続税を差し引ける制度です。
たとえば、父の財産を相続した母が5年後に亡くなった場合、母から財産を相続する子は、母が支払った相続税の一部を控除できます。
相次相続控除の適用により、過度な税負担を回避できる可能性があるため、条件に該当するかどうかを必ず確認しましょう。
6. よくある質問
ここでは制度の違いや必要書類など、数次相続に関するよくある質問を、Q&A形式で解説します。
Q1. 数次相続と相次相続の違いは何? |
A1. 数次相続は、相続手続きの途中で次の相続が発生し、手続きが重なってしまう状態を指します。一方、相次相続は、最初の相続が完了し、相続税も納付済みの状態で、10年以内に次の相続が起こるケースをいいます。 手続きの進行状況によって区別され、適用される控除や税務の扱いにも違いがあることを覚えておきましょう。 |
Q2. 数次相続と二次相続の違いは何? |
A2.「二次相続」とは、一次相続で相続人となった配偶者が亡くなったときに発生する相続のことをいいます。たとえば、父の死を一次相続、続いて母が亡くなった場合が二次相続となります。 一方「数次相続」は、一次相続の手続きが完了していない段階で次の相続が発生し、相続が重複している状態を指します。二次相続は通常の手続きですが、数次相続は手続きが複雑になる点が大きな違いです。 |
Q3. 数次相続で必要な戸籍はどこまで集めればよい? |
A3. 一次・二次それぞれの被相続人について、出生から死亡までの戸籍謄本を揃える必要があります。加えて、相続人全員の戸籍謄本(または戸籍全部事項証明書)も必要です。 相続が複数重なると、戸籍の収集量も増えるため、記載漏れや取得漏れがないよう慎重に確認することが大切です。 |
7. 数次相続は通常の相続以上に早期対応が重要!
数次相続は、通常の相続に比べて手続きが複雑化しやすく、相続人の範囲も広がることから、早期の対応と正確な判断が非常に重要です。
しかし、相続人調査や遺産分割協議書の作成、相続税申告など、すべてを独力で進めるのは困難であるうえ、誤った判断がトラブルや納税ミスにつながるおそれもあります。
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