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遺産相続における預貯金の正しい分け方とは?3つの方法と注意点を徹底解説

遺産相続における預貯金の正しい分け方とは?3つの方法と注意点を徹底解説

遺産相続において預貯金は、重要な相続財産のひとつです。また、預貯金は原則として相続人の単独で自由に引き出せるものではなく、遺産分割協議による合意を得なければなりません。本記事では、預貯金相続の基本ルールから、具体的な分け方の方法、手続きの流れ、注意点までを網羅的に解説します。トラブルを防止して円滑な手続きを行うために、正しい知識と早めの準備を進めましょう。

この記事を要約すると

  • 預貯金は遺産分割協議の対象であり、原則として相続人全員の合意がない限り単独で払い戻すことはできません。
  • 預貯金の分け方は相続人間の話し合いである遺産分割協議で柔軟に決められます。
  • 仮払い制度や仮処分申立ても活用できますが、相続放棄リスクや手続きミスを防ぐため、専門家への速やかな相談が重要です。

1. 遺産相続における預貯金の分け方の基本ルール

預貯金は重要な相続財産のひとつであって、分け方には基本的なルールがあります。まずは、預貯金がどのように扱われるのか、押さえておきたいポイントを解説します。

1-1. 預貯金も遺産分割の対象になる

預貯金は、現金や不動産と同じく遺産分割の対象となります。

かつては、預貯金は法定相続分に応じて当然に分割され、各相続人が単独で払い戻しを受けることができると考えられていました。しかし、平成28年12月19日の最高裁判決により、預貯金もほかの遺産と同様に、遺産分割協議の対象に含まれると明確にされました。これにより、たとえ自分の法定相続分に相当する額であっても、相続人全員の同意がなければ勝手に引き出すことができなくなりました

相続人間で適切な分割協議を行い、全員が合意したうえで手続きを進める必要がある点に注意しましょう。

1-2. 預貯金は遺産分割後にしか払い戻しができない

被相続人が亡くなると、金融機関はその事実を把握した時点で預貯金口座を凍結します。凍結後は、原則として遺産分割協議が成立しない限り、預貯金の払い戻しはできません。

たとえ相続人であっても、単独で自由に引き出すことは認められていません。これは、預貯金が相続人全員の共有財産となるためです。

なお、生活費や葬儀費用の支払いに困る場合は、仮払い制度を利用して一定額まで引き出すことは可能ですが、いずれにしても、正式な遺産分割を経てから預貯金を取得する流れが基本であることを理解しておきましょう。

2. 遺産相続における預貯金の分け方

預貯金の分け方にはいくつかの方法があり、相続人間で最適な方法を選ぶことが重要です。ここでは、代表的な3つの分け方について、それぞれの特徴を紹介します。

2-1. 1人が預貯金を取得し、代償金で他の相続人に清算する方法

相続人のうち1人が特定の財産を取得し、その代わりに他の相続人へ代償金を支払って取り分を調整する方法を、代償分割といいます。

不動産のように分割しにくい財産の相続の際に利用されることの多い分割方法ですが、状況によっては預貯金の相続でも活用されます。

たとえば、預貯金1,500万円と有価証券500万円の遺産を、長男と次男の2人で分けるケースを考えてみましょう。ここで兄が預貯金1,500万円を取得し、弟が有価証券500万円を受け取る場合、兄が弟に500万円の代償金を支払えば、相続分は1,000万円ずつで公平に調整できます。

なお、代償分割は手続きの進め方や書類の作成に一定の知識が求められるため、判断に迷う場合は専門家の助言を受けながら進めるのがおすすめです。

2-2. 預貯金を複数人で分ける方法

預貯金を複数人で分ける方法として、各相続人の口座に分割した預貯金を振り込みで受け取る方法があります。

たとえば、法定相続分に従って2分の1ずつ分ける場合、被相続人の口座から相続人ごとの指定口座へ、それぞれの取り分を振り込む手続きを行います。

金融機関によっては、各相続人の口座への直接振り込みに対応していない場合もあるため、その際は代表相続人の口座に全額を振り込んでもらい、各相続人に分配する流れになります。この場合、振込手数料や分配手続きに関する取り決めを遺産分割協議書に明記しておくと、後々のトラブル防止につながります。

2-3. 複数口座を口座単位で分ける方法

被相続人が複数の預貯金口座を保有していた場合、口座ごとに相続人へ分ける方法もあります。たとえば、A銀行の口座は長男、B銀行の口座は長女が相続する、といった形です。

この方法では、各相続人がそれぞれ指定された口座の手続きを行うため、代表相続人の負担が軽減されるメリットがあります。ただし、口座ごとの残高に差がある場合は、不公平感が生じる可能性があります。

不動産やほかの財産と合わせて調整するか、代償金を支払って公平を図る方法も検討するとよいでしょう。

3. 預貯金を相続するときの流れ

預貯金を相続するには、一定の流れに沿って手続きを進める必要があります。相続手続きの全体像を把握し、スムーズに進めるための基本ステップを確認していきましょう。

3-1. 相続人を確定する

預貯金の相続手続きを行うためには、まず誰が相続人にあたるのかを確定する必要があります。

相続人は民法で定められており、配偶者は常に相続人となり、そのほかは子、親、兄弟姉妹の順に決まります。被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本をすべて取り寄せることで、法定相続人を正確に確認できます。

遺言書がある場合は、法定相続人以外の人物が指定されている可能性もあるため、遺言書の有無もあわせて確認しましょう。

3-2. 預貯金口座と残高を調査する

相続人を確定したら、次に被相続人が保有していた預貯金口座とその残高を調査します。通帳やキャッシュカード、取引履歴などを手がかりに、金融機関へ問い合わせを行いましょう。

なお、この問い合わせの時点で被相続人が亡くなったことを金融機関が確認するため、該当の口座は凍結されます。原則として、遺産分割が完了するまで一切の取引はできなくなることを覚えておきましょう。

残高証明書の発行を依頼する際は、被相続人の死亡を証明する戸籍謄本や相続人であることを示す書類が必要です。漏れなく財産を把握するために、複数の金融機関にわたる場合も丁寧に調査を進めることが大切です。

3-3. 遺産分割協議で分け方を決める

預貯金口座と残高が確認できたら、相続人全員で遺産分割協議を行い、預貯金の分け方を決定します。協議では、誰がどの財産を相続するか、どの分割方法を採用するかを話し合います

預貯金は現金化しやすい財産であるため、法定相続分どおりに分けるだけでなく、代償分割や口座単位での分割など柔軟な対応が可能です。協議は必ず相続人全員で合意を得ることが必要であり、合意できない場合は調停などの手続きを検討する必要があります。

3-4. 遺産分割協議書を作成する

遺産分割協議で合意に至ったら、遺産分割協議書を作成します。預貯金の相続手続きでは、金融機関から遺産分割協議書の提出を求められるため、適切な作成が欠かせません。

遺産分割協議書には、相続人全員の署名と実印による押印が必要です。口座名義や支店名、口座番号など預貯金の特定情報も明記します。金額の記載は任意ですが、誤差が生じるリスクを避けたい場合は省略する選択も可能です。不備があると手続きが遅れるため、慎重に作成しましょう。

3-5. 金融機関で預貯金の相続手続きをする

遺産分割協議書の作成が完了したら、いよいよ金融機関で預貯金の相続手続きを行います。各金融機関に連絡し、相続手続きの申し出を行ったうえで、所定の手続きに沿って被相続人名義の口座の解約手続きを進めましょう。

金融機関によって対応や流れが異なるため、あらかじめ必要な手順を確認しておくとスムーズです。手続き完了までには一定の時間がかかるため、余裕をもって進めることをおすすめします。

4. 預貯金の遺産相続に必要な書類

預貯金の相続手続きでは、金融機関に対して所定の書類を提出する必要があります。必要書類は共通している部分もありますが、金融機関によって若干異なる場合があるため、事前に確認しておきましょう。

一般的に求められる書類は以下のとおりです。

  • 遺産分割協議書(相続人全員の署名・実印押印があるもの)
  • 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡までの連続したもの)
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 相続人全員の印鑑登録証明書
  • 金融機関所定の相続手続依頼書
  • 相続人の本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)

遺言書がある場合は、遺言書と検認済証明書(公正証書遺言を除く)も提出が求められます。

また、遺言執行者が指定されているときは、遺言執行者の印鑑登録証明書や選任審判書も必要になることがあります。手続きがスムーズに進むよう、早めに書類を準備しておきましょう。

5. 預貯金の相続手続きで気をつけたいポイント

預貯金の相続では、手続き上の注意点やトラブルを防ぐためのポイントを押さえておくことが大切です。ここでは、特に気をつけたいリスクと対策についてまとめます。

5-1. 相続人の単独引き出しによるトラブルを防ぐ

口座名義人が死亡したことを金融機関が知った時点で預貯金口座は凍結され、原則として一切の取引ができなくなります。なお、預金口座が凍結される前に一部の相続人が勝手に預金を引き出してしまうと、ほかの相続人との間で重大なトラブルに発展しかねません。

預貯金は遺産分割協議を経て、正式に分けるべき財産です。単独での引き出し行為は、不当利得や不法行為として損害賠償請求の対象になる可能性もあります。

防止策として、被相続人が亡くなったら速やかに金融機関へ連絡し、口座を凍結しておくことが重要です。

5-2. 仮払い制度の利用と相続放棄リスクに注意する

前述のとおり被相続人名義の預貯金は、原則として遺産分割が完了するまで引き出すことができません。しかし、生活費や葬儀費用が必要な場合には、「仮払い制度」を利用して一定額を引き出すことが認められています。 

仮払い制度を利用できる金額は、次のうち低いほうとなります。

  • 相続開始時点での預貯金残高×1/3×各法定相続分
  • 金融機関ごとに上限150万円 

ただし、仮払い制度を利用すると、その相続人が単純承認したとみなされ、相続放棄ができなくなる場合があります。特に、被相続人に債務があるケースでは、慎重な判断が必要です。

5-3. 仮払いでは不足する場合の仮処分申立ても検討する

預貯金の仮払い制度では、払い戻しできる金額に上限(各金融機関ごとに150万円)が設定されています。葬儀費用や医療費など高額な支払いが必要な場合、この限度額では足りないこともあります。

そのような場合には、「仮分割の仮処分」を家庭裁判所に申し立てる方法があります。仮処分が認められれば、裁判所の判断により必要な資金を引き出すことが可能になります。

仮処分を申し立てるには、弁護士への相談が望ましいでしょう。

5-4. 遺産分割協議後にやり直しが発生するリスクを理解する

一度成立した遺産分割協議でも、新たな遺産が発見された場合には、再度協議が必要になることがあります。特に預貯金以外にも不動産や株式が存在していた場合、見落とされるケースも珍しくありません。

協議のやり直しが発生すると、再度、相続人全員の同意が必要となり、時間や労力が大きな負担になります。遺産分割協議を行う前には、可能な限り財産調査を徹底して行うことが重要です。

6. よくある質問・Q&A

預貯金の相続に関して、よく寄せられる質問をまとめました。トラブル回避やスムーズな手続きのために、あらかじめ知っておきたいポイントをQ&A形式で解説します。

Q1. 預貯金の遺産相続で家族が揉めやすいケースは?
A1. 預貯金の遺産相続でも、家族間で揉めるケースは少なくありません。特に以下のような状況ではトラブルに発展しやすくなります。
 ・家族間の仲が悪い、または疎遠
 ・生前贈与や介護負担に偏りがある
 ・特定の相続人が財産管理をしていた
 ・遺言書の内容が不公平
 ・想定外の相続人が現れた
 ・相続人の人数が多い
こうしたリスクを防ぐためには、相続開始前から家族間で情報共有を行ったり、専門家に相談して適切な対策を講じることが重要です。
Q2. 遺産分割協議で預貯金の分け方は自由に決められる?
A2. 遺産分割協議では、預貯金の分け方を相続人全員の合意により自由に決めることができます。必ずしも法定相続分に従う必要はなく、相続人同士の話し合いで取り分や方法を柔軟に調整できます。たとえば、「すべての預貯金を一人が取得し、代わりに他の相続人へ代償金を支払う」といった方法も可能です。ただし、協議が成立するには相続人全員の同意が必須となります。誰か一人でも反対すると協議は無効となるため、慎重に進めましょう。
Q3. 預貯金の相続に期限はある?
A3. 預貯金の相続手続き自体に期限はありません。ただし、相続税の申告が必要な場合は、被相続人が亡くなった日から10ヶ月以内に手続きが必要です。また、金融機関によっては長期間手続きを放置すると口座が休眠口座扱いになることもあります。早めに対応するのが安心です。
Q4. 預貯金が2,000万円ある場合、相続税はかかる?
A4. 預貯金が2,000万円ある場合でも、相続財産の合計が基礎控除額(3,000万円+法定相続人の数×600万円)以下であれば相続税はかかりません。預貯金だけではなく、不動産などほかの財産と合わせた合計額で計算しますので、全体の財産額を確認しておきましょう。

7. 預貯金の相続は正しいルール理解と準備がカギ

預貯金を相続する際は、基本ルールを正しく理解し、適切な準備と手順を踏むことが重要です。特に預貯金は遺産分割協議が成立するまで原則引き出せないため、相続人間で合意形成が欠かせません。

しかし、相続人調査や遺産分割協議書の作成、相続税申告など、すべてを自力で進めるのは困難であるうえ、誤った判断がトラブルや納税ミスにつながる可能性もあります。

そこで、司法書士や税理士といった相続に強い専門家に相談することで、手続きを確実かつスムーズに進めることが可能です。
相続手続きの専門集団「nocos(NCPグループ)」では、各分野の専門家が連携し、数次相続のような複雑なケースにも対応しています。初回のご相談は無料。オンライン対応も可能なので、まずはお気軽にお問い合わせください。

正木 博

保有資格・・・司法書士・行政書士・社会保険労務士・宅地建物取引士
得意分野・・・相続全般(特に遺言・相続手続きなど)

年間約30件ほどのセミナーを行い、
これまで携わった相続手続き累計件数 5,000件以上

宮城県司法書士所属 登録番号 宮城 第769号

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