この記事を要約すると
- 相続人が行方不明の場合、遺産分割協議が進められず、相続手続きが滞ります。まずは戸籍の附票や住民票で所在を確認し、それでも見つからなければ、不在者財産管理人の選任や失踪宣告を検討し、適切な方法で相続を進めます。
- 行方不明の相続人がいる場合、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てることで代理人を立て、遺産分割協議を進められます。また、生死不明が7年以上続く場合は、失踪宣告を申し立て、法的に死亡とみなし相続手続きを確定できます。
- 戸籍の附票取得は300円程度、弁護士を代理人に立てた場合の着手金は20万~50万円、遺産分割調停の申し立ては1,200円+郵便切手代がかかります。不在者財産管理人の選任手続きには10万~30万円が必要となる場合があります。
1. 相続人が行方不明だと相続手続きはどうなる?
相続人の中に行方不明者がいる場合、遺産分割協議が成立せず、相続手続きが滞ることがあります。遺産分割協議には、相続人全員の同意が必要なため、行方不明者を除外して進めることはできません。
ここでは、相続手続きがどのような影響を受けるのか、また、どのような解決策があるのかを解説します。
1-1. 遺産分割協議は相続人全員の合意が必要
遺産分割協議とは、相続財産をどのように分配するかを決める話し合いのことです。相続人が複数いる場合、全員の合意がない限り協議は成立しません。そのため、行方不明者がいると協議が進められず、遺産分割協議書も作成できません。これにより、財産の名義変更や銀行口座の解約ができなくなります。
1-2. 行方不明の相続人がいる場合の主な問題点
① 相続財産を自由に処分できない
遺産分割協議が成立しないと、不動産の売却や活用、預貯金の引き出しができません。不動産がそのまま放置されると、管理の負担が増し、売却の機会を逃してしまう可能性があります。
② 相続税の申告期限を過ぎるリスク
相続税の申告期限は相続開始から10か月以内です。遺産分割協議が進まなければ、相続税の支払いが遅れ、延滞税や加算税が発生する可能性があります。行方不明者の影響で手続きが滞らないよう、早めの対応が必要です。
③ 共有名義での相続登記のデメリット
行方不明者がいるまま、法定相続分で共有名義の相続登記を行うことは可能ですが、その場合、所有者が複数人になるため、財産の管理や処分が難しくなります。例えば、不動産を売却する際には全共有者の同意が必要ですが、行方不明の相続人がいる場合、この手続きが困難になります。
1-3. 相続人が見つからない場合の対応策
行方不明の相続人が見つからない場合、家庭裁判所に申し立てを行い、適切な法的手続きを取ることが必要です。主に以下の2つの方法が考えられます。
① 不在者財産管理人の選任
行方不明者の代理人として、不在者財産管理人を家庭裁判所に申し立てて選任することで、相続手続きを進めることができます。不在者財産管理人が相続人の代わりに遺産分割協議に参加し、財産の管理を行います。
ただし、裁判所の許可が必要で、選任まで3~6か月程度かかることがあります。
② 失踪宣告の申し立て
行方不明者が7年以上生死不明の場合、家庭裁判所に申し立てを行い、法律上死亡とみなす「失踪宣告」を受けることができます。これにより、通常の相続手続きが可能になります。
ただし、失踪宣告が確定するまでに1~2年かかることがあるため、早めに検討することが重要です。
2. 行方不明の相続人を探す方法と費用
相続人が行方不明の場合、遺産分割協議を進めるためには、まず所在を特定することが重要です。
ここでは、相続人を探すための具体的な方法と、連絡が取れなかった場合の対応策、専門家に依頼する際の費用について解説します。
2-1. 戸籍の附票で住所を特定し、手紙を送る
行方不明の相続人を探す方法の一つとして、戸籍の附票を取得して最新の住所を特定することが有効です。戸籍の附票には、本籍がある間の住所履歴が記録されており、直近の住所を確認できます。
【取得方法】
- 請求できる人:相続人や利害関係者(法定相続人など)
- 請求先:行方不明者の本籍地の市区町村役場
- 手数料:1通 300円程度
- 所要時間:即日~数日
住所が判明したら、手紙を送って相続について連絡を取ります。
【手紙を送る際のポイント】
- 相続が発生したことと手続きが必要であることを簡潔に伝える
- 相続関係が分かる資料(相続関係説明図など)を添付する
- 財産内容の詳細は記載せず、相続手続きが必要であることを伝える
- 連絡先(電話番号やメールアドレス)を明記し、返答を促す
- 普通郵便ではなく、簡易書留や内容証明郵便で送付すると確実
2-2. 手紙が届かなかった場合の対応
手紙を送ったものの、宛先不明で返送された場合は、行方不明者の住所がすでに変更されている可能性があります。このような場合、相続手続きを進めるためには、家庭裁判所に以下の手続きを申し立てます。
- 不在者財産管理人の選任(代理人を立てて相続手続きを進める)
- 失踪宣告の申し立て(長期間生死不明の場合、法的に死亡とみなす)
これらの手続きを利用すれば、行方不明の相続人が見つからなくても、相続を進めることができます。
2-3. 手紙は届いたが、返信がない場合の対応
手紙が届いても、行方不明の相続人から返信がない場合は、次の方法で対応します。
① 弁護士を代理人に立てて交渉する
相続人が手紙を受け取っても応答しない場合、弁護士を代理人に立てて交渉することも可能です。弁護士が代理で連絡を取り、相続手続きに応じてもらうよう説得します。
- 費用相場:10万~30万円(依頼内容による)
- メリット:相手が法的な専門家からの連絡には応じやすくなる
② 家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる
弁護士による交渉でも解決しない場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、裁判所を介して手続きを進めることができます。
- 申立人:他の相続人
- 費用:1,200円程度(収入印紙代)+郵便切手代
- 期間:3~6か月程度
- メリット:裁判所の関与により、相続人が話し合いに応じる可能性が高まる
【調停手続きを弁護士に依頼した場合の費用相場】
- 着手金:20万~50万円(財産額による)
- 報酬金:30万~100万円(獲得した遺産の割合に応じる)
- その他の費用:実費(郵便代、交通費、書類作成費用など)
※ 財産の規模や弁護士の料金体系によって異なるため、事前に見積もりを確認することが重要です。
遺産分割調停でも解決しない場合は、最終的に遺産分割審判(裁判所の判断で遺産の分配を決める)へ進むことになります。行方不明の相続人と連絡が取れない場合は、弁護士や司法書士に相談し、適切な手続きを進めることが重要です。
3. 相続人が見つからない場合の対処法
相続人を探しても見つからない場合、遺産分割協議を進めることができず、相続手続きが滞ってしまいます。このような状況を解決するためには、家庭裁判所への申し立てが必要になります。ここでは、行方不明の相続人が見つからない場合の具体的な対応方法について解説します。
3-1. 不在者財産管理人の選任
行方不明者がいるままでは遺産分割協議が進まないため、その代理人として「不在者財産管理人」を選任することができます。この制度は、不在者の利益を保護する制度です。不在者財産管理人は、行方不明者の財産を管理する役割を持ちます。そして、家庭裁判所の許可を得て、不在者の代理人として遺産分割協議に参加することができます。
① 申し立ての流れ
- 不在者の従前の住所地または居所地の家庭裁判所に申し立て(申立人は他の相続人や利害関係者)
- 裁判所が不在者財産管理人を選任(親族や弁護士、司法書士が担当することが多い)
- 管理人が代理で遺産分割協議に参加
- 家庭裁判所の許可を得た後、遺産分割を実行
② 申し立てに必要な書類
- 不在者の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 不在者の戸籍附票
- 財産管理人候補者の住民票又は戸籍附票
- 不在の事実を証する資料
- 不在者の財産に関する資料(不動産登記事項証明書,預貯金及び有価証券の残高が分かる書類(通帳写し,残高証明書等)等)
- 利害関係人からの申立ての場合,利害関係を証する資料(戸籍謄本(全部事項証明書),賃貸借契約書写し,金銭消費貸借契約書写し等)
③ 期間と費用
- 期間:3~6か月
- 費用:裁判所への手数料数千円+管理人報酬(10万~30万円程度)
不在者財産管理人の選任により、相続人全員が揃わなくても不在者財産管理人が不在者に代わって協議に参加することで遺産分割を進めることが可能になります。
3-2. 失踪宣告の申し立て
行方不明者が7年以上生死不明の場合、家庭裁判所に「失踪宣告」を申し立てることで、法律上「死亡」とみなすことができます。この制度は、不在者を死亡とみなすことで相続人等の残された人たちの利益を保護する制度です。これにより、相続人が確定し、遺産分割協議を進めることができます。
① 申し立ての流れ
- 不在者の従前の住所地または居所地の家庭裁判所に失踪宣告を申し立てる
- 裁判所が官報公告を行い、行方不明者が名乗り出る機会を与える(約1年)
- 異議申し立てがなければ、失踪宣告が確定
- 行方不明者は法律上「死亡」となり、申立人は市区町村役場に失踪の届出をする
② 申し立てに必要な書類
- 不在者の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 不在者の戸籍附票
- 失踪を証する資料
- 申立人の利害関係を証する資料(親族関係であれば戸籍謄本(全部事項証明書))
③ 期間と費用
- 期間:1~2年
- 費用:3,000円~1万円(収入印紙代800円分、官報公告料)
失踪宣告が確定すると、行方不明者の法定相続人が代わりに財産を受け取ることになり、相続手続きを進めることができます。ただし、後に本人が生存していた場合、相続財産の返還義務が生じることがあります。
3-3. どちらの方法を選ぶべきか?
方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
不在者財産管理人 の選任 | 比較的早く手続きが進められる | 裁判所の許可が必要 管理人報酬が発生 |
失踪宣告 | 相続が確定し、財産を処分しやすくなる | 7年以上経過している必要がある 確定まで1年以上かかる |
行方不明者の失踪期間が短い場合や生存していることが明らかな場合は不在者財産管理人の選任を、長期間(7年以上)不明で要件を満たしている場合は失踪宣告を検討するとよいでしょう。
4. 相続人が行方不明でも相続登記はできる?
相続人の中に行方不明者がいる場合でも、一定の条件を満たせば相続登記(不動産の名義変更)を行うことは可能です。遺言書の有無や相続方法によって登記の進め方が異なるため、それぞれのケースについて解説します。
4-1. 遺言書がある場合の相続登記
行方不明の相続人がいても、被相続人(亡くなった人)が遺言書を残していた場合は、遺言の内容に従って相続登記を進めることができます。
① 公正証書遺言がある場合
- 家庭裁判所の検認が不要のため、速やかに相続登記が可能
- 遺言執行者が指定されている場合は、その人が手続きを進める
- 行方不明者がいても、遺言通りに相続登記が完了する
② 自筆証書遺言・秘密証書遺言がある場合
- 家庭裁判所の検認手続きが必要
- 検認後、遺言の内容に従って相続登記を申請
- 法務局の「自筆証書遺言保管制度」を利用していた場合は検認不要
③ 遺言書の内容が不動産の取得者を特定している場合
- 例:「長男〇〇に不動産を相続させる」と記載されている場合、長男名義で相続登記が可能
- 遺言の内容が曖昧で、全相続人で協議が必要な場合は、行方不明者がいると手続きが進まない
【遺言書がある場合のポイント】
- 登記の際に遺産分割協議は不要
- 遺言執行者がいれば手続きがスムーズ
- 検認が必要なケースでは時間がかかる
4-2. 法定相続分で相続登記を行う
遺言書がなく、遺産分割協議もできない場合、法定相続分に従って相続登記を行うことが可能です。
① 共有名義で相続登記を行う
行方不明者がいると遺産分割協議ができませんが、法定相続分に従い、相続人全員の共有名義で登記を進めることができます。
例:被相続人Aの相続人が「妻B、長男C、次男D(行方不明)」の場合
法定相続分:妻B(1/2)、長男C(1/4)、次男D(1/4)
→この割合で不動産の相続登記が可能
② 共有名義で登記する際の注意点
- 行方不明者の持分もそのまま登記される(売却や処分ができない)
- 共有者全員の同意がなければ不動産を動かせない
- 管理や維持が困難になる可能性がある
【法定相続分で登記する場合のポイント】
- 行方不明者がいても登記は可能だが、共有名義になる
- 売却や活用が難しくなるため、将来的な問題を考慮する必要がある
- 遺産分割協議ができない場合の暫定的な手段
行方不明の相続人がいる場合でも、遺言書がある場合は、行方不明者がいても比較的スムーズに相続登記を進めることができます。一方、遺言書がなく遺産分割協議もできない場合は、法定相続分での登記が可能ですが、後の手続きが煩雑になるため、慎重に判断する必要があります。
5. 適切な対応を選び、スムーズな相続手続きを
行方不明の相続人がいる場合、まずは所在を特定し、それでも見つからなければ法的手続きを検討する必要があります。相続登記は可能ですが、状況に応じて慎重に判断しなければなりません。
また、相続人が行方不明になる可能性がある場合、遺言書を作成することで、後々の手続きを簡単にすることができます。今後のトラブルを避けるためにも、事前の準備を心がけることが大切です。
6. よくある質問
Q1. 相続人が行方不明でも遺産分割協議はできますか? |
A1. 遺産分割協議は相続人全員で行う必要があるため、行方不明者がいる場合は進められません。まずは戸籍の附票を取得して住所を特定し、手紙で連絡を試みます。連絡が取れない場合は、不在者財産管理人の選任を申し立てることで、代理人を立てて協議を進めることが可能です。 |
Q2. 相続人が行方不明の場合の相続登記はどうなりますか? |
A2. 遺言書があれば、行方不明者がいても遺産分割協議は不要で相続登記が可能です。また、法定相続分に基づく共有名義での登記は可能ですが、売却や処分には全員の同意が必要となり、実質的な活用が難しくなります。不在者財産管理人の選任を経て登記を進める方法もあります。 |
Q3. 行方不明の相続人を探す方法はありますか? |
A3. まずは戸籍の附票を取得して住所を特定し、手紙を送るなどして連絡を試みます。連絡が取れない場合は、共通の親族や知人に聞き取りを行い、所在の手がかりを探します。それでも見つからない場合は、家庭裁判所の手続きを通じて、代理人の選任や失踪宣告を検討します。 |
Q4. 相続人が行方不明の場合、どのような裁判手続きが必要ですか? |
A4. 家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てることで、代理人が遺産分割協議に参加できます。また、行方不明者の生死が7年以上不明の場合は、失踪宣告を申し立てることで、法的に死亡とみなし相続手続きを進めることが可能です。 |
Q5. 行方不明の相続人を探すのに費用はどれくらいかかりますか? |
A5. 戸籍の附票取得は300円程度、弁護士を代理人に立てる場合の着手金は20万~50万円、遺産分割調停の申し立て費用は1,200円+郵便切手代です。不在者財産管理人の選任には10万~30万円かかることがあります。弁護士費用は状況に応じて異なるため、事前に見積もりを確認すると安心です。 |
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